[東京 28日 ロイター] - 日米防衛協力の指針(ガイドライン)の改定は、米国が「リバランス(再均衡)」という安全保障政策のパズルを組み立てる上で欠かせないピースだった。
中国が存在感を増す中、米国は自国の軍事力を増強するのではなく、地域の主要な同盟国を利用してアジアのパワーバランス(力の均衡)を維持しようとしている。極東を超えて役割が広がる自衛隊は、オーストラリアなどともにその戦略を支えることになる。
<豪潜水艦も米リバランスの流れ>
2度目となる今回のガイドライン改定と、日本の安全保障法制の整備は、米国が世界的に安全保障政策を変更する中で作業が進んできた。
アフガニスタン、イラクでの戦争を経験した米国では、厭戦(えんせん)ムードが広がるとともに、軍事予算が大幅に削減されている。一方、経済成長著しい中国が、軍事力を急速に増強。海洋進出を強め、南シナ海でフィリピンとベトナム、東シナ海で日本との関係が不安定化している。
アジア重視を掲げるオバマ政権は、同地域に軍事力を傾斜配分するリバランス政策を打ち出したものの、クリミア半島や中東の問題に追われ、前方展開の兵力を大幅に増やすことは困難な情勢にある。
その中で中国の台頭をけん制するため、主要な同盟国に負担増を求めるとともに、同盟国同士の関係も強めようとしている。
日本の防衛相経験者によると、日本はその戦略を支える重要な同盟国のひとつで、ほかにオーストラリア、インド、韓国が役割を期待されている。「明文化された覚書があるわけではないが、南シナ海では米国と日本、オーストラリアが一緒になって、東南アジア諸国を支援する。これが3カ国の基本的な安全保障政策だ」と、同氏は話す。
インド洋はオーストラリアとインドが、東シナ海は日本と韓国が、それぞれ米国と連携しながらパワーバランスを崩さないようにすることが求められているという。
オーストラリアの次期潜水艦の調達先として、日本が有力視されるのはこの文脈の中にある。オーストラリアは戦闘指揮システムは米国製を採用することを決めており、船体とエンジンを日本が提供して共同開発することで米豪日の関係が深まると、3カ国の関係者は口を揃える。フランスとドイツも潜水艦を売り込もうとしているが、「安全保障の戦略上、意味があるのは日本」だと、関係者の1人は言う。
<日韓関係が不安定要因>
もともと日米ガイドラインは、米国の戦略変更に伴って形作られてきた経緯がある。最初に作られたのは1978年。ベトナム戦争を経て米国の力が相対的に低下する一方、自衛隊の能力が向上したことを受け、日本がソ連から武力侵害を受けた場合を想定して協力の枠組がまとめられた。
それから約20年後に1度目の改定が行われた。冷戦の終結で日本が直接武力攻撃を受けるリスクは低下したものの、朝鮮半島で北朝鮮の核開発問題が浮上、台湾海峡で中国と台湾の緊張が高まるなど、日本の周辺が不安定化していた。
米国は地域紛争への対応を重視し、極東有事が起きた場合の日米協力態勢がガイドラインに追加された。
今回は主に中国の台頭を念頭に再改定され、日米の協力は極東を超えて広がるが、米国がリバランスのパズルを組み立てる上でそろわないピースがある。日本と韓国の関係が改善しないことだ。
安保の連携を深めるには軍事情報を共有することが欠かせないが、紆余曲折を経て日韓が昨年末に締結したのは、情報を直接やりとりする軍事情報包括保護協定(GSOMIA)ではなく、米国を介す仕組みだった。
12カ国が採用する次期戦闘機F35のアジアの整備拠点は、日本とオーストラリアに決まったが、韓国は近隣の日本で自国機を整備することに難色を示している。
「東シナ海は日本、韓国と一緒にやると米国は考えているが、ここはうまくいっていない」と、前出の防衛相経験者は言う。
(久保信博 編集:田巻一彦)