放射線を巡る情報、押さえておくべきポイントは? 東大医師招き勉強会

震災から4年がたっても、医師らへの質問は「外遊びをさせても平気なの?」など、震災直後のものとほとんど変わっていない。放射線に関する情報について、何を学ぶべきなのか。
The Huffington Post

福島第一原発の事故からもう4年が経過しているのに、放射線について聞かれる質問は、震災当時と変わらない――放射線について学ぶ勉強会が6月11日、東京・目黒区で開催され、都内近郊などから27人が集まった。主催したのは、福島県南相馬市と目黒区で学習塾を経営する番場さち子さん(54)。震災直後から週の半分は南相馬市立総合病院で働いている東京大学医科学研究所(港区)の医師・坪倉正治(まさはる)さん(33)を講師に招き、放射線のことを考えるときに抑えておくべきポイントや、原発事故後の様々な調査で分かったこと、被災地の状況などを学んだ。

番場さんらは放射線に関する勉強会を、2011年12月から80回以上開催。参加するのはリピーターばかりではなく、初めて来る人も多く、延べ人数で8000を超えた。しかし、震災から4年がたっても、参加者から出る質問は、「外へ出た猫に触っても平気なの?」「外遊びはさせていいの?」など、震災直後に受けたものとほとんど変わっていない。これは、被災地への理解も進んでいないことを意味するのではないかと、番場さんらは指摘する。

私たちは、放射線に関する情報について、何を学ぶべきなのか。また、何がわかるようになるのか。

坪倉正治さん

■知りたい気持ちもバラバラ。伝えるべき」内容も、医師によってバラバラ。

坪倉さんは現在の状況について、知りたい側も伝える側も色々な考え方の人がおり、情報が入り乱れていると話す。例えば、2014年秋に相馬市や南相馬市の高校生に放射線について授業をしたときのことを、こう振り返る。

「放射線について、子供たちのなかでも意識や知識に差があります。100人に1人ぐらいは、『もう自分は子供が産めない』と言い出す子もいますし、3分の1は、子供を持つお母さんと同じように、不安そうな顔をする。他の3分の1は、『テレビでも大丈夫と言っているのだから大丈夫でしょ』といいますが、じゃあどう大丈夫なのかはよくわかっていない。そして残りの3分の1は『聞き飽きたし、どうでもいい』という態度を見せます」。

一方で、医師の間でも差があることを紹介。坪倉さんは週のうち月曜〜木曜は南相馬で、金、土曜日は東京で働くという生活だが、医師の中にも住んでいる地域によっても考え方に差があるとし、「子供へ放射線について教育するとしたら、何を伝えるべきか」を議論した際にも、「赤信号を渡れば事故にあうのと同じで、危ない場所には近づくなという“交通安全教室”をやればいい」という医師もいれば、「福島には原発が建てやすい状況があったという歴史的なことを教えるべき」という人、「凍土壁など、原発で行われていることを話せばいい」という人など、伝える側もバラバラな状態があることを説明した。

■何を学べば、何がわかるのか

そんな混沌とした状態のなか、「汚染水が漏れた」「甲状腺検査が行われた」など、福島第一原発の事故に関わるニュースは今でも毎日報じられる。これらの情報を読みとる基本になるものは、「内部被ばく」と「外部被ばく」の考え方だ。坪倉さんは勉強会で、生活の中やニュースの中で取り上げられる様々な数字を例にあげ、それぞれの情報について、どう考えればいいかを説明した。

「食べ物から放射性物質が検出された」などのニュースは、食べた後に体の中から影響するものなので、「内部被ばく」の強さを考える。このときは、「ベクレル」という単位を使って、食べ物の中に含まれる放射線の「強さ」で考える。「この食べ物には、どのくらいの強さを持つ放射線が含まれているのか」ということを、基本となる数字とニュースの中の情報とを比べることで、その内容を評価できるというわけだ。

基本となる数字についてまず知っておきたいのは、事故の前からも、食品の中には「放射線カリウム」という天然の放射性物質が含まれていることだ。500ミリリットルのビールなら5ベクレル。ポテトチップスなら40ベクレルが含まれており、震災前にも私たちは普通に摂取していた。

これらの放射性物質は排尿とともに体の外に出て行くものもあるが、原発事故でどのくらい増えているかを調べるためには、ホールボディカウンター(WBC)で検査すればわかる。「甲状腺検査」についても、内部被ばくを見るものなので、「ベクレル」の数字がどのくらい変わったかで判断できる。

一方で、「福島第一原発のそばを通る国道6号線が通れるようになった」というニュースは、空間中の放射性物質から体に受ける「外部被ばく」の量を考える。外部被ばくでは、「シーベルト」という単位を使って、体に与える影響を表すことができる。

この国道6号線を通って、南相馬市から、いわき市に野球の試合に行けば、片道2マイクロシーベルト、往復4マイクロシーベルトを浴びることになる(1マイクロシーベルトは1000分の1ミリシーベルト)。だいたい、飛行機で仙台から福岡まで移動した時に浴びる放射線量ぐらいになるのだと、坪倉さんは説明した。

このときも、地上に元から存在する天然の放射性物質の影響が、震災前はどのくらいあり、原発事故の影響でどのように変わったかを比較して考えなくてはならない。日本地質学会が発表している震災前の自然放射線量のデータを見ると、もともと東北では放射線量が低い。一方で、広島では放射線量が高いので原爆の影響を考えがちだが、これは、原爆ではなく花崗岩の影響だ。これらの外部被ばくは、「ガラスバッジ」というものを体に身につけて測定したり、空間の放射線量を図れる機械で測定したりする。

■被ばくだけが問題ではない

しかし、体への影響だけを考えてみても、被ばくだけが問題だとは限らない。住んでいる人の年齢、家族構成、政治的状況などで、考えるべきことも増えるので、国や自治体はそれらの状況も考えて政策を行う必要が出てくると、坪倉さんは指摘した。

「例えば、避難生活で家族構成が変わって老夫婦だけで住むようになると、手伝う家族がいなくなるので介護認定を求める人が増えました。これは、被災地にかぎらず、地方が抱える問題でもあります。

かといって、単純に住む人の年齢が若返ればいいという話ではありません。若い単身世帯が増えると食生活が悪化することも考えられ、原発関連の医療対策よりも糖尿病対策のほうが効果的という状況もあります。『命を守る』という基準で考えると、バランスが必要になるんですね。

また、政治的な問題も出てきます。川内原発の再稼働について、場合の万が一の対策についても検討が行われていますが、ヨウ素を配布すると単純に書かれていても、誰が配布を決めるのかまで考えておくべきです。ヨウ素のアレルギーを起こす人も出ることが予想されますが、それでも配布を決定するのは誰なのか、ということまでつめておかないと、いざ問題が起こったときに、誰も決断しないという状況も起こりえます」

■勉強会は「きっかけ」。

番場さんは、これからも定期的に勉強会を続ける予定だ。大規模な講演会ではなくミニ勉強会を続けることで、出てくる声や課題もわかるようになると話す。

「講演会では、声の大きな人に引きずられて、なかなか自分の不安を質問することもできません。こんなこと質問していいのかという思いもあるかもしれません。勉強会では、些細かもしれないと思うことでも、気軽に聞ける雰囲気を作れればと思います。気軽に質問して自分の不安を解消し、また別の人に自分の言葉で説明できる。そんなきっかけづくりを続けていけば、放射能に対する理解も、福島への理解も変わってくると思う」。

番場さち子さん

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【訂正】2015年6月12日 15:34

当初の記事で「1マイクロシーベルトは1000分の1シーベルト」と表記していましたが、正しくは「1マイクロシーベルトは1000分の1ミリシーベルト」でした。

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