「チャップリンからの贈りもの」 映画に出演した実の息子はどう思った?

チャップリン家の協力も得て、ドタバタ喜劇の末にほろりとさせる「チャップリン・ワールド」を21世紀に再現する試みと言えそうだ。

20世紀の喜劇王チャーリー・チャップリンの墓から遺体を掘り出し、「身代金」を要求する──。1978年に実際にあった事件をモチーフにした映画「チャップリンからの贈りもの」は、チャップリン家の協力も得て、ドタバタ喜劇の末にほろりとさせる「チャップリン・ワールド」を再現する試みと言えそうだ。

チャップリン死去から間もない1978年。スイス・レマン湖畔で暮らすオスマンは、日雇い労働で娘と妻を養う貧しい暮らしだった。移民のため、入院した妻の手術代が払えず悩むオスマンを見かねた親友のエディは、死んだばかりのチャップリンの棺を盗んで身代金を得ようと思いつく。悪戦苦闘の末に棺を掘り出したものの、身代金の要求はチャップリン家にけんもほろろに拒否され、計画は泥沼にはまり込んでいく。

実際の事件は、やはり生活に困っていた東ヨーロッパ出身の2人組が起こした。犯人から27回の身代金の電話を、娘で女優のジェラルディン・チャップリンが会話を引き延ばし、警察が逆探知して犯人を捕まえたという。

チャップリンの息子ユージン・チャップリンがサーカスの支配人役で、孫娘のドロレス・チャップリンも、チャップリンの娘役で出演している。撮影にはチャップリン一家が晩年に住んだスイスの邸宅や、チャップリンが実際に埋葬された墓地が使われた。「ライムライト」の場面に重なるラストシーンなど、映画にはチャップリン作品のシーンや音楽へのオマージュが多数盛り込まれている。

来日したユージン・チャップリンに、映画にまつわる舞台裏や父の思い出などについて聞いた。(※インタビューには、映画の結末に関する内容が含まれています

──脚本段階で、ユージンさんの方から何かリクエストはしたんですか?

あの事件は私たちにとっても嫌な記憶で、実は私たちはこの企画に最初は反対だったんだ。それをわかっていた監督は、私たちのためにプライベート試写会を開いてくれた。特に監督は、墓泥棒の2人がなかなか棺を掘り出せずに悪戦苦闘する場面で、ひょっとしたら私たちの心情を傷つけてしまうのではないかと思っていたようだけど、あまりに現実離れした場面だったから、そういうことはなかったね。

もちろんフィクションだから、執事が棺の横で歌うようなこともなかったわけだけど、本当は墓泥棒から謝罪の手紙が届いたのに対し、私の母が「気持ちは受け取りました。あなたたちを許します」という返事を書いたこともあったんだ。映画では描かれていないけどね。でも最後の手術代を払う場面は、チャップリンらしい世界観が描かれているな、と思ったよ。

──旧宅やお墓をロケ現場で提供するなど、映画撮影に全面協力しましたね。

今回の撮影は両親が生活していた村ですべて撮られたんだ。車も、警察の制服も当時のまま。自分たちが生きた1977年が再構築されるのを見るのは愉快な体験だったね。

監督からは最初「サーカスを見つけてほしい」と言われたので、コンサルタントとして協力するつもりだった。その後に「あなたが演じてほしい」と言われて驚いたよ。最初はためらったけど、出演するサーカスのメンバーも知っている仲間たちだったから、OKしたんだ。私自身はシャイな性格なので、スクリーンで自分の姿を見るのは嫌なんだけど、ドロレスと私が出演して、当時のチャップリン家が再現されたことに、完成した映画を見て「ああ、不思議な体験だったな」と思ったよ。

──お父さんはどういう存在でしたか?

子供のことは気にかけていて、いたずらしたらしかられたり、一緒に遊んでくれたり、という、実は平凡な父親だった。父が生まれて130年たつけど、未だに父のことを日本で話すことができるなんて、夢を見ているような気がする。私には7歳の双子の娘がいるけど、同世代の少年が「チャップリンの孫娘だ」と小声で言うのを聞くと、若い世代も知ってくれているんだな、とうれしいんだ。

──サーカスに関係する仕事に就いたのは、自然な流れだったのでしょうか。

私自身は非常にシャイな性格なので、表舞台に立つ俳優の仕事とは相いれないな、と早い段階で思っていた。一方で、小さいときから両親に連れられてロンドンのミュージカルやパントマイムに連れて行ってもらったんだ。悪党が出てきたらブーイングの嵐、正義の味方が悪党を倒したらブラボーの嵐、という芝居小屋の雰囲気が大好きだった。舞台は、私に夢を見せてくれた。その芝居の世界の中にずっと居続けていたいという思いが子どもの頃からあった。スイスに移住してから、父はたまに映画館でチャップリン作品を上映すると、お忍びで見に行って、客席の反応を楽しみにしていたようだ。父は映画を撮ってから作品が観客に届けられるまで待つことができたけど、私は忍耐力がないから、すぐに生の反応を見たかった。その違いかなあ。

──ユージンさんから見てチャップリンのいちばん好きな映画は?

難しいね。全部好きだから。でも「街の灯」はすばらしい作品だと思う。とってもロマンチックなストーリーだし、博愛主義が盛り込まれている。それにこれは、父が映画音楽を作曲した最初の作品なんだ。しかも当時はトーキーが台頭してきて、「チャップリンは終わりだ」と言う人も多かった。「そんなことはない、サイレントは死なないんだ」という思いから作った作品で、見事にそれを証明している。さらに音楽が、サイレントムービーの良さを引き出していると思うね。

7月18日から東京・YEBISU GARDEN CINEMA、シネスイッチ銀座など全国で順次公開。

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