奨学金の返済に苦しむ若者の窮状を知ってもらおうと、NPO法人キッズドアは6月3日、トークライブを開催した。奨学金返済中の若者が登壇し「あんなに働いたのに卒業時点で620万円の借金を抱えた」「学ぶために死にそうになった」と苦境を訴えた。キッズドアは給付型奨学金創設などを通じた子供の貧困問題解決を訴えている。
トークライブに登壇したNPO職員の女性(27)は、北信越地方の母子家庭で育った。学費の支払いに親の援助は望めず、貸与型の奨学金を借りて関東の私立短大に入学、その後都内の私立大学に編入して、2016年に卒業した。長時間のアルバイトで毎日の睡眠は3、4時間程度。「生きるか死ぬかの学生生活だった」と振り返る。奨学金で学費などは賄えたが、その他の費用は自分で稼ぐ必要があったからだ。
「学校のパンフレットに書いてある学費は年間約96万円でした。でも学校に通うために、実際には教科書代、資格取得費用、交通費で結構なお金がかかるんです。奨学金は学費とこうした費用に充てると残りません。もちろん別に家賃や生活費も必要でした」。
学校に通い続けるために、日中は住宅展示場やホテルで、夜はスナックで、と昼夜問わずアルバイトに明け暮れた。食費は切り詰めて月わずか3000円で暮らしたこともある。食事は友人がアルバイト先でもらってきた廃棄食品などでしのぐ。そんな日々で、ずっと空腹を抱えていた。「常にイライラが止まらない。お金がなく飲み会にも行けないのに、誘ってくる友人が憎らしかった」。1カ月の労働時間が154時間に上っていたこともある。
「気づくと学ぶために死にそうになっていたんです。一体私は何と戦っているんだろう? 健康で文化的な最低限度の生活って何だろう? 何度も自問自答しました。でも泣くエネルギーすら残っていなかった」
この春、無事に大学を卒業した。だが、その時までに借りた奨学金の総額は、短大以前に働きながら通っていた夜間の専門学校の2年分も合わせて計620万円。「あんなに働いたのにこんなに借りなければならなかったのか」と、愕然とした。女性はこれから、毎月3万8000円の返済を14年間続ける予定だ。
「貸してもらえるのは本当にありがたいんです。でもみんなが私と同じ600万円ものお金を借りることを決断できるのか。生まれてきた環境で、スタートラインはマイナスになってしまう。私のように命がけで未来を選択する、そういう子がたくさんいる現状を知ってほしい」
「『お金がない子が大学に行かないのは当然』という制度では日本の財政は立ち行かなくなる」と訴えるキッズドアの渡辺由美子理事長
トークライブでの訴えを受けて、主催したキッズドアの渡辺由美子理事長は「お金がないのに大学に行く必要があるのか? という質問をされることもある。でも、大学に行かないと就けない職業、取れない資格はたくさんある。お金がない子は医者や弁護士になりたいという夢を諦めなくてはいけないのか?と私は言いたい」と訴えた。
日本の奨学金制度は欧米などに比べて給付型が圧倒的に少なく、卒業後に多額の『借金』返済義務を負う人も多い。2014年度の日本学生支援機構(旧・日本育英会)の調査では、昼の大学学部に通う学生のうち51.3%、およそ2人に1人がなんらかの奨学金を受給している(給付・貸与の合計)。2002年度の調査では受給者は31.2%で、この12年間で奨学金の受給者は約20ポイントと急増している。
一方で、卒業後に収入の減少などで、同機構への返済を3カ月以上延滞している人は2014年度時点で17万3000人、利用者の4.6%となっている。支払いができない場合、通常のローンと同じように取り立てや給与差押えなどの強制執行が行われる。
政府は5月31日に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」で、高等教育の奨学金の充実と、奨学金の返還月額が卒業後の所得に連動する「所得連動返還型奨学金制度」の導入を明記した。
渡辺理事長は「我々が求めてきた奨学金制度創設が明記されたことは大きな成果だが、参院選前のパフォーマンスに終わらせてはいけない」として、給付人数を増やし競争率を下げて「頑張れば誰にでも手が届く奨学金制度」を創設するよう求めていくと話した。
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