「非常に悲しい」仲代達矢さん、平幹二朗さんの死をNYで語る

「平さんは、歌うように台詞まわしをするのが、とてもうまい役者でした」

俳優の故平幹二朗さんの通夜会場の祭壇に飾られた遺影

【ニューヨークより、ジャーナリスト津山恵子氏がレポート】

俳優の仲代達矢さん(83)が10月29日、訪米先のニューヨークで、22日に亡くなった俳優、平幹二朗さん(82)について、「いい競争相手でした。非常に悲しい」としみじみと語った。

仲代さんは、俳優座で平さんの1期先輩。俳優座で、シェイクスピアの「ハムレット」で仲代さんが主役を演じた際、平さんはハムレットの親友ホレイショー役だった。

「(ハムレットが決闘で死ぬ最後の場面で)僕が死んで、口を開けて倒れていたら、ホレイショーが抱えて泣くところで、彼の涙が口に流れ込んできたりした」

と、平さんの迫真の演技を回想した。

仲代さんは、シェイクスピア作品を一生のテーマとしているが、台詞が古典の翻訳であるため、観衆が一度聞いただけで理解できるような間や節回しをマスターしなければならないという。

「『台詞は歌え、歌は語れ』と言われているのですが、平さんは、歌うように台詞まわしをするのが、とてもうまい役者でした」

仲代達矢さん

仲代さんは、毎年ニューヨークを訪れ、ブロードウェイミュージカルや芝居を集中的に観るほか、出演した映画の上映会で、米国人ファンと交流する活動を続けている。今年は、名門校イエール大学(コネチカット州ニューヘイブン)のドラマスクールの学生らと演劇・映画論について3日間にわたり意見交換した。

31日には、ニューヨーク市内のジャパン・ソサエティーが、仲代さんを招き、「他人の顔」(1966年、勅使河原宏監督)の鑑賞会が開かれる。奇しくも、平さんと共演した作品だ。

「当時としては珍しい前衛的な作品で、世界の様々な国で、好きな映画だと言われる。本当の芸術というのは、時空を超えるものなのだと思う」

小説家、安部公房原作・脚本の同映画は、顔面のやけどにより、巧みに作られた「仮面」をつけた男性(仲代)が、社会との関わり方を変貌させていくあらすじ。

イエール大学の学生との交流では、米国の演劇・映画界を支える裾野の広さに驚かされたという。

「日本の大正・明治のものも含む世界の1万本の映画が、いつでも閲覧ができる。日本では、国家の支援すらない」

その中で、「一人でも将来ものになる役者を見つけよう」と、亡き妻と無名塾を1975年に創立し、40年以上主催してきた。80代を超えて、毎年映画にも出演し、舞台にも立つのは、「老いたなと自分も思いたくないし、若い塾生のためでもあるが、自分のためにもやっている」と言う。

筆者・津山恵子

ニューヨーク在住。ハイテクやメディアを中心に、米国や世界での動きを幅広く執筆。「アエラ」にて、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOを単独インタビュー。元共同通信社記者。

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