「お迎えにきたママたちと『お洋服すぐ小さくなりますよねー!』なんて話していると、男の子(4歳)がムッとした顔で近づいてきたので『ん?どうした?』と聞いたら、『おようふく ちっちゃくなったんじゃない!ぼくが おっきくなったの!おにいさん だから!』って。可愛すぎて笑った。そうだね!」(てぃ先生Twitterより引用)
思わずクスっと笑ってしまうような子どもたちとの日常をTwitterで発信しているのは、東京の保育園で働く男性保育士、てぃ先生。パパやママを中心に絶大な支持を集め、フォロワー数は40万人を超える。ツイートを原作にしたコミックも発売され、"カリスマ保育士"とも呼ばれるてぃ先生が、保育の楽しさや喜びを世の中に発信し続ける理由を聞いた。
■自分のやりたい道を選んだけど......男性の少なさにギョッとした入学式
——— 男性保育士は、今でも少数派という印象です。まずは、保育士になりたいと思ったきっかけを教えてください。
振り返ってみれば、昔から近所の子どもたちと遊んだり、小さな子どもを抱っこしたりすることが好きだったんです。高校生の頃、サラリーマンになるより何か手に職をつけて、自分にしかできない仕事をしたいと思ったとき、そういえば子どもが好きだなと思って、保育士になろうと決めました。
当時は今よりも男性保育士が少なく、周りの人からは「大丈夫なの?」とすごく心配されました。でも、自分がやりたいことを仕事にしようと思っただけなので、気になりませんでした。ただ、保育士の資格をとるために進学した学校では、60人クラスのうち男性は4人ほど。入学式のときは男性がほとんど見えなくて、さすがにギョッとしました(笑)。
■子どもを叱ってばかりの頃「きっとこの仕事をやめたくなる」と思った
——— 保育士として働きはじめてから、大変だと思うこともあったのでは?
はじめて担当したのは3歳児クラスで、最初は「座りなさい!」「静かにしなさい!」と、子どもたちを叱ってばかりいました。うまくいかないことがあると、子どもたちのせいだと思っていたんです。その一方で、「今日も怒っちゃったなぁ」と罪悪感にかられることも多くて。そのうち、「こういうことを繰り返していたら、きっとこの仕事をやめたくなる」と思って、子どもも自分もハッピーになれる声のかけ方を模索しはじめました。
当時はまず、その子がなぜそういうことをしたのか、理由を聞くようにしてみたんです。例えば、高い所にのぼった子に理由をきくと、「ここだといろいろ見えると思ったから」って、ちゃんと答えが返ってくるんですよね。そこで「そうだね、その気持ちはよくわかるよ。でも危ないからおりようね」っていうと、ただ叱るよりちゃんと伝わる。大人の思い込みで決めつけずに、子どもの目線に立つことを意識するようになりました。
■「子育てって楽しいよ!」保育のプロとして、ポジティブな発信をしたい
すると気持ちにゆとりが生まれ、「子どもってこんなに面白くて楽しいんだ!」と気づけるようになってきました。そういうことを保護者にも伝えたくて、Twitterをはじめるずいぶん前から、こまめにメモをとるようになったんです。
——— Twitterで、不特定多数の人にその体験を伝えようと思ったのはなぜでしょうか?
当時、インターネット上で目にする保育や子育ての話題って、「夜泣きがひどくて眠れない」「子どもが車内で泣いたら、嫌味を言われた」など、ほとんどがネガティブなものでした。でも、「子育てって楽しいよ!」「保育の仕事って面白いよ!」ってポジティブな発信をする人がいてもいいんじゃないかなと思って。保育のプロとして、子どもとよい関係を築くことの大切さを伝えられれば、世の中がよい方向に向かうかもしれないという期待もありました。
■大人の要求は、子どもにとってすごく理不尽なこと
——— 確かに、子どもはかわいいですし、子育ては楽しいこともいっぱいあります。それでも、日々の慌ただしさに追われ、ネガティブになってしまうパパやママは多いように思います。
みなさん、子どもに期待しすぎなんだと思います。例えば、「朝は私も急いでいるんだから、子どもにも急いでほしい」というのは、親が勝手に期待して押しつけているだけですよね。でも、子どもはそんなに急げない。日々、そういうことの繰り返しだと思うので、僕もよい意味で子どもに期待しすぎないようにしています。
保育園の給食なんかも、子どもたちが食べる量を大人が勝手に決めて出しているわけで、それを食べ終わらなければ叱るというのは、すごく理不尽だと思うんですよ。だから、僕が働いている保育園では、子どもたちが自分で食べたいぶんだけお皿にとるバイキング形式に変えてもらいました。それでも残したらその子の責任ですし、もし失敗しても経験を重ねていくうちに自分のお腹の空き具合もわかってくると思うので。
——— 大人の都合より子どもの意思を尊重しているんですね。
僕は基本的にそういう考え方です。「先生」と呼ばれる人は、自分が正しいと思い込んでいる人が多い。でも、どんな先生であれ、一方的に子どもに何かやらせようと思ってもうまくいきません。まず、自然と子どもが自分から興味をもって動き出すような流れをつくってあげることが大事なんですね。それが国家資格を持つ保育士の「プロの仕事」だと思うんです。パパやママの子育ても、基本的には同じだと思います。大人が押しつけなくても、生きるうえで必要な力は、子どもが自分で身につけていく。その力を信じて、うまく誘導してあげてほしいです。
■「たった一行でもいい」日々のエピソードを書き残すと最高の癒しに
——— てぃ先生のツイートでも、子どもの興味や関心を上手く引き出す会話が多く見られます。反響もすごいですね。
「子育てで行き詰まっていたけれど、先生のツイートを読んで、子育てって楽しいものだったと思い出させてくれました」というようなコメントをいただくと、「ああ、よかったな」って思います。僕のツイートを見たことをきっかけに、実際に保育士になった人もいるんですよ。
僕自身、メモをとったりツイートしたりすることで、その子とのやりとりを思い出して、温かい気持ちになることも多いです。パパやママも毎日忙しいと思いますが、たった一行でもいいので、子どもの面白い言葉やエピソードなどを書き記しておくと、とてもよい思い出になりますよ。疲れたときに見返すと、最高の癒し効果があると思います。
——— 仕事と子育てに奮闘するパパとママの日常を楽しく発信してもらおうと、2017年から「オリックス 働くパパママ川柳」がスタートしました。お気に入りの作品など、教えていただけますか。
▼「オリックス 働くパパママ川柳」2017年受賞作品▼
【※】スライドショーが表示されない場合は、こちらへ。
<てぃ先生が受賞作品から選んだ川柳>
「初トイレ あんよも全て 保育園」
(優秀賞/家事リーマン・41歳・男性・埼玉県)
この川柳は、パパのちょっと寂しい気持ちも出ていて、とても面白いですね。保育園の機能がよくわかる内容で嬉しいですし、保育士としての責任を感じさせてくれます。
どの方も、きっと子ども思いの素敵なパパやママなんでしょうね。保育園で保護者に会うと、みなさん疲れを見せないようにしているみたいですが、毎日必死で仕事と育児を両立している切実な様子が伝わってきます。
■子育てに励むパパやママに、てぃ先生からのメッセージ
まずパパやママが子育てを楽しんでほしいです。子どもは保育園でいっぱい遊んで帰ってくるから、仕事が終わったあと無理して遊んであげなくてもいいと思うんですよ。疲れたときは「今日はパパ、疲れちゃったから、お休みの日に遊ぼうね」とか、自分をさらけ出すことも必要です。パパやママが元気でいることが子どもにとっては一番幸せなことなので、自分ができないことを責めず、保育園に頼れることはぜひ頼ってほしいと思います。
(取材・文:樺山美夏 / 撮影:西田香織)
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