ボランティア活動をすると、著名なアーティストが出演するライブチケットを入手できる社会貢献型のイベント『RockCorps(ロックコープス)』。
2014年に日本上陸し、2017年で第4回目を迎える。9月2日(土)に幕張メッセで開催されるライブには、Fifth Harmony(フィフス・ハーモニー)、miwa(ミワ)、SPYAIR(スパイエアー)、androp(アンドロップ)が出演する。
ボランティアという社会貢献の、いわば“ご褒美”として、無料でライブに行けるという“体験”を提供する。この新しいビジネスモデルを考案したのは、アメリカ・オレゴン州ポートランド出身のスティーブン・グリーンさんだ。
生粋の音楽好きで、ロックバンドのGrateful Dead(グレイトフル・デッド)の追っかけを3年間していたほど。日本に来るとタワーレコードの写真を撮らずにはいられないというスティーブンさんに、プロジェクトにかける思いから日本の音楽シーンに感じることなど、幅広く語ってもらった。
人間は人間同士のリアルなコネクションも求めている
——2017年開催のRockCorpsは、会場を福島から東京都近郊の幕張メッセに移しました。東日本大震災のボランティアだけではなく、東京都内でできるボランティアの種類も増えました。拠点地を福島から関東へ移した理由を教えてください。
これまでの3年間で、RockCorpsをきっかけに、参加者たちのボランティアに対する気持ちや行動意欲が変化する様を見てきました。ボランティアを敬遠する人もいますが、「いいことをして気持ちが良くなる」とか、「ボランティアは楽しいものだ」とか、素直な感情の変化が生まれるんです。
今度は、その経験をより多くの人にしてもらいたいという思いで、東北だけではなくて関東に住んでいる人、関東近郊に住んでいる人、全国の人に体験してもらうために、東京での実施に踏み切りました。
また、2020年には東京でオリンピック・パラリンピックが開催されます。ボランティアスタッフの需要は高まると思います。ロンドンオリンピックの時は、競技の観戦ももちろん人気でしたが、競技と同じくらいボランティアは人気な活動の一つでした。その中で、ボランティアをしたいけどわからない、人手が足りないといった様々な問題も起きると思います。そんな時、RockCorpsが少しでもボランティアを身近に感じてもらえるようなきっかけになればいいなとも思っています。
2014年9月6日、日本初となるRockCorpsのライブは福島県のあづま総合体育館で開催された。
——RockCorpsは世界各地のミレニアル世代、若年層に幅広く支持されてきました。RockCorpsの強みとは何なのでしょうか。
RockCorpsは「ヒューマンエクスペリエンス(Human Experience)」、つまり「人間らしい体験」を提供して、平均以上の価値を生み出しています。今の若年層はSNSなどで繋がっていますが、とはいえ、人間は人間同士のリアルなコネクションも求めていると思います。
音楽ライブは人が集まるという意味ではリアルなコレクションですが、それだけだとありきたりすぎておもしろくない。自分たちの場合は、音楽やライブに、「ボランティア」という新たな人間との繋がりを生む付加価値を付けています。だから今までうまくブランディングができて、支持されてきたんだと思います。
7月8日、出演者のmiwaが東日本大震災や熊本地震で、津波・雨水に流されてしまった写真を修復するボランティアに参加した。
——文化的・宗教的な価値観の違いから、日本と欧米とでは、ボランティアや寄付に対する考え方は異なりますが、それについてはどう感じられますか。
日本では、ボランティア団体がすごく活躍し、注目を浴びるような機会は今まであまりなかったと思います。
しかし2020年の東京五輪でボランティアが必要になってくる時に、デジタルネイティブ世代を中心とした若者たちは、ボランティアが「楽しい」「おもしろい」と言う方向性に持っていってくれるのではないか、と考えています。彼らはスマホを通したさまざまなコネクションを持っていて、人と繋がるということに対してあまり抵抗を感じません。彼らを中心にボランティア市場はどんどん大きくなっていくと思います。
miwaとボランティア参加者たち。
CDショップは、アメリカにほとんどない。だからタワレコは「懐かしい」
——せっかくなので日本の音楽業界についてもお話を聞きたいのですが、日本の音楽業界では、CDが売れなくなってきています。今後、音楽シーンはどう変わっていくと思いますか。
音楽市場を盛り上げるためにやるべきことはひとつしかないと思います。Spotify やAmazonのPrime Music、Tidalなどに代表されるようなストリーミング配信です。欧米ではどんどん普及が広がっていて、将来はCDではなく、ストリーミング配信による収益がスタンダードになるでしょう。
アメリカでは、もうほとんどの人がCDを再生する機能を持っていません。パソコンにもない、車にもない、家にもない。CDを再生することすらできません。そういった意味では、CDはもう死んだも同然なんです。
アメリカにはCDショップがほとんどありません。CDショップには、実際にお店に足を運び、店内を徘徊してCDを探すという楽しさもあります。けれど、どんどんショップは減っていき、タワーレコードもなくなりました。私は日本に来るたびに、日本のタワーレコードの写真を撮って、友人に送ります。「懐かしい」と喜んでくれるんです。
——日本ではまだCDのマーケットが根強いです。Spotifyは2016年に日本進出しましたが、まだまだ普及しているとは言えません。
Spotifyで聴ける邦楽アーティストの数は、まだまだ多いとは言えない状態ですよね。CDの売り上げを重視するレーベルが許可していないんでしょう。
アメリカのSpotifyでも、サービス開始当初はThe Beatles(ザ・ビートルズ)やLed Zeppelin(レッド・ツェッペリン)などは配信を拒否していました。ですが、結局時代の流れに逆らうことをやめて、今は彼らの楽曲をSpotifyで聴くことができます。日本もゆくゆくはそうなるんじゃないでしょうか。
——日本や韓国などアジアの音楽シーンでは、CDの購買を促す一つの戦略として、握手券や写真を一緒に撮ることができる特典などをつけるというものがあります。こういった戦略についてはどう思いますか?
握手券や撮影券は確かに効果的だと思います。ただどちらかというと短期的なプロモーション戦略であって、長続きするものではないと思っています。
アメリカにも似たような戦略はありますね。ただ、新曲やアルバムの販促プロモーションにあてるのではなく、ライブのチケットに特典を付ける方が一般的です。
例えば、少し高めのプレミアムチケットを買ったらジャスティン・ビーバーの直筆サイン入りポスターがもらえるとか、もっと高額なチケットだとバックステージで会えるとか。ヒットチャートがあるものに対して、“体験”を特典として付けるということは、アメリカではメジャーな取り組みではありません。
——中長期的にそのアーティストの“ブランディングをする”という意味合いで、 ファンミーティングといった“体験”を特典にしているという印象を持ちました。
そうですね。いまは、人々がより「選択する」時代になりました。ストリーミング・サービスが誕生する前は、極端な話、好きな曲を1曲手に入れるためにアルバム1枚を買うことさえありました。1曲を聴くためにアルバムを買ったら、特に聞きたくない10曲がついてきたという状態で。けれど、今は簡単に1曲だけ買うことができる。
より「選択される」時代になったということは、つまり、平均以上の質が担保されているものじゃないと売れない、ということでもあります。プロダクトをどうやってお客さんに届けるか、という視点も大事ですが、そもそも人々が求める平均以上のもの、サービスを作っていくことが何より大事だと思います。
これまでに17万人がRockCorps(ロックコープス)に参加
RockCorpsは、アメリカ・ミシガン州の発達障害・身体障害の人々のための非営利団体「The Fowler Center」の常務取締役を務めていたスティーブ・グリーン氏が、2003年に仲間とともに立ち上げたプロジェクト。
音楽フェスティバルとボランティア活動を結びつけ、「4時間以上のボランティア活動をすると、コンサートチケットが手に入る」という仕組みを作った。
これまでに世界10ヶ国、約17万人以上が参加し、合計70万時間以上のボランティア活動を創出。過去にはレディー・ガガ、リアーナ、マルーン5、カーリ・レイ・ジェプセンなどのアーティストがライブに出演したが、彼らもイベント開催時にボランティア活動を行っている。
日本では2014年に初開催され、当時は東日本大震災の復興支援を目的に、約4000人のボランティアが4月から4カ月間かけて144回のボランティア活動を実施した。
■詳細情報
ボランティア活動実施期間:2017年4月29日(土)から8月31日(木)まで
セレブレーション(ライブイベント)開催日程:2017年9月2日(土)
開催時間:開場12:00 開演13:00 終了17:00(予定)
会場 :幕張メッセ(千葉県千葉市)