コミュ力もリーダーシップもいらない。元Google社員が語る、本当に「優秀な人材」とは

元グーグル人材開発担当のピョートル・フェリークス・グジバチ氏に聞いた。
Google本社(撮影日:2017年05月16日、アメリカ・マウンテンビュー)
Google本社(撮影日:2017年05月16日、アメリカ・マウンテンビュー)
時事通信社

「コミュニケーション能力」「リーダーシップ」「協調性」――。長らく日本企業が「理想の人材」としてきた、紋切り型の言葉たち。「声の大きい人」の意見が通りやすい会社では、こうした特性も必要なのかもしれない。

そんな人材論に「NO」を突きつけるのが、Googleで人材開発に従事し、現在は退職して国内外の企業で人材育成のコンサルティングをおこなうピョートル・フェリークス・グジバチ氏だ。

「性格は関係ない。大切なのは、結果を出せるかどうか」と、ピョートル氏は語る。出身大学は仕事のパフォーマンスと関係ない。有能な人材を活かすも殺すも、会社や上司の考え方次第だと指摘する。

日本企業とGoogleは何が違うのか。いま日本が知るべき、本当の意味で「有能な人材像」とは?ソ連崩壊後のポーランドで学んだピョートル氏のキャリアと合わせて聞いた。

ピョートル・フェリークス・グジバチ氏
ピョートル・フェリークス・グジバチ氏
Kei Yoshikawa/HuffPost Japan

――ピョートルさんから見て、日本の大手企業はどんな印象ですか。

日本では大手企業の経営者というと「黒塗りの車」で常に移動しているというイメージがありますよね。丸の内や大手町といったビジネス街では、エンジンをかけっぱなしにした車の中で、運転手が偉い人を待つ。そんな風景を見ることがあります。

古い保守的な会社は「性悪説」の考え方で動きます。部下が何をしでかすかわからないから「トップがすべてをコントロールする。命令に従え」という考え方です。

——では、Googleは?

Googleは真逆の「性善説」です。Googleは非常に自由な会社です。本社の敷地は「キャンパス」と呼ばれるのですが、誰でも入ることができます。

共同創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは、ともにスタンフォード大学の出身。Googleにも同じように自由なキャンパスがほしかったようです。

ふたりとも「黒塗りの車」は持っていないし、ひとりで自転車を漕いで移動している。軍隊みたいなボディガードも、お連れの人もいない。

Googleの共同創業者のラリー・ペイジ(左)とセルゲイ・ブリン
Googleの共同創業者のラリー・ペイジ(左)とセルゲイ・ブリン
Kimberly White / Reuters

2人はGoogleを作った時、普通の会社とは真逆の会社にしようとしました。「自由を重視して、社員が好きなことに情熱をもってもらおう。それで成果が出ればいい」と。

これまでにも「マネージャーがいらない」という試みや、「20%プロジェクト」(勤務時間の20%は自分の企画したやりたいことに使っていい)を実践するなど、非常に自由を重視している会社です。

こうしたGoogleの気風は、創業者たちが幼い頃に「モンテッソーリ教育」という教育プログラムを受けてきたことも関係しています。

——「モンテッソーリ教育」は、将棋の藤井聡太四段が受けていたことでも話題になりました。どんな内容でしょうか。

「モンテッソーリ教育」というのは、子供の自主性や知的好奇心を育てるプログラムです。

クラスの編成は、たとえば「3〜6歳」「6〜9歳」「9〜12歳」と、年齢の異なる子供同士でクラスを編成します。

そうすると、クラス内で年少の子が何か困っていると年上の子が教えてあげる。先輩に教えてもらった子は、年度が変わると、今度は自分が教える番になる。

藤井聡太四段 撮影日:2018年01月14日
藤井聡太四段 撮影日:2018年01月14日
時事通信社

「互いに教えていく」ことが仕組みの中に入っていて、クラスにはいろんな学習キットや、自分で作れる学習教材が置いてあります。例えば、絵を描きたいんだったら絵を描くとか、レゴを使って何かを作るとか。

先生の役割はファシリテーションやコーチングです。子どもが好きなことをやってるときに「何をやってるのかな?」って聞いたり、子供が学ぶ上で戸惑っているとき「こうしてみるのはどう?」と、優しく丁寧に説明する。

子どものひらめきを作って、自分で学習できるように。成長志向を育てるんです。

——創業者が受けた教育が、Googleの会社のシステムに影響を与えたんですね。

幼少期や思春期のときの経験は、その人の価値観に大きな影響を与えます。

僕は1975年、民主化前のポーランドの小さな村に生まれました。当時のポーランドは社会主義の国。国内で反ソビエトの動きが強まっていました。

1980年には「連帯」が結成されて民主化運動が高まった。そこで国は民衆をおさえるため、戒厳令を敷いた。

食料も配給制になって、国から配布されるクーポンを持っていないと食料が手に入らなくなった。

ポーランドの民主化を率いた、自主管理労組「連帯」のワレサ議長の演説を聞く労働者ら。撮影日:1980年08月25日(ポーランド・グダニスク)
ポーランドの民主化を率いた、自主管理労組「連帯」のワレサ議長の演説を聞く労働者ら。撮影日:1980年08月25日(ポーランド・グダニスク)
時事通信社

——冷戦が終わりに向かう「東欧革命」の真っ只中ですね。

その後、ポーランドも民主化されて、1989年には「ベルリンの壁」が崩壊しました。僕は当時14歳だった。

いつも笑って話すんですが、僕の村は人より犬のほうが多かった(笑)。そのぐらい寂れていた。周りの親戚にも、村の中にも、高校にいった人がいなかった。

というのも、社会主義だった時代は大学を出て就職しようと、工場で働こうと、同じ程度の給料だったんです。だから高校や大学にどんな意味があるか、みんなあまり分かっていなかったんです。

当時の僕はこう思いました。「民主化が進めば、世界が変わっていくんじゃないか」「企業の民営化が進めば、知識・知恵・専門性の価値が高まるんじゃないか」と。

そこで僕は高校に行くことにしました。

でも、地元の景気は非常に厳しかった。タダ同然の金額で海外企業が工場を買収したかと思えば、どこも撤退、撤退、撤退。

失業率がとても高くなって希望が見えない人たちが増えた。ポーランド人はお酒が好きで、アルコール中毒が社会問題化した。僕の兄もそれで亡くなりました。

たくさんの市民が見守る中、地上におろされたレーニン像(ルーマニア・ブカレスト)撮影日:1990年03月05日
たくさんの市民が見守る中、地上におろされたレーニン像(ルーマニア・ブカレスト)撮影日:1990年03月05日
AFP時事

——冷戦後のポーランド、大変な状況を目の当たりにされたんですね。

1993年、18歳の時でした。お金がなく、高校に通えなくなり、大学進学も難しくなった。そこで、ドイツに出稼ぎに行って、建設現場で肉体労働者として働いた。1日で父の月給の2〜3倍を稼いだこともあった。「高校に戻らなくてもいいかな」とも思った。

そんな時、母が病気になって、入院したんです。一度帰国して、お見舞いに行ったら、母はこういいました。「あんたさ、勉強好きだったでしょ?」。

その言葉を聞いて、高校に戻って、頑張って大学にも通いました。

時代が大きく動いた時、自分の人生はどうなるかはさっぱりわからない。

それでも、時代に合わせて、「次は、どんなことが起こるんだろう」「みんなが気づいてないことは何だろう」と考えて、一歩を踏み出すというのは非常に大事だと思いました。

グーグル発祥の地 ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン両氏がグーグル操業の際に借りたガレージ(アメリカ・カリフォルニア州)
グーグル発祥の地 ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン両氏がグーグル操業の際に借りたガレージ(アメリカ・カリフォルニア州)
AFP時事

————しかし、人は予期せぬ出来事に遭遇すると戸惑います。戸惑うことや、怒りや悲しみという感情にはネガティブなイメージがあります。

確かに。でも、そこからどうやってプラスの方向にもっていけるかが大事です。

Googleも創業初期の新卒採用は、創設者がスタンフォード(出身)なので「まずはスタンフォード、次にアイビーリーグ(アメリカの名門私立大学群)から」という感じでした。

でも、一定の大学出身者ばかりを採用しては多様性がありません。人種も偏り、ダイバーシティに欠けてしまう。

アイビーリーグでなくても頑張っている人もいる。そこで、大学のレベルに関係なく採用するようにしました。地方の小さい大学の出身者も採用しました。

当初、Googleの人事は「名門大学出身じゃないと人材のレベルが低いかもしれない」と心配をしていました。

でも、実際に採用したら、十分にパフォーマンスを発揮してくれた。何年も試行錯誤を続けて「結局、何がパフォーマンスに繋がるのか?」を社内で研究しました。

——実際に、どんなことがわかりましたか?

まずわかったことは、Googleでは、「どんな大学を出たか」は入社後のパフォーマンスと相関関係がなかったことがわかりました。

次にわかったのは、「これまでの人生で苦労をしたかどうか」でした。人生の中で、戸惑ったり、脱線したり、事故にあたり、病気になったり、浪人したり、好きな人を失ったり...。

そういった苦労した人たち、挫折した人たちは、会社のなかでパフォーマンスを発揮していました。

挫折というのは、自分自身を見つめ直すチャンスです。アイデンティティを作り直す機会でもある。次のチャンスを、自ら探しに行く必要があると考えられるかどうか。

僕の場合は、ポーランドや世界の政治状況、高校の時に経済的な理由で一度進学を断念した経験がそうだった。

Kei Yoshikawa/HuffPost Japan

——採用するときに、どんなポイントが重視されるのでしょうか。

例えば、生産業の場合は、勤勉で頑張ってくれる人。上に言われたことを、きちんと遂行できるかどうかだと言われます。サービス・エコノミーやナレッジ(知識)・エコノミーの場合は、「専門性」がプラスされます。

Googleの場合は、クリエイティブ(創造性)・エコノミーです。「新しい価値を生み出す」ことが求められる会社ので、その中で実際に情熱、想像力と率先、イニシアティブが重視されます。

採用には4カテゴリの基準があります。

1つは「Googliness」。言うなれば「グーグルらしさ」ですね。これは面白いことに、明確な定義がいなんですね。ただ、Googleを自分なりに解釈し、根本的に情熱的に何かを変えようとしていること。好奇心を持っているかなどですね。

次にリーダーシップ。自分で手を挙げてプロジェクトを実行できるか。そして「専門性」。エンジニアだと測りやすいけど、営業職などの場合は専門性より知識や教養を見ます。

最後が「general cognitive ability (GCA)」。根本的に問題を解決できる能力ですね。新入社員でも、中途社員でも同じ項目が測れる。「T型人材」は、深い教養や専門性をもって、いろんな幅広い経験とか、試みとか趣味とかをもってる方が多いです。

Eric Gaillard / Reuters

——大きい会社だと、社交的でリーダーシップを取れる人もいれば、あまり人と接したくない内向的な人もいる。Googleで社員たちは、どのようにパフォーマンスを発揮していますか。

それぞれが、自分に適した仕事でパフォーマンスを発揮できるようにしています。もちろん営業や外部と接する仕事であれば、社交性が仕事のパフォーマンスにもつながっている。コミュニケーションがきちんととれることは大事だと考えています。

コミュニケーションがとれれば、情報やデータ、人脈など自分の仕事を実行するためのリソースを集められる。これは非常に大事です。社外との関係は会社としても重視しています。

一方で、エンジニアやプログラマーは、画面に向かって長い時間集中する場面が多い。非常にシャイな人もいるし、社交的でない人もいるが、パフォーマンスを発揮できています。

Kim Hong-Ji / Reuters

——内向的でも外交的でも、それぞれ適した仕事でパフォーマンスを発揮するのがGoogleらしい。

ただ、「コミュニケーションをとれること」と「社交的かどうか」は別なのです。

Googleでは、社員が実力を発揮できるようなマネジメントをしっかり回しています。4半期ごとに「objective key results(OKR)」 と呼ばれている自分のKPIの目標設定を確認します。

これは「管理」ではなく「確認」です。マネージャーと社員の1対1の面談があって、そこで「いまはどんな仕事してる?」「どこまでできた?」「どこかで躓いているところはある?」と、丁寧にキャッチアップします。

よく勘違いしている人がいるのですが、声の大きい人が仕事のパフォーマンスを出しているというのは全く違います。

小さい声で、シャイに見える人でも、すごく結果を出している人はいる。見た目と声じゃなくて「結果」と「成果」で評価されます。

イラストや

——「リーダ—シップ」というと、日本では「集団をグイグイ引っ張り目立つ人」という考え方が強いように思います。

本当に大事なのは、「性格に関係なく、結果を出しているか」です。エンジニアリングだと、非常にわかりやすいですよね。プログラムは目に見える。コードをどれくらい書いたか、クオリティも見える。

プログラマーは「コードレビュー」といって、お互いのコードを読みあうので「こいつはすごい」とすぐ分かるんですね。

客観的に、いかに結果を見て人を評価していくというのは、アメリカなどのプログラマーは出来ている。その考え方は、他部署でも活かせる。人事の仕事、営業の仕事にもとりいれられています。

——「見た目」じゃなくて「中身」が大事、と。

経営者は、やはり「変人」を集めるというのが大事なのかもしれない。変人というのは、いい意味で、とんがっている。「出る杭」ですよ。そういう人材を集めれば、ダイバーシティが増えると思います。

Googleもいろいろな変人を集める会社です。僕も含めてGoogleに誘われるというのは、「出る杭」だったから。

能力はあるけど、その能力を発揮できるような環境がなかったり、そういう環境があることを知らなかったり、自分の能力に気付いていない人もいる。僕はそういう人たちが大好きです。

朝の通勤ラッシュで混む都営大江戸線の新宿西口駅のホーム。撮影日:2017年07月11日
朝の通勤ラッシュで混む都営大江戸線の新宿西口駅のホーム。撮影日:2017年07月11日
時事通信社

——でも、そういう人はなかなか「普通の会社」には入れない。

なぜ入れないかというと、普通の会社は「普通の人」しか求めていないからです。

大手企業の新卒採用の担当者からは「普通の人がほしい」「チームに入ってマネージャーが困らないような扱いやすい人たちがほしい」とよく聞きます。

でも、そうやって選ばれた人たちって、その環境の中に入って、そこに残ることしかできないんですね。いいか悪いは別として。

新卒で入って、年功序列で定年退職するまで給料をもらい、自己の個性を表現できない。「終身雇用」の考え方は、これからの時代では通用しない考え方だと思います。

性格がちょっと極端とか、話し方が極端とか、挫折をして傷が残っているという人たちは普通のところに入れない。でも、彼らはそういうところには入らない方が良い。

彼らは、自分らしく、自分の考えていることを実行できる居場所や、夢を叶えられるような異国を探している。

で、時々やっぱり挫折しちゃって、困っているときに、Googleのように安心・安全な場をつくってあげれば、非常に面白いパフォーマンスが見られるんです。

Kei Yoshikawa/HuffPost Japan

——ひとりひとりの居場所、ということですか。

日本の学校では、すごく優秀な子でも集団生活の掟に従わないと、いじめにあったり、心を患ったり、周りに潰される傾向がある。だから、彼らにとっての安全領域を作ってあげるというのが大事ですね

日系のベンチャーでも、すごく優秀な創立者が「俺が言っているとおりにやれ」いう社風をつくってしまう傾向は少なくないです。

Googleの場合は、日本の有名な大企業ではやっていけないような社員が多いかもしれません。

それでも、自分を信頼して、尊重してくれる人間がいれば、「出る杭」の人であっても建設的になります。自己開示もする。逆に信頼もしてくれる。

上司が部下を信頼し、尊重すれば、それはきちんと返ってくる。その中で社員が「そっか、自分でもできることがあるんだ」と「自分にも価値があるんだ」と再確認ができれば、非常に大きなパフォーマンスを発揮してくれます。

自分にはできないことを実行できる人たちを集めれば、お互いに尊敬しあえる。自分の部下に「私にはできないことだから、ぜひ手伝ってほしい」と言えたら、部下はプライドを持って仕事をしてくれると思います。

ピョートル・フェリークス・グジバチ

プロノイアグループ株式会社 代表取締役 / モティファイ株式会社 取締役 チーフサイエンティスト。

ポーランド生まれ。2000年に来日。ベルリッツ、モルガン・スタンレーを経て、2011年Googleに入社。アジアパシフィックにおけるピープルディベロップメント、2014年からグローバルでのラーニング・ストラテジーに携わり、人材育成と組織開発、リーダーシップ開発などの分野で活躍。2015年独立して現職。 プロノイア社では、国内外の様々な企業の戦略、イノベーション、管理職育成、組織開発のコンサルティング・研修を行なう。モティファイは、社員とメンターが双方で使うユニークな人材育成プログラムや、働きやすい企業の環境づくりを支援する人事ソフトベンチャー。

0秒リーダーシップ』『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか グーグルの個人・チームで成果を上げる方法』著者。

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