女性リーダーも当たり前になった時代。だが、長時間労働もセクハラも依然として社会の問題だ。働きやすい環境が完全に、整っているとは言えない。
女性管理職の人たちは、どのように"ハードな仕事"をこなし、組織の中を生き抜いているのだろうか。ベンチャー企業の営業を経験し、いまは大手外資系IT企業のデルでコンシューマーマーケティング部長を務める横塚知子さんに話を聞いた。
仕事のとりこになった
——— 横塚さんは、ベンチャー企業でキャリアをスタートしました。どのような働き方をしていましたか。
大学院2年生のときに、あるベンチャー企業にアルバイトとして入りました。社長のパッションにすぐ惹かれましたね。会社が当時渋谷にあったのですが、渋谷に引っ越して、人生のほとんどの時間を会社で過ごしたというぐらい、仕事のとりこになりました。
大学院を卒業した後、疑いもなくその会社に入社しました。しばらくして、"花形"部署の「営業」に行きたいと行ったら、予想外な事に、多くの人に反対されました。
——— いま振り返ってみると、どうして反対されたと思いますか。
反対された理由は2つあると思っています。まず、私に対して「本当に営業ができるのか」という不安でしょうか。私は、言いたいことズバズバ言うタイプでしたので、「お客様の前に出して良いのか」と心配されたんですね。
あとは、多分「女性だから」だったかもしれません。その時代って十何年前になりますかね。ちなみに私は今40歳で、大学院を卒業したのが23歳か24歳ぐらい。営業の世界は99%男性だったんですよ。
そういう中で若い女性が出ていって「対等に話せるのか」という雰囲気がありました。ものすごく反対されたんですけど、「絶対にできる」って言い張って、営業への異動が叶いました。
——— 実際に仕事をしてみてどうでしたか。
結果として数字を誰よりも出しましたし、契約も誰よりも取ってきました。その後、マネージャーになり、最終的には営業統括の部長に。営業担当者が十何人いましたが、年上の男性が多かったと記憶しています。
営業が女性であることの悪い面でしょうか。取引先に「食事に行ったら契約してやるよ」と言われたこともあります。何回かそういうケースがあったので、ある時、私は取引先の人に反論したことがあったんですよ。「そういうことだったら契約いらない」って。
それで、そのまま会社に戻って「私はこういうことをやった」ときちんと報告しました。すると、社長に「それは正しい対応だった。そんなことで契約取るな」と言われて。
「正しいことを正しくしなさい」という反応でした。今でも社長が率いるその企業では女性が活躍しているそうですが、それも分かる気がします。
——— 「女性は営業に向かない」というステレオタイプはどうして根強いのでしょか。
男性がいまだに営業が多いという印象はあります。どの仕事も大変ですが、営業は特に体力的にも精神にもハードです。
電話をかけても「そんな会社知らないよ」とガチャっと切られることもありましたし、酷いことを言われたことも何回もあります。
ただ、そこをうまく切り抜けられる人は、性別に関係なく、女性でもチャレンジングな人だと、できると思いますが。
まだまだ女性が少ないポジションや職種が社会にはありますが、私としては、男性女性にかかわらず、その能力をもって、判断するような職場が増えていけばよいと考えています。
同じ組織の中で頑張ってる人たちを、「男だから」「女だから」ではなく、一人の人として見たときに誰をポジションにつかせるか、と考えたほうがフェアだと思いますね。
道をつくって、女性が活躍する門戸を開けていく
——— 横塚さんは、様々なハードルを乗り越えてきたのだと思います。ただ、ほかの働く女性や次に続く世代は、未だに女性差別で苦しんでいたり、横塚さんに声をかけた社長と違って「女を使って営業して来い」と上司に言われる人もいたりするかもしれない。社会的にはまだまだ女性は不公平なポジションに置かれていると私は思います。
男性女性で判断せずに、適材適所で従業員に機会が平等に与えられるべきだと思います。性別に関係なく同じ土俵で頑張れば認められると思って、仕事に励んできました。
ただ、ある方に「みんなが横塚さんじゃないし、あなたみたいに何かが起こったときに、すぐパッと切り返して戦えるんだったらいいと思うけど、声に出せない人もいる」と言われたこともあります。
その方が言うには、後輩や次世代の女性に、ある程度の道をつくって、女性が活躍する門戸を開けていくっていうのも大事だと。
それを聞いて「ああ、それはそうかもな」って思いましたね。
20年前に比べると女性で活躍してる人が増えたというのは、ファクトだと思うんですよ。いくら小さい穴とはいえ、実力ある人が絶対出てきてると思うので、それはこの穴が段々大きくなっているのは、意義深いことだと思います。
そういう意味で言うと、一定数の女性を管理職にすることで、発言できる女性が増え、そしてもっとその穴が急速に広がっていくのかもしれない、という考えは成り立ちますね。
企業によっては、絶対に女性を上にあげない(昇進させない)人とかもいるじゃないですか。ああいうのってどこかで男性が女性を恐れているんだと思うんです。
——— 女性を恐れている、ですか。
だって、女性が活躍したら、その分、純粋に戦うべきライバルの母数が増えますよね。それって脅威じゃないですか。でも、日本のオポチュニティー(機会)のひとつは、女性です。
もし女性を活かさないのだとすれば、極端なことをいうと、戦える人が本来は50パーセント残っているのに、男性だけで戦っているという状態になりますからね。
本当の意味で門戸を全部広げたときに、まだ眠ってる才能がわーっと社会に出てくるのだと私は思います。
親子の関係は、「長さじゃなくて密度」
——— 家庭と仕事の両立はどうしていますか。
いま上の子が10歳で、下が7歳です。夫はアメリカ人、41歳です。子供ができたあとは、送り迎えの時間があり、自分以外のものに振り回される時間というのが出てきましたね。それで、家事はできるだけアウトソースしています。
最近の家電製品はとても役立ってますね。ルンバや全自動洗濯機もありますし、ダイソンのスティック型の掃除機や、圧力鍋などありとあらゆるものをフル活用していますね。
家電って、便利さに気づかない時は気づかないものですね。私は、乾燥機付きの全自動洗濯機を使う前、洗濯物をせっせと干していました。
冬は辛かったですね、寒くて。それで干したと思ったら雨が降ってきて、ガクってなるじゃないですか。そんな話を同僚としていたら「なんで全自動を使わないの」って言われて。
洗濯機は洗濯だけをするものしかないと思っていたんですよ。それ急いで乾燥機がついている物を買いに行きました。夜に洗濯をして、朝までに乾燥させて、あとはたたむだけです。
同じチームの同僚にも話していたら、私みたいに全自動の良さに気づかない人がいて、「ああそうだったの」と言って、その人も買いに行っていました。あとは週3回、お手伝いさんに来てもらっています。
——— あえて聞きますが、家事をテクノロジーや他の人に任せることの"後ろめたさ"を感じる人もいますよね。
お手伝いさんにお願いした時、子供はまだ小さかったのですが、「ご飯はマミーがつくったものを食べたい」と言われたんですよ。だからそれ(料理)は今でも貫いてます。お手伝いさんの料理のほうが相当上手ですけど。
もちろん家族には「効率」で片付けられないものもあると思います。でも、子供は子供なりの世界もあると思うんですよね。私がいない空間を楽しんだり、それこそちょっと悪さをしたり。
もしかしたら、私は一般的な家庭と比べると、子供と関わっている時間は短いかもしれない。でも短い時間なりにしっかりコミュニケーションは取るようにしています。
うちは、子供たちが朝7時に学校に出るのですが、私は普段は4時ぐらい、月曜は3時に起きますね。それで1時間ぐらい仕事をして、子供が起きる5時から7時の2時間で、いろいろ話します。「昨日どうだったの」とか「宿題どうだった」とか。
他の家庭では、朝って子供たちがギリギリに起きてきて、会話もせずにバッといっちゃうという話も来ますが、うちの朝は濃いですね。
夫は海外出張の時もフェイスタイムを使ってスマホで子供とビデオ通話をして宿題を教えています。時差があるから日本時間の朝に対応するのは大変なようですが。
親子の関係は、「長さじゃなくて密度」と思うようにしています。