テレビ朝日の記者が、財務次官にセクハラを受けた疑惑をめぐって、有識者らによる「セクハラ被害者バッシングを許さない4.23緊急院内集会」が4月23日夜、東京都千代田区の衆議院第一議員会館で開かれた。参加者がマイクを握り、セクハラの法制度の不備を指摘したり、女性記者の取材活動が制限されることへの懸念を示したりした。一部を紹介する。
■内藤忍・「独立行政法人労働政策研究・研修機構」副主任研究員
セクハラの被害者を孤立させる原因の一つは法律だと思う。実効性のある法律に変える必要がある。
民間の職場のセクハラについては、男女雇用機会均等法の11条が適用されているが、同法は名宛て人が事業主になっており、
・事業主が方針を明確にして、それを周知する義務
・相談に応じ、適切に対応するための必要な体制の整備
・職場でのセクハラへの事後の迅速、かつ適切な対応
...という三つの義務が課せられている。
だが、均等法では、セクハラが「違法行為」と判断されるために不可欠な、セクハラの定義自体が盛り込まれていない。そのため、裁判では民法での不法行為にあたるかどうかで違法かどうかを判断している。
しかしセクハラを受けて裁判をできる人はわずかだ。経済的コストや時間的コストもあるが、公開手続きを踏むので心理的なハードルも高い。また、私自身、これまでセクハラの被害者に全国で話を聞いたが、何回も連絡を取るうち、体調が悪くなって会えなくなったことがたくさんある。
行政による被害者の救済システムもあるが、「相互の譲り合い」による解決が中心だ。その多くが金銭解決だ。違法行為という認定や、謝罪、二度と起こらないでほしいという、被害者の思いと乖離する、受け入れがたい制度になっている。これが均等法の現状だ。
公務員の場合、人事院規則が適用される。均等法との違いは、セクハラをしないように「注意しなければならない」という職員宛ての条文が盛り込まれているが、「禁止」ではない。
こうした被害者側にたっていない制度の問題点から、セクハラとは何かを定義し、明確に禁止する規定、そして、被害者が迅速に被害者のニーズに沿ったかたちの救済が得られるよう、法的判断ができる救済システムが必要だ。
また、今回、女性記者が、取材した内容を週刊誌に持ち出したことについて、会社が「不適切だ」と言ったが、公益通報者保護法という法があり、刑法など、同法で保護される法令の外部通報に該当する可能性もあり、今回の持ち出しは「不適切」ではない。均等法は同法の適用外だが、同法違反の外部通報も保護されるべきだ。
セクハラ被害に雇用も非雇用も関係ない。すべての人を対象とする包括的な性暴力禁止法という枠組みが必要だ。
■浜田敬子・ビジネスインサイダー・ジャパン統括編集長
朝日新聞出版のAERA編集部に在籍していたときから企業の取材が多かったが、もうセクハラは昔のことだと思っていた。だが、今回の問題を受けて若い記者に改めて聞くと、20年前と変わっていないことを知り、本当に驚いた。
この問題をきっかけに自社でメディア内でのセクハラ実態アンケートを始め、回答が続々と寄せられている。回答では、会社に相談しなかった人が多く、また相談しても、相手にしてもらえなかった人もいた。また、セクハラをしてくる相手は、警察が目立った。「県警本部長からセクハラを受けた」「警察官から胸をもまれた」という回答もあった。
こういうことが起きると、だから女は面倒くさいと言われるが、問題の本質はそこではない。役所でセクハラ防止のための教育をしたり、被害に遭った女性が訴えられる窓口を設置したりするのが、本質的なことで、これだから女性は取材につけないという議論は残念だ。
今回の問題をきっかけに、報道手法に政府が介入してこないかが懸念されている。「夜回り禁止」というルールができれば、知りたい情報が世の中に出てこなくなる。いま、社を超えて、記者たちと皆でこの問題に取り組もうと連携している。まずは会社に変わってほしい。
■小林基秀・新聞労連中央執行委員長
先日開かれた新聞労連の女性集会で上がった声を聞いて胸が詰まった。女性記者たちが、自分たちはセクハラを我慢してきた。やり過ごしてきた。声を上げられないまま、いまの事態を招いてしまったと悔いている。
しかし、決して彼女たちが悪いわけではない。そこを絶対に間違えてはいけない。彼女たちは声を上げてきた。セクハラをうまくいなして情報をとってくるのが優秀な記者だと、そんなことがずっと繰り返されてきた。彼女たちの中には失望して退社する者もいた。自分を鈍感にしてやってきた。でも、それは終わりにしなければいけない。
安倍総理にお願いがある。省庁にまだセクハラが残っている。セクハラは人権侵害であり、許されないものだ、だから厳しく処分すると言ってほしい。下は上をしっかり見ているから効果は覿面だ。報道機関の社長にも言いたい。セクハラの認識に欠けていた。すぐに報告してくれ、わたしたちが守る、と。これでかなり改善するはずだ。
■ジャーナリスト・林美子さん
きょう、言いたいことは2つある。テレビ朝日の女性記者はいま、すごく孤立していると思う。今回の件を受け、女性記者の仲間と会社の壁を超えたグループを作ったが、彼女と同じ気持ちなんだと伝えたい。
彼女がすごく傷ついているのに誰も守ってくれていない可能性がある。彼女と同じ立場だと、それをぜひ言いたい。上司もやり玉に挙がっているようだが、取材の現場でどれだけのセクハラがあるか、重々承知していて、いま声を上げたらどういう目に遭うかよく分かった上で判断をしたはずだ。そういう上司にも自分たちの気持ちを届けたい。
取材者を男に変えればいいとか、言葉遊びだとか、ここまで言われなければいけないのか。男だろうが、女だろうが、1対1で取材して何がいけないのか。男とか女とか、それでいうな、と理解してほしい。本当に止めてほしい。女性記者一人一人が能力を発揮できる社会になってほしい。
個人的なことは政治的だという言葉がある、1対1のやりとりの間にも、政治的な関係は生まれている。すべてのセクハラは権力関係だ。いま止めなければ、ずっと女性記者は耐えろと言われる。いま女性記者は2割に達している。いまが分水嶺だ。