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2018年05月13日 17時35分 JST | 更新 2018年06月11日 04時58分 JST

沖縄の知るほどに驚く貧困、低収入・高コストで生活苦が止まらない

稼げない一方、生活コストは高い

沖縄には深刻な貧困が存在する。人々の生活苦が止まらないのはなぜなのか。現地で生の声を聞くと、本土からはわからない実態が見えてきた(画像はイメージ)
OkinawaPottery via Getty Images
沖縄には深刻な貧困が存在する。人々の生活苦が止まらないのはなぜなのか。現地で生の声を聞くと、本土からはわからない実態が見えてきた(画像はイメージ)

沖縄の貧困率は全国平均の2倍!生活保護を受給できない事情も

 沖縄に深刻な貧困が存在することは、もはや周知の事実だ。今回は、沖縄と生活保護の「いま」を紹介したい。国の制度である生活保護は、沖縄と全国の共通点、および沖縄の独自性の中で、どのように機能したり機能しなかったりするのだろうか。

 沖縄県の子どもの貧困率は29.9%(2016年、沖縄県調査)に達し、同時期の全国平均16.3 %(2015年、内閣府)の2倍近い数値だった。むろん、多数の子どもが貧困状態にあるということは、親など大人の貧困が存在するということだ。子どもに限定しない沖縄県全体の貧困率は34.8%であり、全国平均18.3%の約2倍であった(2016年、戸室健作氏)。

本記事は「ダイヤモンド・オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

 沖縄県はこの深刻な貧困に向き合い、独自の実態調査(2015年度~)、「沖縄県子どもの貧困対策計画」の策定と実施(2016年度~2021年度)、30億円の独自予算措置(2016年度)など、スピード感のある施策の数々を実施している。また内閣府も、全国で最も深刻な沖縄の子どもの貧困問題にモデル事業として取り組むべく、「沖縄県子供の貧困緊急対策事業」(2016年度~)を実施している。スピード感の維持と継続性が課題ではあるが、沖縄県は課題先進地であるとともに、取り組みへの先進地ともなっている。

 とはいえ、沖縄県の生活保護率は貧困率から見ると不自然なほど少なく、人口ベースで2.5%だ(2017年)、大阪府・北海道・高知県に続いて全国4位である。貧困率から単純に計算すると、生活保護の受給資格がありながら受給していない人々が、受給者の10倍以上存在することになる。行政側に尋ねると、「血縁や地縁の助け合いがあるから」「皆さん、生活保護より車を選ぶ」といった回答が多いのだが、どうも釈然としない。

 いずれにしても、貧困をはじめとする沖縄の社会問題は、一筋縄で捉えられるものではない。貧困一般との共通点もあれば、地理的条件や歴史的経緯と関連した独自の"貧困"もあり、それらが複雑に入り混じっている。「知ろうとすれば知るほど、わからなくなる」というのが、私の正直な思いだ。それでも無理やり要約すると、沖縄の貧困の特徴は、次の3点になるだろう。

【沖縄の貧困の特徴】

(1)収入が低く生活コストが高いため、必然的に貧困になる

(2)狭い社会・濃密な人間関係の中で、憎悪も偏見も濃縮されがち

(3)公共インフラが整備されにくい、あるいは充分に整備されていない

 公共インフラの問題は、旅行者としてホテルや旅館などに宿泊していると、気づきにくい。多くの場合、断水などのトラブルがない限りは水洗トイレが利用でき、浴室では温かなお湯を使ってシャワーを浴びたり入浴したりできるはずだ。しかしそれらは、公共インフラとしての下水道が存在することを、必ずしも意味しない。

 たとえば、竹富島・西表島・波照間島など魅力的な島々を含む沖縄県竹富町では、トイレの水洗化率は100%に達しており、全国(78.3%)および沖縄県(71.5%)よりも高い。しかし下水道の普及率は8%に過ぎない(沖縄県調査)。さらに、基地の影響もある。日本の公道・上下水道・送電線などは、基本的に他国の軍事基地の中を通過できない。このため、公共インフラの設置・整備がさらに困難になる。

 このような問題を念頭に起きながら、今回は主に、生活コストの問題を概観してみよう。

稼げない一方、生活コストは高い 移住者も音を上げる沖縄の生活苦

 観光で訪れた沖縄に憧れて移住を試みたものの、継続できずに撤退する人々は少なくない。充分な収入を得られる仕事は簡単には見つからず、生活コストは高い。「暮らして行けない」という理由によって撤退するのは、自然の成り行きであろう。

 現在、沖縄県の最低賃金は時給737円(2017年10月発効)で、全国最低ランクだ。2018年1~3月の完全失業率は3.6%で、全国最高となっている。2017年~2018年にかけては、全国的に失業率の減少が見られ、全国では2.9% 2.5%となっている。2017年、沖縄県と同等に高い失業率が見られた北海道では、1年間で3.8% 3.1%と減少している。沖縄県でも3.8% 3.6%と若干の減少は見られているものの、他地域に比べると減少幅は少ない(総務省統計局「労働力調査」による)。沖縄県の1人あたり年間県民所得は213万円で全国最下位、全国平均の306万円を大きく下回る。

 それでは、生活コストはどうだろうか。やや古いデータだが、全国の51政令都市を対象とした「地域差指数」(2013年、総務省統計局)を参照すると、全国を100としたとき、那覇市は101.2となっている。最も高いのは横浜市で106.0、ちなみに東京都区部は105.9だ。那覇市に対しては、「特に高いわけではなさそうだ」という印象を受ける方が多いだろう。

 しかし食料に限定すると、東京都区部(104.9)や横浜市(105.9)に比べて、那覇市は104.8。特に安いというわけではない。しかも所得が全国平均の3分の2に過ぎないことを考えると、「高っ!」と悲鳴をあげるべき金額だ。

 品目別に見てみると、県外から船や飛行機で運搬される品目で、特に高さが目立つ。代表的なものは白米だ。本土で1本200円のゴーヤが沖縄では2本100円であるとしても、本土では1800円で買えるコメ5キログラムを沖縄では2300円で購入せざるを得ないとすれば、地元農産物が安価に買えるからといって生活がラクになるわけではないことは明らかだろう(政府「小売物価統計調査」(2017年)を参照)。

 ちなみに福岡市出身の私は、沖縄に行く際、福岡市を経由することが多い。午後のフライトで福岡市を発ち、夕方に那覇市に到着すると、「さっき福岡市のスーパーで4個200円で売られていたのと同じトマトが、500円!」と驚くことになる。それでも私には「那覇での今晩のおかずは、福岡で買って行く」という選択肢がある。だが那覇市民は、その地での収入とその地の物価でずっと暮らしているのだ。

生活保護費では住める家がない 沖縄の離島の「住」は東京より深刻

 離島では、さらに状況が厳しくなる。週に数便の船便で運ばれてくる生鮮食料品を、島に1軒しかない商店から購入せざるを得ないとなれば、価格競争は起こりにくい。その商店にも、経営を維持するために値引き販売できない事情がある。したがって、生活コストは"高止まり"しやすい。

 それなのに、沖縄県の離島は、生活保護基準では6段階の最低ランク「3級地の2」に位置づけられている。離島多数を含む竹富町を例にとり、41~59歳の健常者の単身世帯として生活保護の生活費分(生活扶助)を計算してみると、6万4780円となった。ここから買い物に行くバス代や船の運賃を捻出し、水道光熱費を支払う。夏になればエアコンを使用しないわけにはいかない。「とても暮らせないだろう」というのが正直な実感だ。

 さらに、住まいの問題も大きい。前述の竹富町では、生活保護費の家賃補助(住宅扶助)の上限額は3万2000円なのだが、離島ではそもそも人が住める状態の賃貸住宅そのものが少ない。賃貸アパート検索サイトで探してみても、物件がヒットしないのだ。地域の事情を知る人によれば「少なくとも5万円以上だろう」ということである。

 たとえば5万円の賃貸住宅に済んで、差額の1万8000円を生活費から捻出するとなると、「とりあえず死なない」ことが精一杯という生活になるだろう。しかも福祉事務所からは、「家賃が高額すぎる」という理由による転居指導がなされる可能性があるし、従わない場合には生活保護打ち切りもあり得る。住み慣れた地域、これからも住み続けたい地域に公営住宅の空きがない限り、生活保護で暮らすことも難しい。

濃密な地域コミュニティでは生活保護への偏見も増幅される

 沖縄で「ゆいまーる」と呼ばれる血縁・地縁の中での相互の助け合いは、徐々に薄れつつある。そういった助け合いが機能するということは、小規模で濃密なコミュニティが存在するということでもある。そこでは悪意も敵意も偏見も増幅される。生活保護で暮らすことは、偏見をぶつけられて排除される覚悟とセットになりかねない。地方では「車か生活保護か」の二択になりかねないのだが、生活保護に対する偏見が強いコミュニティの中では、「生命と引き換えに社会の一員であることを選ぶか、生命を守るために社会の一員であることを諦めるか」という究極の選択もあり得る。「血縁者が生活保護を利用し始めたので縁を切った」という話は、九州全域で頻繁に耳にする。

 人口が約30万人の那覇市は、賃貸物件もスーパーマーケットも多い。生活コストは安くはないが、離島ほど苛酷な状況ではない。しかし那覇市でさえ、生活保護では生活コストが高い方から3番目の「2級地の1」に位置づけられている。生活保護費の生活費分は、41~59歳の健常者単身世帯で7万2450円、家賃補助の上限額は3万2000円。家賃がこの範囲におさまる賃貸物件は存在するのだが、おおむね「築年数40年以上、エレベータなし」。安全面に不安が感じられるし、疾患や障害を持つと暮らせなくなりそうだ。

貧困が連鎖する沖縄の歴史 低すぎる生活保護基準の見直しを

 沖縄県内の心ある生活保護ケースワーカーたちに「生活保護に関する最大の問題は?」と尋ねると、異口同音に「生活保護基準が低すぎること」と語る。さらに「これでは暮らせません」「非人道的です」「政府は、本土の人は、『沖縄だからこれでいいや』と思ってるんじゃないですか?」といった言葉が続くこともある。

 2013年以来、生活保護基準は全国的に低められすぎている。その上に2018年10月から予定されている引き下げが重なることになるのだが、本記事で具体例をいくつか挙げたとおり、沖縄県は全体的に生活コストが低く見積もられすぎている。生活保護制度が想定する地域の生活コストは6段階だが、那覇市が高い方から3段階目(2級地の1)、宜野湾市・沖縄市・石垣市・宮古島市など市部の一部が高い方から5段階目(3級地の1)、その他は最低ランク(3級地の2)だ。これが到底「暮らせない」ものであることは、すでに述べた。

 県全体の就労環境の問題、自動車を保有していないと事実上暮らせない生活環境の問題、貧困が連鎖した結果と見るべき子どもの貧困の深刻さなど、問題は数多い。

 沖縄本島で働く生活保護ケースワーカー・Aさんは、さらにアルコール依存症や生活習慣病の問題を挙げ、「沖縄は問題が山盛りといいますか......ひどい言い方ですけど、沖縄社会全体が、日本の中のスラムのような気もします」と語る。

 その背景にあるのは、27年間に及んだ米軍統治だ。当時の沖縄県民は、日本国憲法も社会福祉関連法規もない状況に置かれていた。

「基本的人権もない状態で必死で生きてきて、貧困の問題でやっとスポットライトが当たった感じがします」(Aさん)

 ケースワーカーたちは、国に実施要領を変えてほしいと訴えることができる。地域のニーズや住民の声を拾い上げ、国に伝えることもできる。

「役所の職員としての責務だと思います。しないのは業務の怠慢です」(Aさん)

 そういうAさんたちの粘り強さは、実際に生活保護の実施要領を動かしてきた。たとえば現在の生活保護制度では、DV被害者が心身と生命の安全を確保するために新しい住居に転居する場合、初期費用(礼金・敷金類)を給付できる。Aさんたちの働きかけによって、2015年に盛り込まれたものだ。

本土にいては見えにくい沖縄の知るほどに驚く貧困

本連載の著者・みわよしこさんの書籍『生活保護リアル』(日本評論社)好評発売中

 そのAさんは、現在、国会で審議されている生活保護法改正と、10月から予定されている生活保護基準の引き下げを憂慮している。

「これ以上引き下げたら、セーフティネットになり得ないでしょう。生活保護法改正も、大学進学支援だけに焦点があたっているような気がします。進学が難しい子どもの支援は抜け落ちているし......と言いますか、ありませんし」(Aさん)

 心から「このままでよい」「これが正解だ」と考えている人々は、実のところ、それほど多くはないだろう。生活保護基準の「見直し」は、この数年、事実上「引き下げ」を意味するものとなってしまっているが、たとえば沖縄県で生活コストに見合うように引き上げが行われたら、沖縄県の最低賃金も上がり、「稼げない」「暮らせない」という悩みは確実に減少する。反面、リゾート滞在やレジャーの費用は若干高くなるかもしれない。

 本土の生活を享受している者として、ときには自分のために沖縄を訪れることができる者として、分配を是正するために投票などの手段を講じることのできる者として、引き続き、本土の大都市圏にいては見えにくい問題の数々に、目を凝らしていきたい。

みわよしこ:フリーランス・ライター

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