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2018年06月18日 06時01分 JST | 更新 2018年06月18日 17時21分 JST

私は、ネットで注文できるお坊さん。お寺の跡継ぎが「お坊さん便」の僧侶になった理由

平日はフルタイム勤務、週末だけお勤め。

世の中の変化に合わせて、お寺やお坊さんとの付き合いかたも変わっている。

お布施の金額が分からない、寺と付き合いがなくてどこにお願いしたらいいのか分からない−−。そんな人たちの声に応える形で生まれたのが、お布施の金額を固定・明示し、インターネット上で僧侶を依頼できる「お坊さん便」だ。

ネットで注文できるお坊さんは、どんな人たちなのか。「お坊さん便」の僧侶として登録する男性(43)は、平日はフルタイムで勤務し、主に週末だけお勤めに当たっている。将来は実家の寺を継ぐという男性に、登録の経緯や心境などを聞いた。

Rio Hamada / Huffpost Japan
取材に応じる男性

平日はフルタイム勤務、週末だけ僧侶

男性は、母方の実家が中国地方でお寺を営む家庭に生まれた。30軒ほどの檀家を抱える、住職1人で営む小さなお寺だ。母親姉妹が跡を継ぐ意思がなかったため、長男である男性は将来の跡取りとして、中学生のころからお盆の檀家回りの手伝いなどをして育った。

大学在学中に僧侶免許を取り、卒業後は東京で就職。フルタイムの会社員として働きながら、お盆の檀家回りや年に数回ほど法事を手伝っていた。

その後、高齢になった祖父に代わり、会社員を辞めて僧侶免許を取った父親がお寺の業務に当たった。2015年に祖父が死去し、現在は父親が住職を引き継いでいる。

男性は、将来お寺を継ぐのに、僧侶としての活動する機会が少ないことに疑問を感じていたという。

「もともと、衣を着て僧侶として活動する機会が少ないというのがあまりよくない。勘と言うと変ですが、やっぱり続けてやっている方がお経もなめらかに出てきます。(お寺に関わるのは)お盆と十夜の時くらいで、少ないのはどうなのかとずっと思っていました」

そのため、2010年ごろからある「僧侶派遣」サービスに登録していたが、依頼は年に1件あるかないか。そんな時に目に入ったのが、「お坊さん便」だった。

男性は2017年2月に「お坊さん便」に登録し、平日は月曜から金曜までフルタイムで働く傍ら、週末を中心に僧侶として活動している。これまでに月5、6件のペースで依頼があったことについて、「正直、そんなに需要はないだろうと思っていたので、こんなに依頼があるとは想像もしていませんでした」と驚いている。

男性提供
男性の実家のお寺

「宗教を商品化」批判も...

「お坊さん便」は2013年5月にスタート。一律料金(3万5000円)でお坊さんを依頼できるサービスで、2015年12月にネット通販サイト「Amazon」での販売も始めたことで大きな注目を集めた。登録する僧侶は1200人以上(2018年6月時点)にまで増え、利用者の数も増加している。

ただ当初は、「お気持ち」であるはずのお布施に値段をつけたことで、「宗教を商品化している」などと仏教界から反発もあった。全日本仏教会が「お坊さん便」の販売中止をAmazon側に申し入れる事態に発展したが、全仏を支持する声はわずかで、逆に「お布施の金額が不明瞭」などと批判にさらされた。

男性は「お坊さん便」に対する批判があることを理解した上で、「派遣僧侶」として活動している。

「僧侶の読経やお話を聞いた人は、お経代として払うんじゃなくて、仏様や人のために何かをする。その窓口が僧侶やお寺です。お経代になってしまうと、お布施という尊い行為がただの商取引になってしまう」

「ただ実際には、ほとんどのお寺で、拝んで(対価として)お布施をいただくのが当たり前になっています。多分本来の意味のお布施のようなやり取りは、もうずっと前になくなっているんだと思うんです」

「そこ(お布施の金額の明示)の議論を掘り下げて、どっちが正しいというよりも、困っている人がいて、自分が拝むことで喜んでくれる人がいる。お布施の本質や寺とは違うシステムであっても、僧侶として1つの役割を果たしたことになるのかなと僕は思います」

Rio Hamada / Huffpost Japan
取材に応じる男性

「領収書出せますか?」と言われて...

実際の依頼は、どのような形で受けるのか。注文からお勤めまでの主な流れは次の通りだ。

・利用者がネット上や電話で注文。法要の内容や宗派、日時や場所を記入する(注文がAmazonやYahoo経由の場合もある)

・利用者の希望を基に、運営会社が該当する僧侶に連絡

・僧侶の予定や都合が合えばオファー成立。当日にお勤めに当たる

ちょうど取材の最中にも、男性にお勤め依頼の電話が鳴った。

お坊さん便を利用するのは、引っ越しを機にお寺と付き合いが無くなった檀家から、もともとお寺との付き合いがない人までさまざまだ。

「相手は、ネットで頼んでどんなお坊さんが来るのかという気持ちがあると思うんですよね。だから逆に、低く見られちゃいけないなとすごく気合いも入ります」

お布施は当日に受け取ることもあれば、Amazon経由などの場合は事前のクレジット決済となる。お寺の知識がない人も利用するため、お布施のやりとりをめぐって、驚かされることもある。

「『料金を先に払っていいですか?」といきなりお財布からお金を出そうとしたり、領収書を頼まれたりしたこともあります。依頼の時に『領収書は出せますか?』と言われたので、ダイソーに行って買ってきました(笑)。領収書がないと、自分の兄弟に対してちゃんとお布施を払った証明にならないじゃないかと言われて...」

「ただ、ちょっとどうかなという行動をとられたり、お寺のことを知らなかったりする方が、一生懸命拝んでお経を聞いた後は、目に見えて変わります。やっぱり衣を着た人間がしっかりと先祖やご家族の供養をするのはものすごく大事なことで、その人に影響を与える。そこが私の中で一番面白いところです」

Rio Hamada / Hufffpost Japan
男性の実家のお寺

寺の役割は「ご先祖様を大切に」と伝えること

文化庁の宗教年鑑2017年度版によると、全国に仏教系寺院は約7万7206カ所あり、僧侶の数は約34万5934人に上る。

地域差はあるが、寺院が専業で生計を成り立たせたり、寺院を維持したりするには、200〜300件以上の檀家が必要だと言われている。だがその条件を満たすのは一部で、男性の実家のように規模の小さなお寺では、住職や僧侶が兼業せざるを得ない状況という。

「祖父は若いころは普通に働いていました。お寺で生活をしながら、その近くで勤務して、数少ない法事があったらそれをやるという感じでした。父は退職してからなので、年金でやりくりしています」

男性も将来、実家の寺を継ぐつもりではいるが、金銭的な事情から今すぐにはとはいかない。

「実際に今帰っても生活ができないので、年金をもらえるようになるまでは無理かなと。父に頑張ってもらわないとなという感じですね。住職(だった祖父)がいた頃から、お寺だけでやっていける状況ではなかったので」

男性の修行仲間も、働きながら修行に来ていた人が多かったという。僧侶になった後も、男性と同じように別の仕事をしながら、お盆などだけ衣を着る人もいる。

人口減少や過疎化で、地方を中心に檀家の数も減っている。お寺と社会との結びつきが薄れ、「消滅する」とまで指摘される一方で、気軽に僧侶を依頼できる「お坊さん便」のようなネットサービスが成長している。これからのお寺の役割をどう考えるのか、男性はこう話す。

「『墓じまい』という言葉も聞かれるようになりましたが、自分の供養が迷惑と決めつけて、続いてきたお墓をしまうという考えは違うんじゃないかと思います。子供や孫はちゃんと供養したいと思っているかもしれません。だからやっぱり、お寺は必要なものなんですよね。ネットでもこれだけ困っている人がいる。『ご先祖様をちゃんと大切にしなきゃいけない』と、伝えるべきことをお話するのがお寺の役割です」

「檀家の方にとってだけじゃなくて、地域の中でも重要な役割があると思います。ちゃんと必要とされる存在であり続けるというのが重要ですよね」