山形県天童市で指されていた第76期将棋名人戦七番勝負第6局は6月20日夜、佐藤天彦名人(30)が挑戦者の羽生善治竜王(47)に145手で勝った。佐藤名人が4勝2敗で名人位を防衛。3連覇を果たした。タイトル100期目をかけていた羽生竜王は、最終盤で力及ばなかった。
最後の最後、両者ともに今シリーズ初の「1分将棋」に。大混戦となった第6局をふりかえる。
■1日目、羽生竜王の「△6二銀」でどよめき
第六局は1日目から波乱模様だった。カド番の羽生竜王は"負けたら終わり"の対局。その最序盤の2手目で、羽生竜王は「△6二銀」と珍しい手を指した。
定跡を離れた局面に、千日手の可能性を指摘する声もでていた。
この「△6二銀」について、飯塚祐紀七段は大盤解説会でこう語っている。
羽生さんは1994年ごろ、2手目△6二銀を連投していたことがあります。ただ、その後、指されなくなりました。たしか、『あまり良い手じゃない』という結論だったと記憶してます。その手を、この(名人戦の)カド番に追い込まれた対局に、もってくるとは!20数年あたためていた『魔手』ですね。
1日目は両者ともじっくりとした駒組みが続いた。午後6時半過ぎ、羽生竜王の44手目で「封じ手」となった。
■中盤〜終盤へ、超難解な局面に
2日目(20日)は午前9時から対局開始。「封じ手」は「△3一玉」だった。羽生竜王は序盤14手目で上がっていた銀将(△6四銀)を、一度引いて54手目で「△7四銀」と繰り替えた。
佐藤名人は61手目で「▲8八角」と、角の位置を転換し、攻めを狙う。これに羽生竜王は「△8六歩」から「△8五歩」と攻める。「棒銀」と桂馬での攻勢を伺っていたようだ。
佐藤名人は、いつの間にか着物を着替えていた。対局者の「お色直し」は異例。験を担いだのだろうか。
午後6時30分、30分の休憩を終えて対局再開。当初は「佐藤名人よし」と見られていたが、中盤〜終盤へと推移する中で混戦模様に。まるで「魔界」のような難解な局面になった。形勢不明な局面が、終盤まで続いた。
午後8時半過ぎ、互いに持ち時間が10分を切り、秒読みが始まった。羽生竜王は103手目の「△5三角」から「△4四角」。さらに110手目「△7八歩成」と攻め込んだ。佐藤名人も「▲1四歩」と攻めた。どちらが優勢なのか、形勢がわからない局面が続いた。
一時は「羽生竜王よし」と思える局面もあったが、午後9時40分に羽生竜王が投了。最終盤の淡々としつつも"つばぜり合い"のような攻防を、佐藤名人が押し切った。
毎日新聞は「検討陣は112手目の羽生竜王の『△7七と』の辺りで、別の決め手があったのではないか」という見方が多いと伝えている。
最後の最後、ともに「1分将棋」となった死力を尽くした戦いだった。「名人」と「竜王」の名にふさわしい、重厚かつ複雑で難解な将棋だった。