「何でも『シェア』が基本の現代で、こんなに自分勝手な楽しみは他にない」ーー。
エッセイストの山崎まどかさんは、近著「優雅な読書が最高の復讐である」で、読書の時間の豊かさを、そうたとえた。
情報が自動的に流し込まれ、どこか息苦しくも感じるこの時代に、自由気ままに楽しむことができる読書の時間は、とても貴重だ。
家でも移動中でも、本を開けば、すぐに読書の時間。日常からエスケープできる。なんて、贅沢な時間なのだろう。
山崎さんに、本を読むことの魅力や楽しみ方について聞いた。
■年齢で変わっていった、本との向き合い方
小さな頃は本さえあればいいってくらい、本に夢中でした。10代の頃は本を読んで頭でっかちになっていたところがあったんですが、身体を壊したこともあって、読書ばかりして頭でっかちになっていてはいけないと思い立ち、読書から離れた時期もありました。
20代半ばから、また読書が楽しくなって、本を読むことを大事にしようと改めて思ったんです。読書は主体的な楽しみなのだと気づかされたのもこのときです。本を読むことで身体的にフィードバックしたい、血肉にしていきたいと思うようになりました。
映画や音楽、本、それぞれに魅力はありますが、映画は作品を作った人のヴィジョンに付き合うという要素が強いですよね。時間の流れもコントロールできない。
3分だけ映画を見るってことを、私はできないけれど、本を読むことは、何かの合間合間に3分だけでもできるんです。ページをめくるタイミングも自分のペースで選べますから。
■「最後まで読んだ!」という達成感
本を読みながら思ったことや、気になったことはMIDORIのMDノート付箋に書き留め、ページに貼ってメモしています。思ったことは何でも書き留めておくのをお勧めしますね。
私は手書き派ですが、エヴァーノートなどのアプリを活用している人は、スクリーン上にあるものを一度プリントアウトして、紙で印字されたものを見たり、それを編集したりするともっと楽しめるのではないでしょうか。
洋書の翻訳もしているので、海外の本を原書で読むこともあるのですが、原書で読むのはずっと苦手でした。以前よりは読むスピードは速くなったけれど、文章のリズムや単語の難しさもあり、なかなかスムーズに読めない時もあります。
それでも翻訳本が出るなら、翻訳本を読むようにしていますが、どうしても読みたいと思った本は洋書でも買ってしまうし、装丁が可愛いとついつい手が伸びてしまいます。
難易度にかかわらず、どうしても読みたい、内容を知りたいと思える本を選ぶことが大事だと思っています。2、3ページ程度、最初は短くてもいいから読み進めていき、その1冊を完読する。「最後まで読んだ!」という達成感が、次の読書に繋がっていくと思います。
■背表紙を眺めるしあわせ
本を買うなら、本屋に行きます。というのも、本屋は自分では見つけられない作品に出会える場所だからです。ネットの情報はどんなに頑張っても、自分の頭の中の延長にあるものですから。本の背表紙を眺めているのも、幸せを感じる時間の一つです。
花田菜々子さんが店長をつとめる書店「HIBIYA COTTAGE」みたいに、個人的には女の人がセレクトした本が並ぶ店が増えると嬉しいですね。
女性ならでは、という言葉はジェンダーバイアスだと嫌われがちですが、今までとは違う新しい視点でのセレクトが楽しめたらいいな、と。
あと、三軒茶屋にあるCat's Meow Books(キャッツ・ミャウ・ブックス)が、最近のお気に入りです。
猫の本が揃っているのと、猫が自由に本棚を駆け回っていて、「猫ファースト」であると同時に、本への愛情も感じることができる。猫のお腹の下から本が出てきたり、こんな文学作品にも猫が出てる!って新たな発見もできる素敵な本屋なんです。
■読むまでの過程も書評
どこで本を買ったり読んだりしたのかも、読書の大事な要素だと思っています。
母の知り合いの話なんですけど、彼が小さかった時、学校で本の感想文を書く課題が出されて、その子は本屋さんへの道順やその本を選んだことについて事細かに書いて、感想は一言「面白かった」だけだったんですって。
それを授業で発表すると、クラスメイトからはブーイングが出たけれど、先生は切り口が面白いって評価してくれたという話があって。そのエピソードがずっと心に残っていて、そういうものを書きたい気持ちがずっとありました。
だから雑誌FRaUで書評を連載することになったとき、どこでその本を買ったり読んだりしたのかを書くことも面白いと思って、シチェーションやディテールを書いたこともありました。
旅に行くときにどの本を持って行こうか選ぶ時間も、好きなひとときです。「ここであれを読もう」とかいつも考えてしまうんです。
好きな読書のシチュエーションは、ビーチリーディングとプールサイドリーディング。本を読む自由さとヴァカンスを楽しむ自由さはすごく合っていると思います。あと、空港での読書も好きで、実際に旅行に行かなくても、この本は空港で読みたいと思ってしまうこともあるほどです。
■新著にこめた思いは
雑誌の小さいコラムから、自分でやっていたテキストサイトまで、膨大なアーカイブを、いつか発表したいと考えていました。これまで書いたものをデータ化して整理したときに読み返してみたのですが、いま読んでも面白いものもあって、本にまとめることにしました。
わたし自身は文芸批評の世界の人間ではないのですが、作品について語る時は、私なりに作者が苦しんで創作したもの同等の気概をもって、書評を返したいという気持ちがあります。
書評で取り上げるときは、昔ならより客観的なアプローチがいいと考えていたのですが、その作品に出会った時のエモーションを、大事にしたいと思うようになりました。エモーションを文章で再現するためには、どういう裏付けが必要なのかと、考えて書いています。
20代の時に常盤新平さんや植草甚一さんのエッセイをよく読んでいました。その中で紹介されている本を、本当に彼らが楽しんで読んでいるのが文章から伝わってきて、魅力を感じました。
うまく言えないんですけど、彼らが紹介している本を実際に自分で読むよりも、彼らの文章での方がその本を楽しめるんです。
なぜなのかと考えたら、彼らならではの楽しみ方とか、喜びとか興奮とかが含まれた文章だからこそ、すごく魅力的なのだと。
いま、エモーションの再現を試みているのも、そこに影響を受けてるのかなと、思う時があります。
山崎まどか(やまさき・まどか) コラムニスト。女子文化全般、海外カルチャーから、映画、文学までをテーマに執筆。著書に『オリーブ少女ライフ』(河出書房新社)『女子とニューヨーク』(メディア総合研究所)『イノセント・ガールズ』(アスペクト)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、翻訳書にレナ・ダナム『ありがちな女じゃない』(河出書房新社)など。
ハフポスト日本版は5月に5周年を迎えます。この5年間で、日本では「働きかた」や「ライフスタイル」の改革が進みました。
人生を豊かにするため、仕事やそのほかの時間をどう使っていくかーー。ハフポスト日本版は「アタラシイ時間」というシリーズでみなさんと一緒に考えていきたいと思います。「 #アタラシイ時間 」でみなさんのアイデアも聞かせてください。