東京レインボープライドは、なぜ新宿でLGBTQのパレードを開催したのか

TRP共同代表の山縣真矢さんが語ったこと
新宿中央公園から出発したTOKYO LOVE PARADEは靖国通りを抜け新宿二丁目にある新宿公園へと向かった。
新宿中央公園から出発したTOKYO LOVE PARADEは靖国通りを抜け新宿二丁目にある新宿公園へと向かった。
Sii Udagawa

LGBTQや障がい者、その支援者などが参加するパレード「TOKYO LOVE PARADE」(東京ラブパレード、TLP)が10月8日、東京都新宿区で開催され約500名が参加した。

主催はNPO法人東京レインボープライド(TRP)。LGBTQへの理解を求めて、毎年ゴールデンウィークにTRPが開催する同名のフェスティバルは近年すっかり恒例行事となった感がある。

そのTRPが急遽、パレードを主催した背景にあったのは杉田水脈・衆院議員の差別発言に端を発した一連の問題だ。

このタイミングでTLPを主催した意図とは? TRP共同代表の山縣真矢さんに聞いた。パレード開催までのいきさつ、そして山縣さん個人がこのパレードにかけた思いとは−−−。

NPO法人東京レインボープライド共同代表・山縣真矢さん
NPO法人東京レインボープライド共同代表・山縣真矢さん
Sii Udagawa

LOVEという言葉に託した問題意識

−−今回の「TOKYO LOVE PARADE」(TLP)は、杉田水脈衆議院議員の『新潮45』8月号でのLGBTQに対する差別発言に対して、「愛」で克服していこうという意図なのですか?

まず最初にお断りをしておきたいのですが、このインタビューでの私の発言はあくまで私個人の意見や見解であり、私が共同代表理事を務めているNPO法人東京レインボープライド(TRP)の団体としてのものではありません。

そこを確認してもらった上で言いますが、今回の杉田議員の言説でいちばん問題視された、生殖を生産性で語っている部分は、いわゆる優生思想につながるとても危険な考え方だと思いました。

障がい者や難病患者などからも抗議の声が上がったように、これはLGBTQだけの問題にとどまらない。LGBTQの枠を超えた人権の問題であり、「命」の問題だと思いました。ですから今回のTLPでは、障がい者団体などにも声をかけさせていただきました。

TRPがこの問題について広く訴えかけるとしたら、どういう方法がいいのだろうか。メンバーとも相談し、出てきたのが、「LOVE」という言葉に思いを託してパレードをしようということでした。

−−7月27日に行われた杉田議員に対する自民党本部前での抗議に、TRPは団体として参加を表明し、広く呼びかけました。5000人もの人が集まりましが、今回TLPを実施した背景にあるのですか?

うちのスタッフの中にも、ああいうかたちでの抗議活動に参加したのが初めてだったという人もいました。

私は、この日、ベルギーのブリュッセルにいて、現場にはいなかったのですが、これまで抗議やデモにちょっとアレルギーというか抵抗感を持っていた人もけっこう足を運んでいたようですね。

毎年、春にプライドパレードを実施しているTRPが呼びかけをしていたことで、安心して参加することができたという若い当事者たちの声も聞きました。

7月以降、様々な団体が声明を出したり質問状を出したりしていましたが、杉田議員本人からの訂正も謝罪もなく、自民党からもきちんとした回答は得られていない状況のなか、TRPとして7.27(7月27日の自民党前抗議)に参加を呼びかけて以後、何もしないというのもちょっと無責任な気がしましたし、このまま雲散霧消させてしまってはいけない。そういう思いから、TLPを計画しました。

フロートには昨年、ゲイであることをカミングアウトした声優の三ツ矢雄二さんの姿も。
フロートには昨年、ゲイであることをカミングアウトした声優の三ツ矢雄二さんの姿も。
Sii Udagawa

自民党の支持者も怒るべき

−−7.27に呼びかけをしたことについては賞賛の声が大きかったですが、一部には批判もありました。そういった反応も出てくることについては予想されていたのですか。

何らかの批判は、必ずあるだろうなとは思っていました。実際、そのとおりでしたよね。TRPの内部でも、7.27への団体としての参加や呼びかけに対する慎重論もありました。

でも、それ以上に、「怒り」の力のほうが大きかった。というか、ここで声を上げなければ、私たちの掲げる「プライド」って、いったい何なのかと。

−−TRPの基本的な姿勢としては、どの政党とも等距離で付き合うということですよね。

そうです、そのとおりです。だから毎年のTRPで行われる野外ステージでのスピーチにしろ、TRP公式ウェブ上に掲載しているメッセージにしろ、主要な政党からはすべていただいています。そういう基本姿勢を踏まえた上で、今回の杉田議員の発言は、どこの政党ということではなく、受け入れられないものでした。

−−誰であろうと、こういう発言は問題であると。

先日、自民党の稲田朋美衆議院議員が、朝日新聞紙上で、「LGBTの問題は、歴史認識やイデオロギーとは関係なく、人権の問題だ」と語っていました。まさに、そのとおりだと思いました。

LGBTQイシューは「人権」の問題で、だからこそ、保守もリベラルもなく、政党や党派を超えて、差別やスティグマを解消していくための制度づくりができるはずなんです。国際的に見てもそうですし、ましてや先進国であれば、LGBTQへの差別を解消していくための法整備は当然あってしかるべきものです。

杉田議員の言説は稲田議員の発言にも反するもので、自民党の「基本的な考え方」とも相容れない。どうして自民党を応援している人たちが、杉田議員にきちんと訂正や謝罪を求めないのか、不思議に思います。

−−保守系の議員である稲田氏が「LGBTの問題は人権の問題」と発言したのは大きいですよね。

繰り返しになりますが人権の問題だと認めたからには超党派で差別解消のために取り組むべきだということになります。

そしてまた人権の問題ということは、「平等」の話ということにもなります。憲法14条には「法の下の平等」が定められていますが、それは「婚姻の平等」につながっていきます。

今のところ、日本においては、異性のカップルが当たり前に選択できる「婚姻制度」を、同性のカップルは使うことができません。

「婚姻」という「特権制度」から同性カップルは排除されているわけです。平等ではないのです。いわゆる「同性婚」って、マイナスをゼロにすることであって、特権を与えるものでもなんでもないんですよ。

思い思いのプラカードを掲げて歩く参加者たち。
思い思いのプラカードを掲げて歩く参加者たち。
Sii Udagawa

(cap)

LGBTQのみならず障がい者の団体など幅広く参加が呼びかけられた。中には70歳過ぎの女性の姿も。
LGBTQのみならず障がい者の団体など幅広く参加が呼びかけられた。中には70歳過ぎの女性の姿も。
Sii Udagawa

デモや抗議も政治に参加する方法

−−抗議行動やデモをすると、LGBTQの当事者は怖いと思われるんじゃないかという人もいます。

メディアやインターネットなどで、「デモ=怖い」というイメージがいろいろ流されていたりするからでしょうかね。

暴動を起こしているわけでもなく、制度に則って、足を踏まれたから「痛い!」って声を上げているだけなのに。

「Silence=Death/沈黙は死」という言葉があリますが、足を踏まれたのに、何も言わず我慢したり、我慢を強いたり、「痛い!」と言う人を白い眼で見たり、そういう社会のほうが、よっぽど怖いように思います。

−−同調圧力の強い日本社会ゆえなのでしょうか?

自分の意見を表明したりすることに慣れていないというか、御上に楯突くことを忌避するメンタリティというか。

「民主主義」って、歴史の中で、独裁者や権力者から、民衆が勝ち取ってきたものなわけじゃないですか。その過程で、「デモ/抗議」って、とても重要な役割を果たしてきたわけで、現代においても、民主主義を機能させていくための、政治参加の方法の一つとして必要なものなんだと思います。

選挙への投票だけが、政治参加の方法ってわけじゃないですから。ドイツとかでは、小学校でデモの手順や意義を教えているといいますしね。先進国で、日本ほどデモを怖いもの扱いしている国もないんじゃないでしょうか。

−−先進諸国と比べるとデモが少なく規模も大きくならない印象ですね。

アメリカの黒人解放運動にしろ、ストーンウォール事件で大きく動いたゲイ解放運動にしろ、まずは抗議の声を上げたところから始まっていて、その「怒り」が共鳴し、デモ行進が起こって連帯が広がり、社会が動いていきました。

パレード後、新宿マルイ・メンが会場を提供し同所屋上で行われたクロージングイベント。乙武洋匡さんら参加者がスピーチ。
パレード後、新宿マルイ・メンが会場を提供し同所屋上で行われたクロージングイベント。乙武洋匡さんら参加者がスピーチ。
Sii Udagawa

非対称性を無視して対話を言いつのる欺瞞

−−「対立ではなく対話を」という人もいますが。

そういう言い方はちょっと乱暴で、もちろん抗議ばかりしていては対立だけが際立ち、解決の糸口も見つからないわけで、しかるべき段階での対話は絶対に必要だと思います。とはいえ、声を上げないと、何もなかったことにされてしまいますよね。

対話といっても、友達同士や顔見知り同士なら、それこそ酒でも酌み交わしながら、お互いに面と向かって胸襟を開いて話をすれば解決に至るかもしれません。

でも、相手が全く面識のない、それも国会議員という「偉い方」に、一方的に心ない言葉をぶつけられた場合、どのようにすれば対話ができるのでしょうか。こちらから質問状や声明を出しても、なしのつぶてな状況が続いている中で、市井に暮らす一市民ができる対話とは、どんなものなのでしょうか。

差別やスティグマ(偏見)に生きづらさを感じているマイノリティ当事者にできることは? そこに横たわる「非対称性」や「権力構造」も見ておかないと、真実を見誤ると思います。

........

杉田議員によるLGBTQへの差別発言から始まった一連の問題は、決してセクシュアル・マイノリティだけの問題ではない。生産性で人の生殖を語る杉田議員の発言は多くの人を傷つけた。これはすべての人の人権の問題なのだ。

同時に、この件に関して巻き起こった議論は、人権やマイノリティの問題に対する、政治のあり方の問題も浮き彫りにしたように思う。

一部で見られた、デモや抗議活動に対するフォビア(恐怖症)のような反応は、極めて日本的であり、社会に閉塞感をもたらしている元凶なのかもしれない。

LGBTQの権利獲得を求める運動が、他のさまざまなマイノリティと連帯するきっかけになるのではないか。日本社会の息苦しい状況に風穴を開け、マジョリティを含めた誰もが生きやすい社会を実現する端緒になるのではないか。

パレードを取材して、筆者はゲイ当事者としてそんな期待を抱いた。

(取材・文:宇田川しい 編集:笹川かおり)

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