キャリア
2019年02月07日 13時13分 JST | 更新 2019年07月09日 13時28分 JST

「パイオニアになりたい」eスポーツ実況をするため、局アナをやめた平岩康佑さんに迷いはなかった。

「自分がアナウンサーとして身につけてきた技術を示すことで、eスポーツを面白くできるんだという事を見せたかったんです」

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2018年esports専門の実況キャスターに転身した元・ABC朝日放送の平岩康佑さん(写真右)

「パイオニアになりたいという意識がありました。プロとして、実況があればeスポーツはこんなにも面白いんだというのを見せたかったんです」

こう話すのは、2018年にアナウンサーとして勤めていた大阪のABC朝日放送を退社し、代表として自ら株式会社ODESSEYを立ち上げ、eスポーツ専門の実況キャスターとして活動する平岩康佑さん(31)だ。

eスポーツはエレクトロニック・スポーツの略。コンピューターゲームの対戦をスポーツ競技にしたもので、あらゆる対戦型ゲームがeスポーツとなっている。欧米などでは、高額な賞金がかけられた世界的な大会も開催中だ。

平岩さんは、スポーツ実況での実績が評価されANNアナウンサー賞(テレビ朝日系列)で優秀賞に輝くなど、民放局アナウンサーとして輝かしいキャリアを築いてきた。リアルなスポーツ実況の現場からバーチャルな世界での実況に活躍の舞台を移した平岩さん。

なぜ、新たな世界に挑戦する道を選んだのか。eスポーツキャスターに転身した経緯や、「実況者」の視点から見たeスポーツの魅力と課題、転身して実感した現代の働き方について語ってもらった。

■「局アナ辞めること、後悔は一切なかった」

ーeスポーツキャスターに転身したきっかけは?

eスポーツには2016年くらいから注目していました。翌年の2017年に朝日放送でアナウンサーをやりながらeスポーツ実況を担当させてもらったことがあって、そこからeスポーツが頭から離れなくなったんです。

転身したきっかけは主に2つありました。まずは何よりゲームが好きだったということ。休みの日は1日18時間プレイするくらいでしたから。(笑)それを仕事にできるなら...という思いでしたね。

局アナ時代は、リアルスポーツの実況もやらせてもらっていましたけど、実はそこまで好きではなかったんです。仕事として実況はしてましたけど、いきがいと言えるまでには至っていなくて、やっぱりゲームという自分の一番好きなコンテンツを仕事にしたかったんです。

もう一つは、ビジネス的な理由でした。ゲーム業界でアナウンサーが1人もいなくて、今自分が辞めれば最初の1人になって先行者利益がとれるだろうし、今後需要があるというのを感じてきていたので、パイオニアになりたいという意識はありました。

ゲーム業界に、自分がアナウンサーとして身につけてきた技術を示すことで、eスポーツを面白くできるんだという事を見せたかったんです。局アナを辞める事、退社する事への迷いは一切なかったですね。

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esports実況に特化した株式会社ODESSEY代表を立ち上げた平岩康佑さん

■実況者目線からのeスポーツ論

━━eスポーツならではの魅力は?

人がスポーツを観て応援したくなる理由って、選手たちの生き様やバックグラウンドに共感するからだと思っています。なので、実況者として選手の背景を伝えるという事は、リアルなスポーツと変わらず、eスポーツでも同じように意識していて、その土台は一緒です。

ただ、eスポーツの場合はオープンな大会が多く、プロもアマチュアも同じ舞台で戦います。例えば、プロゲーマーと16歳の高校生が対戦して16歳の高校生が勝ったりとか、女性が出てきて男性の有名なプレイヤーを負かしたりとか、対戦相手同士のバックグラウンドや境遇のギャップが非常に大きいんですね。これは、eスポーツならではの魅力です。

それに、男子とか女子とか性別で分かれていないですし、障害を持っている人もカテゴリーで分けられたりしない。全員が平等にできるというのは、大きな魅力だと思いますね。

━━リアルなスポーツとeスポーツ、実況面での違いは?

リアルなスポーツとの大きな違いの一つは、eスポーツでは、観ている人というのは基本的に今まさにそのゲームで遊んでいる人、玄人(くろうと)なんです。なので、彼らのゲームへのリテラシーはものすごく高くて、とても詳しいんですよ。

一方で、例えば東京ドームにプロ野球を見に来ている人は今現在はほとんど競技者ではない場合がほとんどですよね?すなわち、素人の観客の割合が多い。現状ではそこが大きく違います。

なので、eスポーツを実況する上ではゲームを深く理解していることが最低条件ですし、彼らが驚くところや心が動くポイントって非常にコアな部分なので、彼らに刺さるようにするために、実況に際しても彼らと同じか、それ以上のリテラシーが求められるんです。

あともう一つ、試合会場で自分たちの声が流れるというのは大きいですね。その理由は、eスポーツではゲームの音と僕らの実況と観客の声が合わさって初めて、1つの空間が作られるからです。例えば、局アナ時代はプロ野球を中継しても、球場に自分たちの声が流れるわけではなかったですから。

一方でeスポーツは、まさに実況者である僕らが観客を巻き込む必要があるというか、見ている人たちの喜怒哀楽を誘導しなきゃいけない。プロ野球の実況では基本的にプレーを追いかけていたけど、eスポーツの実況をするようになって、観客の反応を見て喋る事は常に意識するようになりましたね。

━━海外のeスポーツ市場の盛り上がりと比べて、日本が遅れをとっている理由とは?

海外の市場と日本で何が違うのかというと、まず、日本では「観る専」(観るだけのeスポーツファン)が少ないんです。海外ではその数が多い。日本では、特に2010年代は一度若者を含めてかなりゲーム離れが進んだ印象でした。そこからスマホの普及で皆がソーシャルゲームを楽しむようになって、今はそのソーシャルゲームに飽きてきた人たちが徐々に本格的なゲームを楽しむようになってきた段階だと思います。

同じアジアでも、韓国ではeスポーツがものすごく盛り上がっていますが、現状を見ると女性のファンの数がものすごく多いんです。実際にイベントに行くと、スタジアムの半分から、試合によっては9割くらい女性客のこともあって驚きます。彼女たちはお目当ての男性プロゲーマーを応援しに来ている。

彼女たちは一度会場で観てeスポーツの面白さを理解すれば、徐々に競技自体に興味が湧いて、通な見方も次第にできるようになってくる。日本も、そういう「観る専」のファンをどう増やしていくかが課題です。

もう一つの視点としては、ゲームを遊ぶ事自体の文化がまだ出来ていない。だから市場が盛り上がりつつある今でも、日本では未だに、eスポーツは「エンタメ」なのか「スポーツ」なのかという議論がある。海外にはその議論はもうほとんどないですから。海外でeスポーツが流行り始めた時、日本ではYouTubeなどでゲーム実況が流行りました。

これは非常に良い流れだと思ったんですが、その反面、多くの人は動画は観るけど結局ゲームをプレイせずに終わっちゃったんです。ゲーム実況を観ることが流行った影響で、逆に自分たちでゲームをやるという機会が少なかった。この差はあるように感じました。

最後に、教育の面。子どもたちがゲームに夢中になる事は度々議論になりますが、夢中になる事を周りがあまり怒らないで、もっと認められて、楽しんで出来る環境になればいいと思います。

■目標はオリンピックでの実況

━━自身の今後10年後の目標は?

第一人者としては、やっぱりeスポーツが正式種目に採用されたらオリンピックで実況がしたいですね。そして、実況キャスターとしての活動だけではなく、未来のeスポーツ界を担う人材の育成に向けて、教育面においても出来る事に挑戦していきたいですね。

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放送の世界からeスポーツという新たな舞台へと飛び込んだ平岩さんの言葉は、力強かった。このインタビューをした私自身、放送局からネットメディアへと転職しただけに、その決断の重みがよく分かった。

スポーツ実況の経験を生かして、リアルからバーチャルへと活躍の場を移した平岩さん。「元・局アナ」としてのキャリアの生かし方は、時代に合わせて変わりつつある。一歩外の世界に出ることで、新たに拓ける道があるのかもしれない。

近日中に公開する平岩さんのインタビュー続編では、「局アナ」を辞めたことで見えてきた現代の働き方への考えや、eスポーツ市場における未来の人材育成へのビジョンについて聞く。