前編記事では、フィリピンにおけるFabLab(ファブラボ)事情についてお伝えしました。
後編では続いて、フィリピン・ボホール島の、開かれたものづくり工房・ファブラボ(FabLab)の具体的な活動内容をご紹介します。
FabLab Boholの活動
ボホール島にあるFabLabは、だれもが利用してものづくりができる場所として市民に開放されています。
いろいろな活動を以下に列記しました。書ききれないものもあり、とても忙しそうです。
■イベントの運営
・第1回FabLabアジア会議の主催
・Tech Conference & Maker Festaの運営
・ハードウェアスタートアップのためのワークショップを開催
・フィリピンと日本を繋ぐものづくりイベント(BHL i2i)主催
■中小零細企業支援
・お土産開発:3Dプリンタによる量産用石けん型作成
・地元材料を用いた産製品のNPO支援
■教育
・ 問題解決型カリキュラムの作成(PBL: Problem-Based Learning)
■問題解決型プロジェクトの企画・実践
・震災で崩れた幼稚園を復旧「Wiki Houseプロジェクト」
・ゴミを資源にする「プラスチックリサイクルプロジェクト」
・3Dプリンタで作る「途上国向け低価格義足開発プロジェクト」
この中から今回は、3つの活動をピックアップしてご紹介します。
第1回アジアファブラボ会議
2014年5月にFabLab Bohol主催で行った大規模な会議が、このFAN1 (FabLab Asia Network:ファブラボ・アジア会議) です。
アジア各国から集まった参加者がスキルやプロジェクトを紹介したり、実際にそこでものづくりが行われたりしました。
▶ボホールで開かれた第1回ファブラボ・アジア会議の様子
この会議はFabLab Boholのお披露目会も兼ねていて、フィリピンのアキノ大統領もFabLab Boholを訪れ、フィリピン国内に15ヶ所のFabLabを政府が設立することを決定しました。
また、FAN1というアジア会議の活動それ自体、日本のGood Design賞を受賞しています。
お土産開発:3Dプリンタによる量産用石けん型作成
ボホールは、収入のほとんどを観光業と、自給自足のための一次産業に頼っています。
島に大きな港がないこともあり、島内の製品はセブ島から輸送され、島内に製造業はほとんどありません。また、仕事を求めて大都市へ出て行ってしまう人も多いのが現状です。
そのため、FabLabは、島内の産業開発として「中小零細企業支援」を行っています。
▶3Dプリンタを用いたボホールのお土産用石けん型
上の写真は、お土産品として量産するために、水牛ミルク石けんの型を3Dプリンターで作成したものです。
製品そのものを作るだけでなく、FabLab機器を利用することで、製造過程を改善することも可能である一例です。
3Dプリンターで安価な義足を
FabLabが行っているプロジェクトのひとつに、3Dプリンターで作る義足プロジェクトがあります。
▶3Dプリンターで作った義足
フィリピンには、栄養状態の偏りから糖尿病 にかかってしまい、足を切断せざるを得なくなってしまうという方が数多くいます。
現地では最も安い義足でも2万円以上します。
一方、義足をつくる義肢装具士は全国に46人(2010年現在)しかいないので、義足を必要とする約35万人のうち9割が義足を手にすることができていません。
このような現状に対し、3Dプリンターを使って、現地で安価な義足製作 を可能にしようと、FabLab Boholで始まったのがこのプロジェクトです。
日本のシードベンチャー企業である株式会社SHCデザイン、義足ユーザーや義肢装具士、慶應義塾大学、FabLab関内など様々な方々の協力のもとで、現在も継続的にプロジェクトを行っています。
このプロジェクトは現在、フィリピンでの成果を受け、日本へも広げていこうという動きがあります。
初めはフィリピンの問題解決のために始まったこのプロジェクトですが、安価で、個人向けにカスタマイズが簡単な3Dプリンタによる義足製作は、途上国だけでなく、先進国でも生活の質向上のために需要があります。
途上国から世界へ、ものづくりを発信
▶地元住民が参加した、落ち葉でデコレーションをするLeafプロジェクト
以上のように、途上国の「田舎」だからこそ、地域で解決すべき問題が山積みで、FabLab Boholのできること、やるべきことがたくさんあります。
保健・衛生、教育、電力、環境、農業、医療など、さまざまな分野でFabLabを生かした取り組みが行われています。
ここで生まれた発想や取り組みは、フィリピンに留まらず、他の途上国、先進国へも広がる可能性の高いものです。
FabLab Bohol、今後の活動も目が離せません。
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ライター
高寺 優子/Yuko Takadera
東大機械工学科卒、東大院を半年で中退。南米・アジアを半年かけてバックパックし、「ガンジス川でバタフライ」を文字通り実行。強靭な体とタフさが武器。休学中にインターンとしてNexSeedの立ち上げ最初期から参画し、中退後は社員としてジョイン。現在は、経理、法務、労務、人事などバックオフィス全般を幅広く担当している。今後は、ものづくりとBOPを絡めた事業で地域の人々にも笑顔を広げたい。
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