去る9月12日(日)は、世界中のイスラム教徒の人々にとって大切な祝日、イドゥル・アドハ(犠牲祭)でした。今回は、インドネシアから、私が体験した犠牲祭のお話をお届けします。
犠牲祭とは、「ムスリムにとって最も重要な行事のひとつ。メッカ巡礼がピークを迎えるイスラムのヒジュラ暦12月10日。預言者イブラヒムが神アッラーから最愛の息子イスマイルをささげるよう啓示を受け、短刀で切ろうとした時、羊に代わったというコーランの逸話に基づく慣習」だそうです。
目的は信仰心を高めることで、捧げた肉は貧しい人々や友人・知人に「喜捨」として振る舞い、残りは家族で食べます。
▶犠牲祭の肉を料理するおばちゃんたち
予定外で犠牲祭へ
これは昨年2015年の犠牲祭前日のお話です。
ジャカルタから、仕事で100km先の産地に行こうと、バスで3時間。
やっと到着し、「さぁ、働こう〜!」とすると、うちのスタッフが「今から僕、実家に帰る。4日間は戻りません」と言いだしました。
「えー、休むなら先に教えてよ! 仕事にならない。どうしよう」と考えていると、なんと「僕の帰省について来る?」と誘うのです。
「確かに、ここ(産地)に、ひとりでいてもね......」と、スタッフの帰省に便乗することに。「Deal!(取引成立)」と彼も喜んだのは、バス代を出して欲しかったからだったようでした。
そして、再び100km以上の長距離移動となりました。
バスを数回乗り継いで、標高600~700mある観光地のふもとに着いたのは、夜の9時すぎ。
さすがに寒くてお風呂には入れず(マンディという水浴びがインドネシアの習慣なので、お湯のシャワーはありません)、疲れてぐっすりと寝てしまいました。
子どもたちにも見せて伝統を継承
犠牲祭、当日。
スタッフの家族たちは夜明け前から、動き始めます。
が、すっかり気持ちよく寝てしまった私。目が覚めた頃には、朝の支度が出来上がっていました。
「始まっているよ〜」と、スタッフに連れられて行ったところは、その地域のモスクでした。
そこでは、牛の屠殺が行われていました。
▶祈りを捧げて、肉をさばく。信仰心を高める大切な儀式だ
手順はこうです。
まず、地域の有志が、喜捨用の牛やヤギを購入してきます。
価格は、牛1頭/15,000,000ルピア(約13万円)、ヤギ6頭/3,000,000〜4,000,000ルピア(約26,000円~34,700円)で、インドネシアでは非常に高額です。
そして、屠殺の前には、皆で生き物を囲んで祈りを捧げ、頸動脈から一気に締めていくのです。
動物は全てオス。それを男の人たちがさばいて各部位を測り「今年は立派だね」なんて会話をしながら、楽しく、かつ神聖に手を進めていきます。
モスクの別の場所では、お母ちゃんたちが集まり、これまた楽しく料理をしていました。
さばいた肉は、細かく分けて、その地域の100世帯に均等に分けられたそうです。
この儀式、小学生たちも参加しています。
大人の背中を見ながら動物をさばき、料理し、食べる過程を学ぶのです。
▶儀式には子どもたちも加わり、大人の背中から学んでいる
「大事なことだよね」と、有志として犠牲祭で捧げる喜捨用の牛やヤギの購入に出資した、スタッフのお父ちゃんも話していました。
貴重な場を共有させてもらったことに感動していると、「来年はぜひ頸動脈を切る作業を」と誘われたのでした(笑)。
オンラインのデリバリーサービスも好評
時は過ぎ2016年、今年の犠牲祭。
なんと、今年は喜捨用の牛やヤギをオンライン注文できる、デリバリーサービスが好評だったそうです。
一昨年には、また別のスタッフが「◯キロ以上のヤギが必要だ!」と、仕事よりもヤギ探しに奔走していたこともありましたが、これまでのように牛やヤギの伝統的な路上販売に加えて、より便利なサービスが進みつつあるようです。
インドネシアには国家喜捨庁というものがあり、オンライン喜捨プログラムを2005年から開始しています。若い人たちにも喜捨を勧めようと、これからの需要拡大をねらう動きがあるのです。
既存のオンラインサービス(Tokopediaやblibli.com)に加えて、各地域の牛・ヤギ販売所もそれぞれにサイトを立ち上げるなど、「伝統×ネット」という新しい形には、この国の成長スピードを感じます。
この状態を例えるならば、1980年代の日本にスマホや通販など、最先端のIT技術があるという感じかと。驚きですよね!
生活水準も国の経済力もこれから右肩上がりになっていく段階で、テクノロジーはすでに最先端。
このギャップにどこまでついていけるか。
日本で学んできたマーケット・販促のセオリーがすぐには通用しないのが、悩ましく難しく、だからこそ面白いのだと思います。
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ライター
公子(こうこ)/Koko
1985年福岡生まれ。 大学在学中にイギリスへ交換留学。 海外就労に憧れていたら、ハウスメイトのガーナ人から「日本でできることもたくさんある」と言われ、リクルート「九州じゃらん」やキャナルシティ博多で地域活性に従事。 26歳で地元を離れ、移り住んだ長野・小布施町での農業との出会いが人生を変える。日本米の生産でインドネシアへ来て2年半。日本の外から「食」を支えるべく奮闘中。
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