「大丈夫じゃなくても大丈夫」カウンセラーの言葉が勇気をくれた。ハーバード大学での心のケア

些細な不安であっても、カウンセラーなど「相談できる相手が常にいる」状態をつくることは、すべての大学が考えるべきテーマだと思います。

こんにちは。

今回のブログでは、私の通っているハーバード大学における「キャンパス内の心のケア」について書こうと思います。

日本の大学生40人にヒアリングをしたところ、日本の大学キャンパスにおいて、カウンセリングなどの「心のケア」を受けることはあまりメジャーではない、との印象を受けました。

大学生など若者が悩むのは当たり前で、特別なサポートなど必要がない、と思われる方もいるかもしれません。あるいは、悩みは友達に相談するもので、大学が関わるべきでないという意見もあるでしょう。

ただ、些細な不安であっても、カウンセラーなど「相談できる相手が常にいる」状態をつくることは、すべての大学が考えるべきテーマだと思います。

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■ ハーバード生の7割以上がメンタルヘルスのサポートを受けている

2016年に卒業したハーバード生(学部)のうち、73.9%が何らかのメンタルヘルスのサポートを受けていたというデータが発表されました(ハーバード大学の関連記事はこちら)。

ハーバードでは、「話を聞いてもらいたい」という気軽な気持ちで大学の保険対応内でカウンセリングを受けることができ、「自分だけですべて解決しなくても大丈夫」という、サポートを受ける文化が根付いているように感じます 。

中には、生死に関わるような深刻な悩みや精神病を抱えてカウンセリングを受ける学生もいます(そのような学生の診療は優先されています)。

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■ 「完璧」に見えるクラスメイト

入学当初、 私は周りのハーバード生がみんな「完璧」に見えました。

私のルームメイトは、幼い頃から国内外の様々なコンテストで賞を総なめにした数学の天才。

心理学の授業で隣に座っていたのは、最年少でショパンコンクールに入賞したピアニスト。

校内ボランティアで出会ったプログラミングが得意な友人は、アメリカの名門寄宿舎学校出身で、両親も共にハーバードの卒業生。

輝かしい経歴がある上、驚くほど優しくて面白い人たちが、キャンパスに溢れていました。

SNS上だけでなく、実際にも「完璧」に見える周りの学生たちに、欠点や悩みなどあるのだろうか。私は何らかの間違えでハーバードに入っちゃったのかもしれない。私はここにいるべき人じゃない。

そんなことを考えて、恐ろしいほどひとりぼっちな気持ちになることが多々ありました。不安や悩みがある中生活していた自分が、いかに「完璧」からかけ離れた存在でいるかばかりを考える毎日を過ごしていました。

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■ 「私はハーバードにいるべきじゃない」

大学が始まってから数週間後、授業のペースが早くなり、課題に追われる日々を送っていました。

そんなある日、図書館から帰宅して寮の共同バスルームの戸を開けると、いつも笑顔のルームメイトが、床に体育座りをして泣きじゃくっていました。

「どうしたの?」彼女の隣に座ってハグをすると、心を開いてくれました。

「私、ハーバードにいるべきじゃないのかもしれない。課題がありすぎて、終わらないの。この前の小テストも、時間が足りなくて全然できなかったの。授業もついていけない時があるの。こんなこと初めてで、自分がトップだと思っていた自分が情けなさすぎて、もう、何もかもが嫌になっちゃった。今も勉強するべきなのに。。。涙が止まらない。もう帰りたい。」

私は何よりも彼女のことが心配だったけれど、心の隅でホッとしました。

全ての面で「完璧」に見える彼女でさえ、不安になることや、泣きじゃくるときがある。当たり前だけれど、その時まで見えていなかった事実を目の当たりにし、肩の荷が下りるような気がしました。

このあと、彼女はプロクター(寮に住む学部生の世話をしてくれる大学院生)と話し合って、大学の付属病院でカウンセリングを週1回受けることになりました。

週を重ねるごとに、彼女の曇っていた表情が明るくなり、以前のような輝く笑顔を取り戻していきました。

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■ 初めてのカウンセリング

バスルームでの出来事から1カ月後。

私は日々の勉強のことや人間関係などについてルームメイトに相談していたとき、カウンセラーにも話を聞いてもらうことを勧められました。彼女に勇気づけられ、初めてカウンセリングを受けてみることにしました。

カウンセラーと話すまでのプロセスはとてもわかりやすく、簡単でした。

まず、大学のウェブサイトでカウンセラーによる電話診断を予約。その日、もしくはその翌日にかかってくる電話で、今の自分の状況を説明。電話カウンセラーと相談をしながら、一番話しやすそうなカウンセラーを選び (女性、男性、LGBTQ+などの性的少数者の悩みを専門としている人...など、沢山のカウンセラーがいる)、空いている日にちに予約を入れる。そのカウンセラーと相性が合えば、2回目の以降はその人と話し合い、頻度や期間を決める。

このようなプロセスで、電話カウンセリングから3日後、授業後にキャンパスから徒歩1分の大学病院で、カウンセリングを受けることができました。

ハーバードでは、通常プロセス以外に、今すぐに話したいことがある時や、緊急時には、24時間いつでも大学の緊急病棟でカウンセリングを受けられます。

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■ カウンセラーにだからこそ言えること

結局、私は2-3週間に1回のペースで大学のカウンセリングに通うことにしました。

目から鱗でした。悩みの相談相手としてルームメイトや友達は助けてくれますが、いつも負担をかけたくありません。親しい人だからこそ相談しにくいこともあります。

初め、私が悩みを打ち明けにくそうにしていると、カウンセラーは、

"You can dump all your problems on me, no matter how small - I get paid to do this!"

(=「どんな小さなことでも、悩んでいること全部吐き出していいんだからね!私はこれでお給料もらってるんだから!」 )

と言ってくれました。

「職業上のつきあい」だからこそ、ある意味、友人関係以上の「気軽さ」があるのです。

カウンセリングのおかげで、物事をよりポジティブに捉えられるようになり、驚くほど毎日が明るく、鮮やかになりました。

カウンセリングを受けてよかった、と心から思います。

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■ 日本の大学での「心のケア」

日本の大学での「心のケア」の実情を把握するために、40人の日本の友達に匿名アンケートを送りました。

「あなたは、大学でカウンセリングなどの『心のケア』を受けたことはありますか」という質問に対して、「はい」と答えた人は2人(5%)でした。

任意の自由コメント欄には、様々な声が集められました。

『大学でメンタルのカウンセリングが受けられるのはとても良いシステムだと思う。 ただ周りの目には配慮が必要だ。 大学生がカウンセリングに行く所をその人の友達や知り合いが見たら、あまりプラスイメージにはならないし、不必要な噂等が流れるリスクがある。』

『大学生こそ気持ちが落ち込んだ時に自力で抜け出せないと思うから、もっとカジュアルにカウンセリング室が使われて欲しい。ただ、ネガティブな印象が実際にはかなり強いと思う。』

『やはり、キャンパス内にカウンセリング室があったとしても、なかなか通えない。 人間関係が浅く広い大学内では、より一層周りの目を気にしてしまう。 自分のことを知っている子の人数は多いが、深く理解してくれている子はとても少ない。』

私がアンケートを配布した40人の大学生のみの意見が、すべての日本の大学生を代表する意見である、と思っている訳ではありません。

伝えたいのは、日本ではまだカウンセリング文化があまり浸透しておらず、カウンセリングに通いたくても周りからの批判的な目が気になって通えずにいる大学生がいる、ということです。

心のケアは、「社会人」と「生徒」の中間地点にいる大学生に特に必要なサポートなのではないでしょうか。

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■ 日本のメンタルヘルス

日本財団が2016年に行った自殺意識調査では、4人に1人が「本気で自殺したいと考えたことがある」と回答しました。

さらに、大学生があてはまる20-39歳の若年層は「最も自殺念慮や自殺未遂のリスクが高い世代」であると判明しました。

2006年に行われた厚生労働省による調査でも、日本の自殺率は世界的にもワースト10に入ることがわかりました。

カウンセリングがもっと社会的に受け入れられるようになり、より広く普及することでこの実態がすべて解決されるわけでないですが、解決の糸口にはなると思います。

今回のブログは大学生にフォーカスしましたが、ひとりで様々なことを抱えている全ての人が、気軽に助けを求めることができるような社会になって欲しい、と心から思っています。

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■ 伝えたいメッセージ

カウンセラーとの初めてのセッションで言われた言葉に、私はいつも勇気をもらっています。

"It's okay not to be okay."

(=「大丈夫じゃなくても、大丈夫なんだよ」)

このメッセージを、全ての人に伝えたい。

「大丈夫じゃなくても、大丈夫」

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【注】

40人への匿名アンケートは、ブログ記事を書くにあたってイメージを把握することを目的としたため、国内の大学に通っていることが確認出来る知人内で留めました。厳密な実態調査を目的としたわけではないことを、ご了承ください。

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