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2015年09月11日 08時49分 JST | 更新 2016年09月09日 14時12分 JST

地球温暖化国際交渉・国内対策に関する緊急提言(3)-COP21に向けて-

日本の強みである低炭素技術の世界レベルの普及、人類未踏の革新的技術開発を実現することで、温暖化問題の抜本的解決に貢献せよ。

提言3

⒈ 日本の国内対策では、産業界の「環境自主行動計画」、「低炭素社会実行計画」がプレッジ&レビュー型の取組みとして、温室効果ガス削減やエネルギー効率の向上に大きな成果を挙げてきた。同様のボトムアップの概念に基づく国際枠組みが合意されようとしている今、この取組みを成功させたPDCA サイクルの回し方に関する日本の経験を活かして、新枠組みの成功に向けて知見提供や情報発信を積極化せよ。

⒉ 成功のために重要な要素は、状況変化に応じた目標の柔軟な見直しを認めること。それによって参加へのハードルを下げ、各国が参加し続けることが必要。

⒊ 日本の強みである低炭素技術の世界レベルの普及、人類未踏の革新的技術開発を実現することで、温暖化問題の抜本的解決に貢献せよ。

⒋ 日本の貢献や対策の考え方を積極的に世界に発信せよ。

<日本の貢献のあり方、その1--ボトムアップ型枠組みの成功を導く>

● 今次交渉の最大の焦点は、全ての主要排出国が目標を自主的にプレッジし、達成に向けた政策とその実施状況を的確に評価・検証し、次のアクションにつなげられるようにするためのプレッジ&レビューの仕組みづくりである。すなわち、各国が自国約束草案を実行していく段階で、PDCAサイクルを確立することこそが最も重要なポイントとなる。

● 温暖化政策に関する原理主義的な立場から、他国の削減目標の水準やその達成状況のアラ探しをして論難するような、対立的、懲罰的(punitive)なプロセスにしたのでは、枠組み参加へのハードルを上げるだけで、結果的に全ての主要国の参加という今次交渉の目標を阻害することになる。このプロセスが有効に機能し、好循環を生むためには、互いの削減目標の内容、その達成のための手段を明確化しつつ、目標達成に向けて互いのベストプラクティスに学び、励ましあうような協力的(cooperative)で促進的(facilitative)なものであるべきだ。

● 日本では産業部門の温室効果ガス削減に当たって、「環境自主行動計画」や「低炭素社会実行計画」を通じて、業界レベルで目標をプレッジし、政府委員会や業界全体での継続的な評価・検証および、実行に向けたレビューを行なってきた。PDCAサイクルを通じて温暖化対策が不断に強化されてきたのも、そのプロセスが懲罰的なものではなく、促進的なものであったからである※8。これは、約束草案とそのレビューという新たな国際枠組みの基本構造と強い親和性を持つものであり、日本は、国際枠組みとしてのプレッジ&レビュープロセスの設計にこうした自主的な取組みの経験や知見をインプットしていくべきである。

● また目標見直しの道を塞がないことも重要である。各国が出している目標値が2℃目標を達成する上で不十分だという理由で、「no-backsliding」(後退禁止)との旗印をかかげ、「野心のレベルを引き上げる」という一方向の見直ししか認めない条文を入れようという動きがEUや島嶼国を中心に存在する。温暖化問題の解決を図るためには、目標を徐々に引き上げていくことが望ましいことは言うまでもない。しかし、中長期的により野心的な方向で目標を引き上げていくことと、革新的な技術開発が期待できない短期的な時間軸の中で、削減目標への道筋がさまざまな予期できない経済状況や自然状況の変化でジグザグになることとは別問題である。また一度約束草案を出したが最後、レビューの際に上方修正しか認めないということになれば、目標値に下限値として法的拘束力を持たせることと同義である。これは途上国の目標提出を阻害するだけでなく、「野心のレベルの引き上げしか認められないならば、控えめな目標を出しておこう」という逆のインセンティブを各国に与えることにもなる。政権交代を伴う民主国家において、将来民主的に選ばれた政権の施策オプションを縛ることにもなろう。更にそのような枠組は、削減への取組み努力が所期の効果をあげられないと見切って将来の交渉から脱落していく国を増やす結果となり、枠組みとして持続可能なものでなくなってしまう。約束草案の提出は、各国が自国の実情を踏まえて設定した目標を持ち寄る仕組みであり、それぞれの国情や環境変化を踏まえた見直しを可能とするフレキシブルな枠組みとするべきである。

<日本の貢献のあり方、その2--低炭素技術の普及、革新的技術開発の実現>

● 地球温暖化問題はグローバルな問題であり、日本国内での削減も海外での削減も温暖化防止効果という点では等価である。日本はその強みとする技術を通じて世界の温室効果ガス削減に貢献すべきである。2013年11月に安倍首相が提唱した「美しい星への行動(ACE:Action for Cool Earth)」は①革新的技術開発の促進によるイノベーション、②日本が強みとする低炭素技術を国際的に普及するアプリケーション、③脆弱国を支援し、日本と途上国のWin-Win関係を構築するパートナーシップを3つの柱とする。技術を中核とした日本ならではの戦略であり、その強力な推進が望まれる。たとえば、日本の最新鋭の石炭火力燃焼技術で米国、中国、インドの既存の石炭火力発電所を置き換えれば、13億トン、即ち日本の温室効果ガスの年間総排出量に相当する規模の排出削減が可能だという試算もある。

● 国連の場で制度設計が進められている技術メカニズム(TEC(技術執行委員会)、CTCN(気候技術センター・ネットワーク))も、日本の優れた環境技術の普及加速のために活用すべきであり、人材・知見の提供を含めた積極的な関与が求められる。しかし優れたエネルギー環境技術の移転を図るためには、それを裏付ける資金が必要であり、次期枠組みにおいては、COP16以降国連で制度設計が進んでいる資金メカニズム(GCF(緑の気候基金))と、上記技術メカニズムの関連づけ(リンケージ)を確保することが極めて重要である。たとえばTECやCTCNで技術分野ごとに途上国が必要とするBAT(Best Available Technology:利用可能な最良技術)のリストを設定した上で、GCFが資金援助を行う際に、プロジェクト採択の判断基準としてそれを活用するといったアプローチがその一例だ。

● 二国間クレジットメカニズム(JCM)も、日本の優れた環境エネルギー技術の海外への普及を加速し、途上国の排出削減にもたらす貢献度を定量化するという試みとして重要である。現在日本政府は国連交渉の場で、JCM制度によって定量化された排出削減分を日本とホスト国で分配し、それぞれの国内削減分に加えることを目指しているが、JCMによる排出量相殺(オフセット)が今後、新枠組みの中で認められるか否かは予断を許さない。新枠組みにおいては自らも削減目標を掲げることになる途上国が、自国の削減成果の一部を他国に譲渡するような国際オフセットに消極的になる(自国の削減量として確保したがる)ことも懸念される※9。

● そうした状況をふまえると、JCMパートナー国が自らの温室効果ガス排出削減状況を国連に報告する際には、JCMプロジェクトに関わる削減分も含めて実際の排出(削減)量を報告する一方で、JCMプロジェクトに基づく削減量については「日本の技術による貢献」であるということを明示してもらうことで、そうしたJCM削減量の総和を日本の「国際貢献削減量」として国連に報告するという仕組みも追求すべきである。温暖化対策技術やノウハウを持つ先進国の間で、自国の削減量の多寡を競うだけではなく、途上国における削減にどれだけ貢献しているかの多寡を競うインセンティブ設計にすれば、地球全体で見た温暖化対策は加速されるだろう。

● また低炭素技術の普及に当たっては、途上国のニーズに応じた現実的な対応をすべきだ。米国オバマ大統領は2013年6月に「気候変動計画」を発表し、国内の新設・既設火力発電所に対してCO2排出基準を設定することを明らかにした。また他国の新規石炭火力への米国の資金支援を取りやめ、EUの一部と連携し、CCS(炭素貯留隔離)を装備しない限り、効率の如何を問わず石炭火力発電所に対する多国間開発金融機関の融資を禁止することを唱導している。しかし、これは現実を無視した机上の空論である。CCSは高コストであり、未だ商業プラントは(極めて特殊な条件の下で)全世界で1基しか導入されておらず、これを融資の条件にすることは、高効率石炭火力への融資を事実上禁止することを意味する。しかし、多国間開発金融機関が高効率石炭火力への融資をやめたとしても、途上国における今後の電力需要の増大、潤沢かつ安価な石炭資源の存在を考えれば、好むと好まざるとにかかわらず、石炭火力発電へのニーズは今後も増大し、発電所の建設は続けられるだろう。

● このような状況下で多国間開発金融機関が高効率石炭火力への融資を差し止めれば、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)やBRICS銀行等からの資金により、効率の低い中国製の石炭火力技術を用いた発電所建設ラッシュを招くこととなろう。中国は海外石炭火力プラントに対して巨額の公的資金供給を行っている。日本は融資金額で中国に次いでいるが、中国から他のアジア諸国に輸出される石炭火力技術は低効率のものが多い。例えば今後も石炭火力発電所の急増が予想されるインドへの石炭火力技術輸出に占める超臨界(SC)/超々臨界(USC)のシェアは中国の場合43%だが、日本は100%である。日本としては、こうした現実を踏まえない原理主義的な主張には迎合せず、世界最高水準の効率を誇る石炭火力技術の普及を図ることで、途上国の経済成長を確保しつつ、排出削減を進めるといった現実的なアプローチを主導すべきである。

● 長期の問題である地球温暖化に対応する上で、既存環境技術の普及だけでは不十分である。決定的に重要なのが革新的技術開発である。現在人類が持っている技術体系では、2050年までに40~70%減といった大幅な削減を実現することは現実的に見て不可能であり、長期的な排出パスを大きく変えるようなイノベーションが必要となる。CCS、バッテリー、次世代原子炉から究極的には宇宙太陽光発電や人工光合成に至るまで研究開発が必要な革新的技術は多岐にわたる。

● 特に投資リスクの高い革新技術のR&Dを進めるには、政府による研究開発投資が不可欠である。しかし、世界全体の政府R&D支出に占めるエネルギー分野のシェアは80年代の11%から4%程度に低下している。この流れを反転させなければならない。日本は、重点技術の選定、R&D予算の確保、技術ロードマップの作成、国際共同研究開発等の国際イニシアティブを提唱していくべきだ。

● 日本は「エネルギー環境技術のためのダボス会議」としてICEF (Innovation forCool Earth Forum)を提唱し、2014年10月に東京で、政府、企業、学界、国際機関等、80ヶ国・機関、800名を集めて開催した。ICEFは、世界の産学官の英知を結集するプラットフォームとして毎年開催を継続していくことになっており、特に本年10月に予定される第2回ICEFは、COP21に向けたモメンタムを高めるものとしてホスト国であるフランス政府の国連気候変動パリ会議(COP21)特別代表から特に期待が示される※10など、高く評価されている。日本や米国、英国等が革新的技術による温暖化問題解決を目指す国際的な取り組みのアイデアを持ち寄り、具体的なイニシアティブに仕上げていく上で、ICEFは理想的な舞台となろう。また本年6月、英国のデービッド・キング気候変動特別代表他は、「グローバル・アポロ・プログラム」として参加国が再生可能エネルギー、貯蔵、輸送分野のR&Dに2016年~25年のGDPの0.02%を充当するというアイデアを提唱したが、これもICEFのコンセプトと軌を一にするものである。こうした場を活用して、温暖化問題の解決に最も貢献した又は貢献するであろう技術を取り上げて積極的に表彰したり(「化石賞」の逆をいく「地球環境貢献賞」)、先進各国が共同して基礎的な技術開発に研究費や事業化のための助成を行うなど、技術革新を後押しする方策を検討すべきである。日本はICEF主催国として、引き続きリーダーシップを発揮していくべきである。加えて、日本が来年のG7議長国となる機会を逃さず、G7サミットやエネルギー大臣会合等も活用して、先進各国がエネルギー・環境技術のR&Dに率先して取り組むというメッセージを発信していくべきである。

<日本の貢献や対策を海外に発信せよ>

● こうした日本の貢献を対外的に積極的に発信していくことも重要である。これまで対策に消極的だった米国や中国が、多少なりとも前向きのメッセージを出しただけで過剰に賞賛の言葉が向けられている。それに比べて、日本は地道な努力をしているのに、まるでこれらの国々より消極的かのように捉える向きが多い。これは日本の政府、気候変動問題関係者・有識者、マスコミが、国内削減目標にのみ着目した内向きかつ自虐的な議論にとらわれており、日本の対策やこれまでの努力について、世界に向けて効果的なアピールを行うことに十分関心を払っていなかったからではないだろうか。国際交渉は、国際世論にどう訴え、自国のイメージをどう形成していくかが大きなポイントになる。日本政府や気候変動問題関係者は、日本の貢献や対策の考え方について、世界への発信に積極的に取り組むべきである。

※8 京都議定書第一約束期間に実施された経団連「環境自主行動計画」においては、目標の達成度合いに応じて評価期間中29 業種41 社が自主的に目標水準の引き上げを行っている。

※9 国連交渉の場ではJCM のような二国間の協力で削減を行う仕組みにおいて、削減量をホスト国、協力実施国でダブルカウントしないことが求められている。従ってホスト国にとっては協力実施国の削減量としてカウントすることを認めた削減量分だけ、自国の排出量を国連に報告する際に実際の排出量に上積みして報告することが求められることになる。

※10 http://www.ambafrance-jp.org/article8521

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