「君たちが男だったら、もう全員合格なんだけどなぁ......」
TBSの人事担当者は最終面接の前、10人足らずの女子学生を前にこう呟いた。悪気はなかったと思う。その面接に至るまでの一週間、私たちは面接、英語テスト、カメラテストなどさまざまなふるいにかけられながら(まさにザルの中の小豆か何かのような気分だった)、毎日のように、赤坂のスタジオに通っていた。人事担当者にとって私たち最終面接に残った数人はすでに顔なじみとなっていた。「みんな採用してやりたい」という本音を吐露したのだろうが、実際に意味するのは「男子じゃないから、さらに絞り込む」ということに他ならない。男子学生は例年数十人採用されていたと思う。
1984年10月。当時、夏に就職活動が始まるなか、マスコミだけがちょっと遅い10月のスタートだった(前回書いた「青田買い」を除く)。新聞記者を志していたが、全国紙5紙だけではあまりに受験の機会が少ないと思った私はテレビ局も数社受験した。その皮切りが、当時はドラマと並んで報道番組にも力を入れていたTBSだった(今はどうだか知らない)。
最後の2、3人が選ばれる最終面接が始まる前、その人事担当者は言った。「これが最後の試験です。合格した方には今夜(だったか、明日の夜だったか?)電話をします」。
私は思わず言ってしまった。「わずか10人足らずです。合格でも不合格でも連絡をください」。周囲の女子学生たちも首をブンブン縦に振った。
非常識だったかもしれない。採用担当者の通達に学生が異を唱えたのだ。担当者は一瞬虚を突かれた顔をしたが、すぐに「わかりました」と言ってくれた。
その夜、かかってきた電話は「不採用」だった。辛い通知だったが、相手の申し訳なさそうな声を聞くのは、待ちぼうけよりはるかに人間的だと感じたのを覚えている。
このあと、私は自分が「役員面接を通過できない」人間であることを自覚させられることになる。
続いて受けた日本テレビでもまた最終面接で落ちた。目の前に陣取った役員らしき男性が私に投げた質問は、「君はファッションに興味がないのか」。興味がないのは図星だが、その日はきちんとスーツを着てパンプスを履いていた。質問の意図が理解できない私は、「え、そんな風に見えますか?」。すると、「そんな頭をしてるからね」との答。自分では「ふつう」のつもりだったが、当時の私の髪の毛はかなり短く刈り上げてあった。坊主、ではないが、前髪のついたスポーツ刈り、のようなものではあったかもしれない。何がいけないのかわからない私は素朴な質問をした(つもりだった)。「この頭だと仕事ができないんですか?」。たぶん、この瞬間に私の不採用は確実なものになった。目の前の男は言った。「君はなんでも口ごたえするんだな」。
ただ、この日の面接には、それまでの試験で一度も顔を見たことのない令嬢が現れていた。待合ロビーで、彼女は入社が決まっている前提で自分はどういう番組を担当したいかを楽しそうに語っていた。その意味では、面接なんかやるまでもなく採用・不採用は決まっていたのではあるが。
それを思うと、最終面接の役員に言い返さなかったのが返す返すも悔やまれる。「どうしてあなたの○○頭が良くて、私の短髪が仕事の邪魔になるのか」と。