人権という概念が生まれ、何が人権であるかということが、国際社会のコンセンサスとして整理される中で、「生きる権利」は根源的なものとして認識されてきた。現在の大多数の社会の中で、「人を殺していい」と考えることは、人間として根本的なタブーに触れることであり、道徳観や人間性を疑われ、行動に移せば犯罪となる。
しかし、これを国が制度として行っているのが、「死刑」である。
そして、世界で7割の国が、問題ありと死刑を廃止している。
いわゆる先進国の中でいまだに「死刑」があるのが、日本と米国だ。その米国でも、ここ数年、州単位で死刑廃止の流れが加速している。最近の動きを見てみよう。
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2007年 ニュージャージー州 死刑廃止
ニューヨーク州 最後の死刑囚に減刑(死刑法は州憲法違反との裁定に基づく)
2009年 ニューメキシコ州 死刑廃止
2011年 イリノイ州 死刑廃止
コロラド州知事が死刑囚1人の刑の執行を無期限に延期
オレゴン州知事が死刑執行停止を表明
2012年 コネチカット州 死刑廃止
2013年 メリーランド州 死刑廃止
2014年 ワシントン州知事が死刑執行停止を表明
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■□■ ペンシルバニア州でも知事が死刑執行停止を表明 ■□■
知事による死刑執行停止とは、自分が在任中は死刑にゴーサインは出さない、ということだ。
今年2月13日、ペンシルバニア州の新知事が死刑執行停止を表明した。現行の死刑制度は重大な欠陥を抱えており、死刑に関して十分な議論が尽くされるまで、停止措置を続けるという。一時的にせよ、死刑をやめた州がまたひとつ増えたのだ。
1月20日に就任したトム・ウルフ知事は、2月13日、死刑執行が予定されているすべてのケースで、個別に執行の延期を認めていくと宣言。同時に、最初の刑の延期が発動された。
3月4日に執行が予定されていたテランス・ウィリアムズ死刑囚に対するものだ。
知事は執行の一時停止を決断した理由について、「凶悪犯罪で有罪になっている者たちであり、同情や慈悲心からではない。死刑制度には重大な欠陥があるからだ。制度の欠陥は、もはや広く認識されている」と述べている。
ペンシルバニア州は米国で5番目に死刑囚の数が多いが、実際に刑が執行されたのは連邦最高裁判所が新しい死刑法を承認した1976年以来3人だけである。(この3人はいずれも控訴しなかった。)同州で最後に死刑が執行されたのは16年前の1999年だ。
米国で死刑が確定してから無罪となった150のケースのうち、6ケースがペンシルバニア州のものだ。知事は、このうち1件では新たなDNA鑑定によって無罪となるまで21年収監されていたことを指摘した。
しかし、知事の懸念はえん罪だけではない。上訴審で刑の軽減事由が見つかったり、原審の判決プロセスに不備があったりして、終身刑に減刑された死刑囚が複数いることに触れ、現行制度は「欠点だらけで、間違いを起こしやすく、大きな費用がかかり、完璧とは程遠い」と述べた。
また、ペンシルベニア州では、貧しい者、人種的に少数派の者が、とりわけ犠牲者が白人の場合に、死刑に相当する罪で起訴されたり死刑判決を受けやすい傾向にあると、差別も問題視した。州最高裁の「司法における人種・ジェンダー偏見に関する委員会」に所属する研究者は、フィラデルフィア(ペンシルバニア州最大の都市)で死刑判決を受けたアフリカ系アメリカ人の3人に1人は、アフリカ系でなければ違う判決を受けていたはずだと判断している。こうしたデータは「死刑に賛成・反対に関わりなく、善意の人すべての心に葛藤をもたらす」と語るウルフ知事は、こう結論づける。
「われわれが死刑制度を続けるのであれば、被告は起訴のすべての段階において適切な弁護が得られるよう、そして刑が公平かつ均等に適用され、無実の者を処刑するリスクが排除されるように、一段の対策を講じなければならない。そうでなければ憲法の求めに応じることはできず、われわれが追及し続けるべき平等な司法という目標には届かない」
■□■ 死刑をやめた知事たち ■□■
死刑廃止や執行の一時停止を決めた知事たちは、ウルフ知事と同様、死刑制度の欠陥を指摘している。ワシントン州知事は、「死刑が殺人の抑止力になるという信頼できる裏付けは何もない」といい、コロラド州知事は「死刑制度は恣意的に運用されている」と断じる。また、人権を侵害するもの、社会にとって弊害だという認識も理由に挙げている。メリーランド州知事は「すべての人の尊厳を尊重してこそ、常に前進の道が開ける」と語り、コネチカット州知事は「(死刑廃止は)公序にとって、よりよい道と信じる」と述べた。
こうした知事たちの決断は、「死刑廃止を視野に入れた死刑執行の停止を求める」国連総会の決議に沿ったものである。これまでに5回決議が採択され、昨年12月の決議には、過去最多の国が賛成票を投じた。
(アムネスティ・インターナショナル日本)
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