スウェーデンの児童書で、子どもの進路と幸福を哲学する

子どもには苦労をさせたくない

スウェーデンの児童書で、子どもの進路と幸福を哲学する

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ペーテル・エクベリ

参考:あとがき

子どもには苦労をさせたくない

ママ友と久しぶりに夕飯を食べに行った。2人とも上の子がもう中学生。自然と塾や内申、受験の話に。子どもにどんな学校に進み、どんな職業についてほしいか、打ち明けあった。1人のママは「うちの娘には、手に職をつけてほしいんだ」と言う。

文学への思いを捨てられず、書籍翻訳者になった私も、娘には芸術の道に進んでお金の苦労をしてほしくないと思っている。また「女の子なんだし、家庭生活と両立不能な激務は避けてほしい」と願うのだった。

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ペーテル・エクベリ

どうしたら子どもに幸福な人生を送らせることができるのか

その後私は、家で1人、スウェーデンの哲学入門書『おおきく考えよう――人生に役立つ哲学入門――』(ペーテル・エクベリ/作、イェンス・アールボム/絵、枇谷玲子/訳、晶文社)を使って、どうしたら子どもに幸せな人生を歩ませられるか考えた。

芸術は人を助ける

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ペーテル・エクベリ

私は娘に芸術関係の仕事はお金に苦労するから、あまり就かないでほしいとつい考えてしまっているが、本の中ではショーペンハウアーが、人間が心地よく感じるのは、芸術や音楽に触れるときだけだと考えた。よい本、すばらしい芸術作品、そしてなにより素敵な音楽は、心配事を忘れさせてくれる、と。本物の芸術に心を動かされ、なかには自分でなにかを創造したい、と思う人もいるかもしれない、と書かれている。

男らしさ、女らしさ

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ペーテル・エクベリ

私は娘に対し、女の子なのだから、家庭生活を大切に、と考えているが、本の中では、ボーヴォワールという女性哲学者が、男だから、女なんだから、という社会の見方を押し付けられることなく、自分のことは自由に選択できるのだと1人1人が認識することが大事、と考えた、と書かれていた。

人生で一番大切なものって何だろう?

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ペーテル・エクベリ

デンマークの哲学者、キルケゴールは「死ぬ前、人生で一番大切なものに、何を思いだすだろう?」というとても難しい問いを立てた。 その答えは

  • 家族友だち
  • お金持ちになること
  • いつも笑顔でいられること

など人それぞれ違うとこの本には書かれている。

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ペーテル・エクベリ

アリストテレスは、

●人と人とが絆で結びついていること(友だちや家族がいること)

が一番大事と考えた。

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ペーテル・エクベリ

ソクラテス

  • 人間にとっていちばんだいじなのは、善い人間になろうとすることだ
と考え、
  • 地位や見た目、豊かさ、権力にばかりこだわらず、魂や思考に関心を持つよう
人々を導こうとした。 なぜなら財産や地位はいつ失われるか分からないし、肉体は年をとると老いていくが、その人の
善性
洞察力
はずっと磨かれていくものだから。 本の中には、
人生の意味
とは
  • そのもの、つまり、子どもをもうけ、命をつなぐこと

と考える人もいる、とある。 私も子どもを育てることが人生の意味だといつの間にか考えるようになっていた。でもそれは皆に当てはまることではないのかもしれない。私にとって、そうなだけだ。

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ペーテル・エクベリ

社会があるから選択肢が持てる

作品の中で、アリストテレス

●人間が生きるのに自然な場所は社会である

と考えた。

●人間が社会から引き離されたら、生き残るため、各人が狩りや漁をしなくてはならなくなり、その分、学校に行ったり、ミュージシャンになりたい、作家になりたいなどという夢を思い描いたりすることもできなくなる

ともあった。

できるだけ多くの人にとって、よい社会をつくるには

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ペーテル・エクベリ

ジョン・ロールズは、「できるだけ多くの人にとって、よい社会をつくるには、どうしたらいいんだろう?」という問いを立てた結果、

自由に考え、言いたいことが言えるようにするべき

●みなが教育を受け、仕事を得て、何かに取り組み、それを追求する権利を持つべき

という考えに行き着いた。

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ペーテル・エクベリ

一方ロックは、

●自分の意見やお金、自由な時間、設備、所有物を持ち続けられるようにすることが大事

と考えた。

親は人生に巻き起こるあらゆる不幸や困難から子どもを守りきることはできない

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ペーテル・エクベリ

私は娘に余計な苦労はしてほしくないと思った。でもこの本を読むことで、人生に巻き起こる出来事には、コントロールできるものもあれば、災害、死など、どうしようもないものもあるのが分かった。それが「生きる」ってことなんだ、とも。

娘が自らの身に降りかかる出来事を全てコントロールできないように、母である私も不幸な出来事や苦労から娘を完ぺきに守りきることなどできないのだろう。

人生は選択の連続

作品の中には、
人生は
常に
選択の連続
であると書かれている。 また哲学者の
ジャン
=
ポール・サルトル
が、
  • 人はすっ裸で生まれ、右も左も分からないまま、世間という荒波立つ大海原に放りだされる
  • 人生とは、自分が何者か、どこに放りだされたかを発見する旅みたいなもの
  • 人間は選択により、人生に変化をもたらし、それを発展させると考えたと書かれている。
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ペーテル・エクベリ
作者は
  • 人生に決まった意味はない
  • 本人がその手で意味ある人生をつくるもの
  • 人生を意義あるものにするため、本人が自分自身の道徳的規範や生きる目的を探すべき
  • 人生は本人のものであって、他の誰にも決める権利はない

と書いている。 確かにその通りだ。どうして娘の生きる道を私が勝手に決めようとしていたのだろう? やっと気がついた。娘の人生は私の人生の敗者復活戦ではないんだ。

スウェーデンの育メンの言葉――「考えるのはきみだ。だって、きみの人生なんだから」

本の中で人は他人の目を気にし、他人と出会うことで、自己を認識すると書かれている。

サルトルやほかの多くの哲学者は、人は言葉によって、相手の心に入りこみ、陽気だとか、頭がいいとか、シャイだとか、本人がいだいているのとは異なるイメージを植えつけると言った。

枠にはめられ、誤った解釈をされるのは辛いことだ。 しかし一方で、人は他人の言葉からいい影響を受けることもあると書かれている。友だちや家族、大人に認められると、人はいい気分になるし、期待を寄せられることで、あらたな目標を見つけ、人生に価値を見いだせることもある、と。

作者は「自分の手で、意味のある人生をつくるんだ!」「考えるのはきみだ。だって、きみの人生なんだから」「大丈夫、きみならできるよ」と読者を勇気づけ、励ましている。

私は娘にどんな言葉を送ろう? 私は私の人生を懸命に生き、自分なりの答えを探し続けよう。

北欧の人達は議論する時、「私の意見では~」「~と私は思う」という言い方をよくするそうだ。 いつか私が娘に人生についてアドバイスするべき時がやって来たら、その時点での自分なりの考えや経験談を、押し付けたり、知ったかぶったりすることなく、まっすぐに伝えられたらと思う。