「なんで障害者がラブホを使うねん」世間の思い込みに、重度障害者の大橋グレースさんはどう答えた?

そもそもセックスってなに?と思うようになりました。
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「車いすで生活していて、コンドームを欠かさずカバンに持っている女性がいるらしいよ」。

セックスをテーマに、様々な人を取材していた私にそんな話が舞い込んできた。

女性がコンドームを持ち歩く姿って、「セックス・アンド・ザ・シティ」くらいでしか見たことがない。しかも、車いす生活の女性が? 会ってみたくなった。

この女性は、大橋グレースさん。NHKのEテレが放送する障害者をテーマにしたバラエティ番組・情報番組「バリバラ」にも出演している。

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大橋グレースさん

多発性硬化症という病を抱えており、肩から下はほとんど動かず、感覚もない。重度障害者である。しかし、障害を持っていることを感じさせないほど、仕事も恋愛も活発にこなしている。彼女のことを調べれば調べるほど、会いたい気持ちは募った。早速コンタクトをとってみた。

すると、早速返事がきて、この1文が添えられていた。

「『性』に女性がオープンになること、それが、女性社会進出にとって鍵になるという考えですので、私としては、喜んでインタビューお受けいたします!」

彼女は常日頃性の問題について、自身の実体験を交えながら赤裸々に語る。等身大でオープンになれるのはどうしてなのか。その理由が知りたくて、大阪に住む大橋さんを訪ねた。 大橋さんはヘルパーの介助を受けながら、アパートで一人暮らしをしている。大橋さんはベッドに座りながら、笑顔で語り始めた。

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大橋グレースさん

障害者とラブホテル

埼玉県にあるリハビリセンターで付き合った彼氏とのことです。彼は交通事故にあって「脊髄損傷」になってしまい、同じ車いす生活でした。そして施設の中は、男女の部屋がきっちり別れており、異性が入ることは禁止されていました。基本的に恋愛は禁止だったんです。

そういう施設にいたからこそ、誰にも会わないでこっそり2人っきりになれる場所を探す執着心が強かったのです。ただ、当時車いすの人が入れるラブホがほとんどありませんでした。車いすの人が使うわけないだろうって思われていたんだと思います。そもそもなんで、障害者がラブホを使うねんって...。だから、私たちは毎週のように2人が安心できるホテルを探していたのです。

片方が健常者であれば、ちょっとした段差でも持ち上げてもらえますが、2人とも車いすの場合は、1段でもあればなかなか進めません。エレベーターも狭すぎると、それぞれで乗らなくてはいけなくなります。場所を探すだけで、かなり大変だったんです。最終的に段差が極力少ないシティホテルを見つけることができました。

彼とのセックスは、なかなかうまくいかなかったんですが、私はベッドでただ一緒にいる空間が幸せだなって感じました。するとそもそもセックスってなに?と思うようになりました。

障害者は、健常者と全く同じようにセックスができない場合もあるので、お互いのことを思うんですよね。 「どうやったらできるやろうか」みたいな...。その中で挿入にこだわらないときもあります。

でも、相手のことを思う時間がすごくあるから、そっちの方がよっぽど素敵に愛し合っているなって私は思っています。形だけのセックスよりかはよっぽど相手のことを思っている時間の方がすごいロマンチックな時間じゃないかな、って。それができるのも、ある意味それを考えなきゃいけないっていうのも障害者の特権かもしれません。

簡単じゃないからこそ、できた時の喜びだったり、考えて考えてやった時の2人の達成感だったりが、その過程も含めてセックスになるから、形以上のセックスができるっていうふうに私は思っています。

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大橋グレースさんの車いす

月に一回のHIV検査、オリンピック選手の知られざる性教育

大橋さんは、多発性硬化症を発症する前は、北京オリンピックのアメリカ代表選手候補に選ばれていたくらい優秀な柔道選手だった。そして、現在の彼女の性に対してオープンな姿勢は、18歳のときに通っていたオリンピックトレーニングセンターで培われたと言います。

オリンピックトレーニングセンターは、性教育がすごいんですよ。「選手や皆さん、ゴムをつけましょう」って毎日配られます。常に持ち歩きましょう、みたいな。選手といえども襲われる可能性がある。襲われて万が一妊娠したら、もうオリンピックの選手にはなれないから、持ってなさいと言われていました。 そのくせで今もコンドームは持ち歩いています。

それから、セックスをエンジョイするのはむしろ良いことだと。何しに行ってんねんっていう。17歳くらいの時に最初に習ったのはそれで、女性の場合はリラックスできるから、試合前とか緊張しすぎないように(セックスを)した方が良いよっていうのを教えてくれました。

HIV検査は、毎月1回受けていました。性病検査もあります。低用量ピルは、生理不順を予防するために処方されていました。

日本では、セックスはタブー視されていますけど、アメリカではするのが前提で、さまざまな対策がとられていました。

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Rattankun Thongbun via Getty Images
Condom ready to use in young man hand, give condom safe sex concept on the bed Prevent infection and Contraceptives control the birth rate or safe prophylactic. World AIDS Day, Leave space for text.

女性として、障害者として

女性が性についてしゃべることは汚らしいとか、えぐいとかってよく言われるんですけど、それはただ単に、そもそも人間として見られないってことが大きいんだと思うんですね。

その上、障害者が性の話をすることにも違和感を持たれてしまう。健常者同士が恋愛の話をしていたらまだ、ワイドショー的な感じで受け止められるんでしょうが、「障害者」ってなった途端に想像してなかったことが起きた、という感じになる。

結構、コメントで書かれるのがえぐいとか気持ち悪いとか。で、もっと言うと、そうした言葉の裏には税金かかってるのにとか、何セックスしてんねんみたいな。別に全然関係ないやん、みたいなってところなんですけど。そこまで言われたり、叩かれたりするんですね。不倫報道があった乙武さんは男の人でしたが、もし女性だったら、どうなってたんかなって思うことはあります。

障害者は健常者と同じように愛し合うし、恋愛対象も誰でもいい訳じゃなくて好きな人と付き合いたいし、その時々によって、やりたい日もあればやりたくない日もあるし、愛っていうのも自分の中の価値観だし、それも障害者それぞれで違うだろうし、っていうところがまだ伝わっていないかもしれません。

それを破るには丁寧に説明していかなくてはいけない部分と、丁寧をやっていたら時間かかるからバン!ってバリアを破るしかないない部分もあります。

女性としてはそこは丁寧に説明していかないと逆に反発をくらうことになると思っています。反発って拒否なんで、聞きたくありません、受け入れません、という意思表示。それをされるのが一番きついかなって思います。性をオープンに話すけど丁寧に話さないといけないかなっていうふうには思っているところです。

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大橋グレースさんのインタビュー