貧困の苦難を自制心で乗り越える――荒廃した学校を立て直す「マインドフル・スクール」プロジェクト

目の前のマシュマロを15分間食べることを我慢できた子供は、成長してからの学力や収入、社会的地位、健康状態までもが、平均して高い大人になる――。そんな、「マシュマロ・テスト」と呼ばれる有名な研究報告がある。これはスタンフォード大学のウォルター・ミシェル博士らによる研究で、186人の4歳児を対象に行われた。対象になった子どもたちを追跡調査し、子供の社会行動調査の中で最も成功した調査の一つとされているものだ。

■目の前にある“マシュマロ”を我慢できるか?

目の前のマシュマロを15分間食べることを我慢できた子供は、成長してからの学力や収入、社会的地位、健康状態までもが、平均して高い大人になる――。

そんな、「マシュマロ・テスト」と呼ばれる有名な研究報告がある。

これはスタンフォード大学のウォルター・ミシェル博士らによる研究で、186人の4歳児を対象に行われた。対象になった子どもたちを追跡調査し、子供の社会行動調査の中で最も成功した調査の一つとされているものだ。

この研究が広く知られるようになった後も、自己制御力(Self-Regulation いわゆる自制心)が、子供の学習能力、社会性、情緒の発達のために重要であるということは、多くのリサーチで確認されてきた。

これほど子供の成長の要となる自己制御力だが、幼稚園や小中学校で、これを高めるためのカリキュラムがどれほど取り入れられてきただろうか?

ほんらい、日本の学校における朝礼、運動会とその練習、教室の掃除といった活動は、自己制御力の開発という意味でも、大きな役割を果たしてきたと思われる。しかし形式だけが残ってしまっては、ほんらいの教育効果が薄れる。

今こそ、せっかくの価値ある伝統の意図を、もういちど見直してアップデートするチャンスかもしれない。

■子どもたちが楽しく学べるマインドフルネス

子どもたちが自己制御力を高めるメソッドとして、マインドフルネスを応用したアテンショントレーニング(注意力を養う訓練)が、アメリカやイギリス各地の学校で行われ、成功をおさめている。

(Shauna Shapiro, Kristen E. Lyonsらによるレビュー「Contemplation in the Classroom: a New Direction for Improving Childhood Education」(2014)より抜粋)

これらのプログラムの共通点は、

1. 自己制御力に含まれる、感情と社会性のスキル、そして脳の実行機能(Executive Function:目的に向かって反応や行動を調節する能力)を高めるためにデザインされ

2. 実施者(先生)自身がマインドフルネスメディテーションの熟達した実践者であること

3. 子供向けには、短時間で、道具(ぬいぐるみ、ベル、スノーボールなど)や物語を使うなど工夫する

4. 教師、スタッフ、保護者など周囲の大人も教育を受ける

などである。

【具体例と成果】

貧困層の多いエリア、不安定な家庭環境の多いエリアの学校でも、メディテーションやマインドフルネスの授業によって、良好な結果を得ていることが特に今後の希望を感じる。Shauna Shapiroらは上記に紹介したレビューで「メディテーションなど内面を観る行為を子供に実施させることは、健康な行動パターンと脳の発達をもたらし、子供時代もまた大人になっても有益であろう。特に幼少期は活発な神経可塑性(神経細胞を結ぶシナプスの伝達能力が、刺激量によって変化すること)により、自己制御力の向上など、健康的な影響が期待できるため、メディテーションを学ぶには好機である」と結論付けている。

■今こそ、教室の掃除や朝礼の意味を問い直すとき

以前のブログでも、ビジネスの世界で、IQよりもエモーショナルインテリジェンス(EI)の高い従業員が、より高い成果と満足を達成していること紹介した。EIの世界的権威であるダニエル・ゴールマンが指摘するように、自己制御力とマインドフルネスはEIの大きな要素であり、子どもにも大人にもこの教えは有益であることが様々な分野で示されているのである。

日本で行われてきている、自己制御力を高めるための活動(教室のそうじ、朝礼、挨拶の励行、運動会とその準備、他)は、子どもたちが善き人生をつかむためにも実は大切なもの。それに加えて、このようなマインドフルメディテーションやクワイエットタイムのようなプログラムが教室で取り入れられていったら、どのような変化が起こるのだろうか?

(一般社団法人マインドフルリーダーシップインシュティテュート理事 木蔵(ぼくら)シャフェ君子)

7 Fascinating Facts About Meditation
脳の柔軟性が向上(01 of07)
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持続的な瞑想は、「神経の可塑性」につながる。環境に合わせて、構造的かつ機能的に変化できる脳の能力だ。\n\n前世紀の科学では、成人期を迎えたあとの脳は変化しないと考えられてきた。しかし、米ウィスコンシン大学の神経科学者リチャード・デビッドソン博士の研究によると、瞑想に慣れた人の脳では、瞑想後にも高レベルのガンマ波が発生し、特定の刺激にとらわれない能力があるという。つまり、こうした人は、自分の考えや反応を自動的にコントロールできているということになる。
大脳皮質の厚みが増えた(02 of07)
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1日に40分間の瞑想を行っている米国の男女を対象に行った2005年の研究では、対象者の大脳皮質が、瞑想をしない人と比べて厚くなっていることがわかった。つまりこれは、瞑想をしない人よりも脳の老化がゆっくりと進んでいることを意味する。また、皮質の厚みは、決断力や注意力、記憶力にも関連している。
「注意力の向上」に(睡眠より)効果的(03 of07)
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2006年には、「眠る」、「瞑想する」、「テレビを見る」という行動をとった学生が、それぞれの行動のあとの注意力を測定する調査が実施された(画面が光ると同時にボタンを押すという方法だった)。この結果からは、瞑想をしていた学生が、ほかの行動をとった学生よりも10%高い注意力を持つことがわかっている。\n
血圧低下に効果的(04 of07)
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2008年、マサチューセッツ総合病院のランディ・ザスマン医師は、高血圧の患者を対象に、3カ月間の瞑想をベースとしたリラクゼーションのプログラムを実施した。このプログラムに参加した患者は、薬による血圧のコントロールを受けていない。\n\n定期的な瞑想を3カ月間行った結果、60人中40人の患者に大幅な血圧の降下が見られ、薬の量を減らすことに成功した。この研究からは、リラクゼーションが血管を拡張させる一酸化窒素の生成にもたらす効果がわかっている。
テロメアを保護する(05 of07)
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テロメア」と呼ばれる、染色体の末端部にある保護カバーは、老化防止の科学で現在注目されている。テロメアが長ければ、長生きできる可能性も高いというのだ。\n\n米カリフォルニア大学デービス校の「シャマサ・プロジェクト(Shamatha Project)」が行った研究によると、瞑想をしている人は、瞑想をしていない人に比べてテロメアの活動が非常に高いことがわかった。テロメアの構築を手助けする酵素である「テロメラーゼ」が活性化すると、強固で長いテロメアができる可能性が高いと言われる。
HIVの進行を遅らせる(06 of07)
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リンパ球や白血球は、身体の免疫系システムの「中枢部」であり、HIV感染者にとって特に重要なものとされる。\n\n2008年にHIV感染者を対象に行った研究によると、瞑想をしていない感染者が大幅なリンパ球の減少を示したのに対し、8週間の瞑想コースを受けた感染者では、リンパ球の減少がまったく見られなかったことが示されている。\n\nまた研究からは、瞑想したあとにリンパ球が増加することもわかっている。ただし、この研究の被験者は48人と少数なため、決定的な結論とは言い切れない。
痛み止めの効果もある(07 of07)
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2012年初頭にウェイク・フォレスト・バプテスト大学(Wake Forest Baptist University)が実施した実験では、瞑想によって痛みの強度を40%、痛みの不快感を57%減少させることができ、モルヒネや鎮痛剤を使用した場合の痛みの減少率(25%)よりも効果があったという[実験では、5分間にわたって右脚に摂氏49度の装置を当て、痛みのレーティングを尋ねた。瞑想の練習を行った者では、少ない者は11%、多いものは93%減少したと答えた]。\n\n瞑想は、体性感覚皮質の活動を抑え、脳のほかの部分の活動を増加させるのに効果があると考えられている。ただしこの研究もサンプル数が少ないので、断定的な結論を出すことはできない。