サイボウズ式:「本当にこんなムービーを作るつもり!?」──働くママ動画「大丈夫」の制作秘話

結婚、出産を経て大きく変化する女性の働き方。独身時代と同じように仕事一筋でやっていくのはムリでも、ワーク・ライフ・バランスを意識して働き続けたい──そんなワーキングマザーがいま増えています。
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結婚、出産を経て大きく変化する女性の働き方。独身時代と同じように仕事一筋でやっていくのはムリでも、ワーク・ライフ・バランスを意識して働き続けたい──そんなワーキングマザーがいま増えています。

とはいえ、働くママを取り巻く環境は厳しいのが現状。労働時間が短縮されたぶん、終わらなかった仕事を自宅で片づけたり、子どもの急な病気やケガで遅刻・早退せざるを得なかったり。そのせいで同僚やチームに迷惑をかけていないか、きちんと仕事と育児・家事を両立できているかなど、あらゆることに不安を抱える働くママは少なくありません。

そんな働くママたちを応援したい──。育休取得を最長6年にするなど、出産を経た女性が戻ってきやすい環境を整え、新しい働き方を実践するサイボウズでは働くママのリアルな気持ちを描いたムービーをネットやTV、映画館で公開します。

ムービー制作に携わったのは、それぞれお子さんを抱える3人の働くママ。制作秘話や視聴者へ届けたい思い、働くママのあり方について、同じく子育てをしながら働くサイボウズ執行役員の中根弓佳と、ムービー制作プロジェクトを担当したサイボウズ式の大槻幸夫編集長と、株式会社東北新社 エグゼクティブプロデューサーの井上みち子さん、ディレクターの川島永子さん、プランナーの鈴木くるみさんにお話を伺いました。

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左からプランナー・鈴木くるみさん、ディレクター・川島永子さん、プロデューサー・井上みち子さん

オリエンで驚愕。「本当にこんなムービーを作るつもり!?」

大槻:いよいよ今日からムービーが公開されましたが、最初にサイボウズから企画内容を聞いたとき、率直にどんな感想を持ちましたか。

公開されたムービー

川島:オリエンで「働くママが共感できればそれでいい。内容や長さにはこだわらない」と聞いたとき、正直「本当の狙いは何? 何がしたいの?」と思っていました(笑)。普通は商品を売るため、好感度や信頼度を上げる目的でつくることが大半ですから。

でも、サイボウズさんからはそんな要望は一切なく「働くママの共感」のリクエストだけ。広いな......と思いましたし、どう腑におちるものにしたらいいのかもわかりませんでした。青野社長に聞いても「こういうムービーを作るといい気がして」なんて言われて、この会社、本当にやるつもりなのねと(笑)。

鈴木:私も働くママが共感するムービーを作るだけで、会社に何の利益があるのかな......と不思議だったので、自分なりにサイボウズさんの取り組みを調べてみました。そこから見えてきたのは「女性が働くことって大事なんだ」ということ。

これまでサイボウズさんが働くママのためにしてきた取り組みも、働くママに対してさまざまな問題が押し寄せていることも知らずに過ごしてきたなぁ、と気づいたのです。そのうちに働くママを取り巻く環境は、深い社会問題だと考えるようにもなりました。

中根:「サイボウズは一体何を考えてムービーを作るつもりなの!?」というところから紐解いてくださったのだと思いますが、制作中の裏話を教えてください。

井上:私たちがこれまで手がけてきたCMは商品ありきで、商品のポリシーを謳うのが一般的。一方で、サイボウズさんの目指すムービーは商品と絡めず、とにかくストーリー性があって、共感できるドラマをということで、今までにないプロセスを経て制作しました。

たとえば、ある分野について深く勉強しながら企画することはあまりないのですが、今回はいろいろな本やウェブサイトを読みながら、女性の人生を丁寧にひも解いていったのです。おかげで視野が広がりましたし、社会勉強にもなりましたね。

川島:商品は出さなくていいと言われていましたが(笑)。「サイボウズは働くママを見ていますよ」と思いを込めて作ったので、最後に「働くママたちに、よりそうことを。サイボウズは応援します」とメッセージを入れました。

夫婦間の葛藤をそのまま再現した制作現場!?

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(左)ディレクターの川島さんは監督と演出を担当。キャスト、ロケ地、演技、音楽、編集など全体をディレクションする。

(右)プロデューサーの井上さんは全体統括役。仕事を依頼するスタッフや予算決め、スケジュール管理など、プロジェクト全体を見渡しながら、完成へと導く。

井上:いま振り返ると、夫婦間の葛藤を見るような制作現場でした。男性と女性の価値観や考え方の違いで、描くポイントがまったく違うなぁと気づくことも多かったです。たとえば育児に関しても、ママがパパに対して「これはやってほしいけど、あれはしなくてもよかったのに。何でわかってくれないかな......」とイラッとすることもありますよね(笑)。

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川島:保育園のママ友から「自分の部下に子どもができると指南する」と聞いたことがあります。一番印象的だったアドバイスは「子どものケアじゃなくてお母さん(奥さん)のケアをするんだよ」というもの。素晴らしい助言だなと思い、それを2話めではそのまま描きました。自分はこんなにやっているのに、って言うお父さんとそれを不満に思っているお母さんという家族が多いと思うので(笑)。

中根:制作中は具体的にどのようなところに、男女の価値観の違いを感じたのでしょうか。

川島:映像を2パターンつくると、男性陣と女性陣で評価がことごとく真二つに分かれたんです。たとえば「私はこれで大丈夫なのかな......」という回想シーンを切り取ったものと、「いつも頑張ってる。うん、大丈夫」というシーンを切り取ったものがあると、男性陣は後者のロジカルで納得感のあるものを選んだところでしょうか。

でも、それは女性陣からすると違和感があるんです。それで、最終的にはママが子どもから「大丈夫」と言われて、「私は大丈夫なのかな」と思うものの、自分を省みるも答えを出せないまま、それでも「大丈夫」と言い聞かせて終わる形にしています。

「大丈夫」と言わないと明日の一歩が踏み出せないですし、そこはもう「大丈夫」と言うしかないのです。働くママは、ときにそれくらい孤独で大変なのだと、リアルな気持ちを描いたつもりです。でも、そこだけを切り取っても男性はいまいちわからない(笑)。女性だと子どもを抱いたスーツ姿のママを見るだけで「あぁわかる......」と理解してくれますけど。

中根:回想シーンには日常のちょっとしたことが散りばめられていますが、多くのママが同じシーンにぶちあたるのではないかと思います。しかもそのシーンが長ければ長いほど感情移入できて共感を得やすいのかなと。自分たちの小さな葛藤をわかり合いたい、と思う気持ちが生まれるのでしょうね。

鈴木:私は制作チームの人間ですが、完成版を見て号泣しちゃいました(笑)。スーツこそ着ない職種ですが、私も働くママなので共感したのです。働くママは皆一緒だなと実感しました。

広告業界で働くママのリアル

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(左)プランナーの鈴木さん。クライアントからのオリエンテーションを聞いて映像の企画を考えたり、脚本を書く。

中根:ちなみに川島さんと鈴木さんはそれぞれ、2歳のお子さんがいらっしゃると聞いています。手がかかる時期だとは思いますが、子育てと仕事をどう両立されているのでしょうか。

川島:撮影がある日はあらかじめわかっているので、前もって夫に伝えて仕事を調整してもらいます。夫の仕事と重なったらどうしよう......と不安はありますね。

鈴木:夫は夜間に働く仕事なので、子どものお迎えや世話を頼むことはできません。夜は母子ふたりで過ごすので、もし夜遅く打ち合わせが入りそうな場合は、企画を考える側に回りますし、時間的に難しい仕事は避けています。上司やプロデューサーにも「子どものお迎えがあるので18時まででお願いします」と伝えています。

中根:社内のチームメンバーにはわかってもらいやすいですよね。クライアントや外部のパートナーに理解してもらって、チーム全体の意識を変えるのは難しいと感じますが。

鈴木:夜の時間を指定されるクライアントのプロジェクトには入りにくいですね。

井上:この業界は昼夜を問わないので、皆割り切らざるを得ない時もあります。でも、映像業界にはいいところもあります。ロケのように長時間拘束される場合もありますが、定時までずっと会社にいる必要はありません。仕事の内容によって、どこで働くか・どこで切り上げるかはある程度、自分の裁量で決められるので。「映像業界にいると子育てが出来ないわけではない」とは知ってほしいですね。

ただ、多くの会社はママが働きやすくなる環境づくりに、全社的に取り組む準備ができていないのではと思います。サイボウズさんはその点でかなりレアな会社です(笑)。

大槻:全員が全力で仕事に取り組む時代から、それぞれが各自に合ったペースで働く時代になってきていると思います。働く人それぞれの抱える気持ちを考えることが大事です。育児に限らず、介護の問題を抱えた人も増えてきています。個々人の状況を理解してあげること、聞いてあげることが思いやりなのではないでしょうか。

中根:ひとりめの子を出産したときは、働くママが周りに多くなかったので、子どものことはあまり話さないほうがいいのかな......と感じていました。授かりたくてもなかなか授からない人もいますし。理解されにくいなかで「子どもが熱を出したので」「なかなか寝てくれなくて」と打ち明けたところで、「だから何なの?」と反感を買うのではと思っていたのです。

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大槻:井上さんは東北新社でも、「ワーママの先駆け」のような存在だったとお聞きしました。

井上:当時は社内ではとてもレアな存在でした。現在のようなオープンさはなく、本人も周囲もたがいに憶測と遠慮がはたらくような感じだったかと思います。子育てからすこし話は反れますが、身近に「うちは介護ヘルパーさんが家族の一員みたいに住んでるのよ」とあっけらかんと話す人がいます。

家庭内の重たい話は他人に打ち明けにくい面もありますが、ある程度オープンに話してくれる人が職場にいると「うちもそうなの」と打ち明けやすくなると思いますね。

中根:「仕事とプライベートは分けたい」派もいますが、自分が働きやすい環境を整えるためには、周囲に自分の状況を共有して、ある程度理解してもらうべきだと思います。どこまで受け入れるかは相手次第ですが、まず事情を知ってもらった上で、お互い協力しながら高め合っていける仕事ができると最高ですよね。「わかり合う」レベルまでいかなくてもいい。それぞれの状況を共有し合って、お互いを知ることからスタートできれば、それでいいのかなと。

変わりつつある社会を感じてもらいたい

井上:今回のムービーがきっかけになって、働くママを取り巻く環境が変わるといいなと思います。

大槻:ネットだけではなくテレビでも流れますので、油断しているときにあのメッセージが来たらドキッとしますが。

中根:ムービーの続編はありますか。

大槻:そうですね。個人的には、次はパパにも登場してほしいなと思います。

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全員:「夫の言い分シリーズ」、面白いのでやりましょう(笑)。

井上:夫の側でも「言い分がある人」と「言えば分が悪くなる人」に分かれるはず(笑)。たとえば青野社長は「僕はしっかり子育てしてるので、それなりに言い分はありますよ(笑)」とおっしゃっていましたが。どんな気持ちでママを手伝って、どんな気持ちで怒られているのか──「サイボウズ本音シリーズ」、アリですね。

大槻:最後にムービーをご覧頂いた働くママにメッセージをお願いします。

鈴木:サイボウズさんは働くママへの理解がある会社ですよね。そんな会社が提供するムービーを、苦しい思いを抱える働くママに見てもらって、新しい取り組みを行う会社があること、だからこそ社会は今後もっと変わっていくことを感じてもらい、応援になればいいなと思います。このムービーで「会社も世の中も徐々に変わりつつあること」が伝われば、働くママたちも前向きな気持ちになれるのではないでしょうか。

川島:働くママに対して、「大変そうだね」「可哀相だね」と言うのではなく、周りの人たちの意識、働き方がちょっとでも変わるといいなと願っています。

井上:女性のリアルを形にして気持ちを共有するという、これまでにない新しい挑戦ができて幸せでした。プライベートな問題が多く含まれるテーマでしたが、映像を作りながらメンバーとたくさん話ができたと思います。ムービーの設定は働くママですが「大丈夫」と自分に言い聞かせるシーンは、多くの人に当てはまることでもあります。

人には言いづらい悩みを持つ時も、周囲に状況を伝えて働きやすい環境を作っていこう──サイボウズがそう発信するのを受けて、働くママはもちろん、働き方に希望を持つ人が増えることに少しでも貢献できたら、と思います。

(取材:池田園子、撮影:安井信介)

(サイボウズ式 2014年12月 1日の掲載記事「広告業界で働くママたちが描く「働くママのリアルな気持ち」」より転載しました)