ボクシング王国・沖縄を築いた名伯楽、故・金城眞吉さんのドキュメンタリー映画制作 世界王者・具志堅用高さんらを指導

人間関係の希薄化が言われる社会に向かって、熱い師弟の物語を届ける決意だ。

 興南と沖縄尚学の両高校(ともに那覇市)で計45年間ボクシングを指導し、延べ40人の全国王者を育てた故金城眞吉さん(享年73)のドキュメンタリー映画の撮影が進んでいる。教え子有志がクラウドファンディングなどで資金を集めながら、琉球放送(RBC)に制作を依頼。起案した興南ボクシング部OBで司法書士の日高憲一さん(44)は「監督の生きざまを忘れたくない。映像化して、多くの人に監督のすごさを知ってほしい」と、恩師のために制作費集めに奔走する。人間関係の希薄化が言われる社会に向かって、熱い師弟の物語を届ける決意だ。(沖縄タイムス社会部・磯野直)

選手を指導する金城眞吉さん
選手を指導する金城眞吉さん
沖縄タイムス

教え子らネットで基金募る

 タイトルは「10カウントは聞かない~カンムリワシを育てた男~(仮)」。RBCが持つ金城さんの在りし日の秘蔵映像に、具志堅用高さん(62)らOBのインタビューなどで構成する。4月19~22日、那覇市の波の上うみそら公園を中心に開かれる「島ぜんぶでおーきな祭 第10回沖縄国際映画祭」に出品し、RBCが後日特番で放送する。

 金城さんは那覇市消防本部に勤務する傍ら、ボランティアでボクシング部監督を務めた。1985年から自宅にジムと合宿所を造って選手たちと寝食を共にし、私生活から熱血指導。昨年11月16日、がんのため具志堅さんらにみとられながら、この世を去った。

監督を務めた1987年の海邦国体で少年団体優勝を成し遂げ、胴上げされる金城眞吉さん
監督を務めた1987年の海邦国体で少年団体優勝を成し遂げ、胴上げされる金城眞吉さん
沖縄タイムス

 約400人のOBの中には小中学校時代、家庭や学校から見放されたウーマクー(沖縄の方言でわんぱく)も多い。日高さんは「あいさつもろくにできない僕らに、社会人になって恥をかかないようにと礼儀から教え込まれた」。救急車でジムに来て制服のまま指導することもあり「お前を勝たせたい、強くしたいという情熱がすごく、子ども心にも愛情が伝わった」と振り返る。

 映像化は金城さんの闘病中に思い付いた。持ち込み企画のため、制作費約350万円は自前で準備しなければならない。それでも「お金が集まってからではなく、亡くなった今こそOBが立ち上がり、僕らと真剣に向き合ってくれた監督の人生を伝えていかなければ」と語った。

 制作費の一部150万円は、沖縄タイムス社が運営するクラウドファンディングサイト「Link-U(リンクユー)」で募っている。締め切りは3月31日。詳細は、https://a-port.asahi.com/okinawatimes/projects/shinkichi-kantokusan/

故金城眞吉さんの教え子、洲鎌心さん(右)にインタビューする土方浄監督(左)とスタッフ=那覇市首里石嶺町・御殿山
故金城眞吉さんの教え子、洲鎌心さん(右)にインタビューする土方浄監督(左)とスタッフ=那覇市首里石嶺町・御殿山
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「人間性育てていた」RBCアナ 監督の土方浄さん

 「10カウントは聞かない」の監督を務めるのは長年、県内スポーツの取材や中継を手掛けるRBCアナウンサーの土方浄さん(59)だ。金城眞吉さんとの親交も深く「話が来たとき、自分がやらなきゃいけないでしょと思った」と話す。

 練習を取材したとき、「ミットを持っても生徒のパンチを簡単には受けず、追い掛け回してから打たせていた姿が忘れられない。あんな実戦感覚の指導、見たことがない」と振り返る。

熱血指導する故金城眞吉さん(右)と妻の故清子さん(中央)=那覇市首里石嶺・ウィンナーボクシング教室
熱血指導する故金城眞吉さん(右)と妻の故清子さん(中央)=那覇市首里石嶺・ウィンナーボクシング教室
沖縄タイムス

 2月から撮影を始め、家族や具志堅用高さん(62)ら教え子など、県内外の約30人にインタビュー。取材を通して「眞吉さんは、ボクシングを通して人を育てたんだなと改めて思う」と語る。

 金城さんが育てた具志堅さんは、比嘉大吾選手を世界王者にした。「眞吉さんが45年かけてまいた種が確実に育ち、さらに新たな芽が出てくる。そのことが伝わる作品にしたい」と意気込んだ。

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