「人間の都合で殺処分になる犬はかわいそうです。でも、生きる今と未来がある保護犬は、かわいそうじゃないんです」
保護犬の一時預かりなどのボランティア活動をしている佐藤百重さん(43)=東京都町田市=はそう話す。保護犬は哀れみの対象ではなく、人の人生に彩りを与えてくれる存在。不幸な過去に引きずられることなく、新しい生活を最高に生きて欲しい。そんな思いから、実在の保護犬や飼い主をモデルにした物語を本にして自費出版しようと、朝日新聞社のクラウドファンディングサイト「A-port」で資金集めに挑戦している。
佐藤さんが保護犬にかかわるようになったのは約5年前のこと。ペットショップで子犬を購入した後に保護犬の存在を知って、「どうしてこの子たちを飼わなかったんだろう」と後悔したのが始まりだった。
最初は保護犬がいる施設から病院や預かり先などへの移動を手伝う「搬送ボランティア」から始め、新しい飼い主探し、飼い主が見つかるまでの一時預かりなどもするようになった。自宅でも3匹目の犬は保護犬を迎えた。
「飼い主が突然亡くなったり、多頭飼いが崩壊したりと、保護犬にもそれぞれ事情があります。私自身も保護犬に偏見があったので、いろんな犬がいることを多くの人に知ってほしい」
保護犬の物語を書こうと決めた直接のきっかけは、自分が一時預かりしていた犬2匹が、新しい飼い主のもとで相次いで命を落としたことだったという。5年間の保護活動でかかわってきた犬が死んだのは初めてだった。病気を放置して捨てた最初の飼い主への怒りや、自分が預かっている間に何かできたのではないかという後悔や無力感に襲われた。だが、おやつに向かって飛びつく写真や、名前を呼ばれて駆け寄ってくる動画など生前の様子を見ると、幸せな気分がよみがえってきた。
「生きた時間の長さだけでなく、いっしょにいた時間の深さが大事だと思うんです。亡くなっても、その存在は『家族』や関わった人間の記憶の中で生き続ける。自分を大切に思ってくれる人に囲まれ、温かく一生を終えた、と考えたい」
本は、8つの物語で構成する予定だ。フィクションだが、実在の犬や飼い主がモデルになっている。引き取られた後まもなく亡くなった犬の物語では、新しい飼い主に引き取られるときの様子や、家族全員で最期を看取る場面を綴る。
別の話では、飼い主が保護活動で忙しく、「かわいそうなのは、こっち」と不満を抱える犬、散歩のたびに昔の飼い主を思い出して駆け出すため、引き取り先から返されてしまった犬など、それぞれ「事情」を抱えた犬たちが、好奇心旺盛で明るく生きる様子を描いている。
「『かわいそう』と扱われると、その犬は本当に『かわいそうな犬』になってしまう。先入観を持たずに一匹一匹かわいいことを知ってもらうことで、犬を飼うときに保護犬を選択肢に考えてくださる方が増えてくれれば」と佐藤さんは話している。
自費出版のプロジェクトのページは、https://a-port.asahi.com/projects/hogo_inu/。
(伊勢剛)