Aidmics創業者のAgean Linさんと台湾のスタートアップの海外進出を支援する台湾政府関係者
スマートフォンに取り付けて手軽に楽しめる顕微鏡が、朝日新聞のクラウドファンディングA-portで資金を集め、目標金額30万円を達成した。日本の市場で流通する前に、いち早く、それも定価よりも安く手に入るとあって、夏休みの自由研究の道具としても人気が加速しそうだ。
開発したのは、台湾のスタートアップ「Aidmics Biotechnology」社。Aidmics創業者のAgean Linさんはもともと台湾大学で、がんを見つける新しい手法の研究開発をしていた。だが、このがん検知の方法は、臨床実験で思うように成果が出なかった。方向転換して、不妊症のカップルが簡単に精子を検知できるキットを応用し、2014年4月、動物の精子の濃度をチェックする製品化に成功した。多くの養豚関係者が喜んだ。
そんな中、子どもを持つチームメンバーが、「子どもの教育のためにも使えるのでは」と思い当たった。それが、スマホ顕微鏡「μHandy(ミュー・ハンディ)」が誕生するきっかけだった。ミュー・ハンディは携帯電話に付属の顕微鏡キットをつけて、シールの粘着力で採取した素材を、スマホの画面で拡大して見るツールだ。子どもが簡単に使える手軽さがある。
子どもたちは、あらゆるものをミュー・ハンディの付属品の特殊なシールにくっつけることができる。シールを土にくっつける、ソファにくっつける、鳥の羽にくっつける。採れた素材が付着したシールをかざすだけで、不思議に満ちたミクロの世界が、手元のスマホの画面の中に広がる。それまで見えていなかった「本当の世界」が手に入れられるのだ。
Linさんは「私の子ども時代は、先生が壇上に立って教える教育だったので、1台の顕微鏡を交代して回し見することしかできなかった。でもこれを使えば、理解の遅い子も早い子も、自分のペースで深く物事をとらえられる。子どもたちの好奇心を、いつの間にか引き出すことができるのです」と話す。
アメリカの教育現場では、「STEM教育」を重要視する動きがある。STEMとは、科学、技術、工学、数学の理数系教育のこと。それぞれの領域を超えて学び、解決法を発見していこうということも視野に入れる。ミュー・ハンディを遊び道具のように使えば、普段の生活の中で、生物や数学といった枠組みにとらわれない物事の見方ができるようになるという。
また、ミュー・ハンディを使うと、顕微鏡の映像を保存でき、フェイスブックなどソーシャルネットワークでシェアすることができる。自分が見つけたミクロの世界を、多くの仲間と分かち合える楽しみがある。
当面は、台湾と日本での販売だが、将来的には世界展開をもくろむ。たとえば、子どもたちが観察したアリの情報を、ミュー・ハンディのアプリに載せていくことで、、世界各地のアリの形態や動きを比べられるようになる。「世界のアリをみんなで観察し合える世界的なコミュニティが生まれ、それを楽しめるようになる」と、Linさんが夢を語る。「日本は教育熱心ですし、文化も台湾と似ているので、日本でこの製品が多くの人に愛されるのを期待しています」
◇この製品は、株式会社「ハタプロ」(伊澤諒太CEO)が、クラウドファンディングA-portの起案者となり、日本に紹介している。ハタプロは、スタートアップの支援を目的として、2014年から台湾政府・工業技術研究院と共同で国際起業家支援プログラムを実施。今回はAidmics Biotechnology社を支援している。
=伊澤諒太さん、東京都内で
=ミューハンディのCEOや台湾政府関係者らと伊澤さん(右)。スカイプで話した。