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2015年08月20日 15時00分 JST | 更新 2016年08月17日 18時12分 JST

NY激流メディア 新しいメディアづくりに挑む授業(井上未雪)

持続可能なジャーナリズムのための基本所作


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ニューヨーク市立大学院ジャーナリズムコース(=写真)の起業家ジャーナリズムコース (Tow-Knight Center)では、よりよいジャーナリズムのためメディアのスタートアップ(新事業、新会社)の立ち上げを支援する、というのが目標だ。

2014年の生徒は、15人。古い、遺産という意味の「レガシーメディア」と言われる新聞などの組織から、会社沈没の臭いを嗅ぎ取って、抜け出てきた記者たちなど20代から30代後半までいた。

具体的には、元APのニューヨーク市政担当、米三大テレビネットワークCBSのスポーツウェブ担当、香港ウォールストリート・ジャーナル、BBC、Forbesインドの各記者が会社を辞めて来ていた。他にフリーランスが1人、地域に密着したハイパーローカルサイトを運営する女性2人、大学院の学生5人など計15人だった。

5ケ月間のコースの終了時には、投資家らの前で自分の製品(プロジェクト)の発表をする。この一日だけ開かれるデモデー(発表、デモンストレーションをする日)に向かって、全力を傾ける。

元AP通信のNY市を数ヶ月前まで担当していた辣腕記者のGrossさんのピッチ(発表)の出だしはこうだ。

「私は、 Story Tourの創業者のサマンサ(Samantha Gross) です。今日は自分の記者の時に疑問に持っていた点に応える新製品について紹介します」

まだ、完全にローンチしていない。だが、試作版を出しているだけでも立派な「創業者」なのだ。ここにさまざまなプロジェクトが次々と生まれる環境がある。創業者と言い切って、走りながら起業の先輩であるメンターから意見を聞き、アイデアをブラッシュアップし、資金を得るべくベンチャーキャピタルにもあたる。

StoryTourは、柔らかネタを取材する記者の現場に客を同伴し、ツアー形式で取材するというもの。ニュースの現場こそ、一番魅力的な話が詰まっている。それを提供するにはどうしたらいいか、というのが、彼女の記者時代の解決すべき「課題」だった。

彼女のミッションステートメントは"Story Tour is an in-person magazine that brings its audience offline to experience stories firsthand through on-the-scene storytelling"(Story Tour)というものだ。(ストーリーツアーは、目の前で話が繰り広げられる現場に身を置いてオフラインで生の体験ができる「生きている雑誌」です。)

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NYであったStoryTour

自分の製品を磨きあげるために、グループで討議を重ねる。「あなたのプロジェクトの欠点は、集客の点だ。フェイスブックを通じて何人集まるアテがあるのか。誰をインフルエンサー(拡散する人)として知らせるのか」などと質問を繰り返し投げかけられる。

また、事業をまわすための基礎知識として、事業、収益計画の立て方、損益計算書の見方、広告の取り方や製品の差別化についての授業などを受ける。ネットワーク作りも大事だ。メディアの激戦地のマンハッタンの中心に位置する大学院は、どこにでもすぐに行け、Mashable、Rebelmouse、BuzzFeed、Contently などスタートアップメディアへの訪問も組み込まれている。

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NYのツイッター社への訪問

エレベーターピッチの授業もある。エレベーターピッチとはエレベーターに乗り合わせている間に、相手に関心をもってもらうようにする短時間のプレゼンテーションだ。出稿計画をデスクに伝える時とは違う頭を使う。

授業の中で学生たちは、さもエレベーターに乗り合わせた人に自分の製品を説明するかのように短時間に製品の「肝」を伝える。

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起業家ジャーナリズムの修了生のChristian Fahrenbachがメディアイベントで登壇した=ニューヨーク市立大学ジャーナリズムスクールで

私は、読者による記者の逆指名サイトMyCorrespondentを自分のプロジェクトとして取り組んでいた。読者と記者を結ぶツールにするためだ。他の学生が起業を目指している中、社内サービスの一つとして実験的に試みたいという趣旨で取り組んでいたので他のプロジェクトとは違い、マネタイズの方法が大きな課題だった。そのエレベーターピッチは以下のようなものに落ち着いた。

"To Shed light on matters not covered by the media, this is a platform for writers and readers to collaborate on reporting."

(メディアにまだ取り上げられていない課題に光をあてて、記事をつくるため、読者と記者をつなぐプラットフォームです)

2014年の15プロジェクトは、頓挫したものが半数、続けられているものが半数ほどある。コースが始まって1年後の2012年の卒業生のNoah Rosenbergさんが創業したNarrativelyは順調に投資額を伸ばしている。

1日1本だけ深堀記事を配信するNarratively


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Noah Rosenbergさん

Noah Rosenbergさんは、ニューヨークタイムズに記事を出稿する「ストリンガー」などを経験したフリー記者だった。2012年にクラウドファンディングサイトの「キックスターター」で53、739ドル(約650万円)を調達し、友人らと Narrativelyを立ち上げた。

Rosenbergさんは、起業家ジャーナリズムコースにおける私のメンターで、私のプロジェクトについて話すため3回ほど会ったが、常に「なぜそれが必要とされると思うのか」「人々は何を求めているのか」「自分の独りよがりになっていないか」を常々私に説いた。徹底的に読者(利用者)の視点に立つことを叩き込まれ、製品がどうやったら読まれるのか、を考えさせられた。書けば読まれるはずだという漠然とした新聞時代の「前提」はそこにない。

スタートアップに協力的な環境


初めにRosenbergさんに会ったのは、Rosenbergさんの自宅近くのブルックリンのカフェだった。ブルックリンは、メディアや食材品などさまざまなスタートアップが生まれており、こうした創業者たちがWiFiのあるカフェで一日中コーヒーを飲みながらプログラミングをしたり、事業計画をつめたり、創業仲間と話し合ったりしている。カフェのマスターたちは「やあ、元気?」「調子はどう」と声をかけ、一日中カフェにいるのに嫌がりもせず、起業家たちを見守っている。

起業家たち同士のネットワークも強い。プログラミングが分からなかったら、知り合いに連絡する。知り合いが問題解消できない場合は、さらに知人を紹介してくれる。スタートアップのネットワークがNYに張り巡らされている。そんな中、次々にメディアのスタートアップが生まれては消え、消えてはまた別のものが生まれ、とどまることはない。

井上未雪 Miyuki Inoue
朝日新聞メディアラボ
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東京都出身。旧東京三菱銀行の投資銀行部門から2003年10月に入社。岐阜総局、豊橋支局、名古屋報道センターで、東海地方を中心に行政を担当。2014年11月からメディアラボ。1年間、ニューヨーク市立大院・起業家ジャーナリズムコースに派遣され2015年1月に帰国。ソウル留学を含め社に入って10回引っ越しをしました。旅好きです。
https://medium.com/@myuinoue
@MyuInoue