幼児教育・保育の無償化~「今あるものをタダにする」だけでなく「できてないこと」の実現を

幼稚園・保育園・認定こども園の費用は3~5歳児全員の無償化が決まりました。

12月8日政府の閣議決定により、幼稚園・保育園・認定こども園の費用は3~5歳児全員の無償化が決まりました。

(毎日新聞)幼児教育無償化 19年度に先行実施 閣議決定 https://mainichi.jp/articles/20171209/k00/00m/010/198000c

子どもの年齢があがるほどに、公立の学校でも教育費の負担がかかるだけに、幼児期の負担ゼロは確かにうれしいことです。

ただ、親の所得にかかわらず、全ての子どもが幼児期に教育を受けられることは望ましいとは思うものの、何か釈然としません

■ 最大の恩恵は富裕層へ~さらなる教育格差を生む懸念

保育園・認定こども園は応能負担で、所得に応じて保育料が決まっています。

住民税を免除されている家庭など低所得の家庭には保育料が減免されるなど、かなりの減額が既にされており、今回の無償化で一番、恩恵を受けるのは高額所得層です。

無償化されることで、その金額はさらに子どもへの教育投資に充てられることも十二分に考えられます。さらに家庭の所得格差が教育格差につながっていくことはないのか? そのあたりをどうするのか? 疑問が残りますし、無償化をすべての家庭に広げる前にやるべきことがあるのではないか? とも考えます。拙速感が否めません

■ 認可外はどうなるのか?

無償化するにしても、認可外保育園をどのように対象としていくのか

政府の閣議決定では、「認可外施設については、有識者会議を設置して無償化対象などを検討し来年夏までに結論を出す。」としています。

例えば、文京区では認可外保育施設を利用する世帯へ4万円の補助金を出しています、

が、認可外保育所を利用するすべての世帯が対象にはなっていません。要件があり、さらには、施設そのものが、基準を満たしているかどうかもあります。

東京都福祉保健局のホームページに掲載されている「認可外保育施設一覧表」に記載のある施設のうち、「基準を満たす旨の証明書」の項目が「有」となっている施設が助成対象です。

実際に、文京区にある認可外保育施設(11月1日現在)は、14件中6件のみが補助金の対象です。

では、実際に認可外保育園を利用している世帯の入園理由に目を向けると...。

厚生労働省の「平成 25 年 地域児童福祉事業等調査の結果~認可外保育施設利用世帯の状況(平成 25 年 10 月実施)~」によると、実際に認可外保育園を利用している世帯のうち、認可保育園への入園を検討したものの入らなかった(入れなかった)理由の上位3つは、

  1. 入りたかったが空きがなかった
  2. 保育時間が希望に合わなかった
  3. 預けたい時期に入れなかった

で、全体の49%に該当します。(ベビーホテル利用世帯では56%)

つまり、本当は認可保育園に入りたかったものの、認可外保育施設を利用せざるを得ない家庭は少なくなく、どう線引きをすべきか? 文京区でも課題となっています。

また認可外保育園は保育料が10万円を超すこともまれではなく、4万円でとても足りるものではありません。金額の課題も残っています。

国が行う来年夏までの検討に向けて、認可外保育施設利用者に助成金を出す自治体は、保育時間や預けたい時期、保育料の負担等、様々なニーズや、そこで見えた課題を積極的に国へ伝えて行くことが重要ではないでしょうか。

■ 国はまず、自治体の良質な認可保育園整備に財政支援とセットで主導すべき

その条件としては、保育の質をけっして置き去りにしないように、保育室の面積基準を最低限守ること。子どもとゆったりと関われるように、最低基準の保育士の配置ではなく加配をすること。その上で、待機児童の解消に努める自治体に対して財政支援をすべきかと思います。

さらには、夜間や休日に出勤する家庭の子どもたちの保育の整備も不十分であり、病児・病後児保育の拡充も望まれます。また、そうしたニーズのアンマッチからも、受け皿になっているとも言える認可外保育施設の事業者のうち、約4割は認可施設へ移行したい意向を持っているとの厚労省の調査もあります。

こうした多様なニーズへの対応に国が本気で取り組まなければ、たとえ財政的にゆとりがある自治体であっても、各市区町村の動きは首長のやる気次第になってしまいます。

先月の文京区議会本会議では、都内23区中、夜間保育が6区、休日保育が13区で実施される中、文京区が未実施であることから、以下の質問をしました。

  • Q:子育て支援の観点からもニーズがあり、実施が必要です。年末保育のような実施方法もあるかと思います。伺います。
    • A:【成澤区長】まずは、子育て中の保護者の働き方の見直しを含む、ワークライフバランスの確保が重要と考えております。その上で、区においては、延長保育等の充実により、多様化するニーズに対応してまいりました。また、必要に応じて、キッズルームシビックをはじめとした様々な子育て支援サービスを、夜間・休日にもご利用いただいているところです。現在、待機児童解消のため、限られた保育士を有効に活用し、認可保育園等の充実を最優先として進めており、保育園において、夜間・休日保育を実施する考えはございません。

文京区の就労支援はあくまでも平日の日中に働く人だけが対象で、そこから漏れる人は、ワークライフバランスの見直しをしてください・・・と聴こえる答弁です。

しかし、個人のワークライフバランスは、見直せるなら見直したいけど、それができないからこそ、施設も人的環境も整備されていて子どもを安心して送り出せる認可保育園の夜間・休日保育を利用したいニーズが存在するわけです。

経済的負担も小さくありません。文京区では、夜間・休日等の一時預かりに対応したキッズルームは3時間までで2,400円、3時間以降1時間800円となっています。休日8時間預ければ、6,400円です。

待ったなしの待機児童問題では、各自治体は国からの通知により、大規模マンション等の建設に際して保育施設の設置をお願いすることになりましたが、ほぼ「お願いして終わり」という状況になりそうです。それだけに、国は、自治体が積極的に当該マンションの部屋を買い上げて保育施設を設置できるように財政支援を行えば、状況は変わってくるのではないでしょうか。

■ 医療的ケア児の保育環境整備も進まず実質排除

10年前に比較して約2倍に増えたといわれる医療的ケア児の保育園も整備されていません

文京区では、医療的ケア児の保育園の利用の必要性が認められながらも、そのお子さんに応じられる保育環境がないという理由で入園できずにいます。まさに権利侵害がおきています。区は医療的ケア児も入園できる保育環境を作ることに消極的です。

仮に、国が医療的ケア児の入園のための人的課題も含めた環境整備を義務化し、あわせて財政支援をすれば、文京区のように、医療的ケア児の入園を拒否し、さらにそうした環境整備に後ろ向きになるようなことは起こらないように思います。

そもそも、医療的ケア児の親になることは誰にもおこり得ること。生まれてくる子ども誰をも排除しないためにハード面も整備した保育園があってこそ、安心して「産む」という選択が持てるのです。

■ 子どもは宝、社会で育てるもの、未来そのもの

政府が閣議決定した「幼児教育・保育から大学など高等教育も含めた教育の無償化」には2兆円が投じられ、財源は消費税の増税分です。

巨額を投じても、「今あるものをタダにする」ことを最優先にしているだけでは、事態が良くなるとは思えません

上述したような「今できていない」様々な課題やニーズへの対応を実現する実効力のある施策にするためには、国の本気度が問われていると感じます。

言うまでもなく子どもへの投資は重要なことです。国の、社会の、「未来への投資」に他なりません。だとすれば当然、子どもは社会で育てるもの

各家庭の努力だけでなく、自治体任せにもせず、多様な子育て支援や教育のニーズに対して、国は真正面から財政支援をすべきです。そのためには、国は子育て支援の課題をしっかりと洗い出した上で見える化し、優先順位をつけるべきです。

親の経済格差による子育てや教育の格差を野放しにせず、すべての子どもがその可能性を最大限に伸ばせるような支援を行ってこそ、この国の未来が開かれるのではないでしょうか。

pakutaso

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