区議会での審議を設計に反映しないのはなぜ?~区立保育園全面改築の設計課題

文京区は、認可保育園の園庭保有率が23区で最低であり、公園は近隣の園庭のない保育園の子ども達であふれ、一人ひとりが想うように外遊びをすることが難しくなっています。

住民の日々の暮らしをより安心で暮らしやすいものにしていくために、その暮らしが日々営まれている地である地方自治体の議会には、大きな役割と責任があります。

地方議会での審議は、行政の施策に住民の視点を反映するためにあると言えます。

行政だけで考えて全ての施策を実行してしまうと、区民が抱える課題を把握しきれなかったり、不利益を被る区民が出てしまったり...など真の区民ニーズからズレてしまう可能性があります。そのため、区民の代表である議員が、より広い多様な視点から施策をチェックして、より良い区民サービスを届けるために行われるものが、区議会での審議です。

審議の際には、区民全体の利益を行動指針として、現状の課題解決を念頭に置くことはもちろんのこと、日々の様々な人々の暮らしを想い描き、想定外を無くすように努めることが重要です。

しかし、議会でいくら審議をして問題点を指摘し改善を求めたとしても、審議された内容を「行政がまったく活かさない」ならば、議会で審議する意味がありません。

例えば、文京区議会は様々な施設を建設する際の「基本設計」を議会で審議します。ですが、区は、その審議内容をほとんどと言ってよいほど活かすことなく、ほぼ基本設計のまま実施設計として建設します。結果、完成後に使用が開始されると、案の定というのか、議会で指摘されていた問題が浮上してくる、といったことが少なからず繰り返されてきました。

で、どうするか?と言えば、また税金を投入して補修や改修を行う、というおかしなことが実際に行われています。

何のための審議だったのか? 

指摘された問題点等が妥当なものとは考えていないのか?...だとすれば議論を深めれば良いだけです。

そもそも自分たちが立案した基本設計を変更することはプライドが許さないのか?...首をかしげざるを得ません。

少なくとも議会は、前述したように、区民の代表が集まって審議をする場ですので、もし、「区民のニーズなんていちいち聞いていたらキリがない」と考えているのだとしたら、行政は「自分の存在意義を自ら否定」しているようなものです。

さらには、区長の与党と言われる会派は、区からの提案に対して「賛成」が基本ですので、提案に対して課題を追及することが非常に少ないです。ひょっとすると区の提案に対して是々非々で審議をする「野党」からの指摘は「無視」という文化があるのかもしれません。

区政運営の基本となる理念や仕組みを明文化した「文の京 自治基本条例」には、

区議会は、住民の直接選挙により選ばれた議員で構成する意思決定機関であり、執行機関の区政運営を監視し、及び牽(けん)制する機能を有する。

と明記されています。

直近の具体例を書いてみますので、今後の進捗に注目してください。

12月2日の文教委員会で「青柳保育園改築工事」の基本設計についての審議がありました。

基本設計は、あくまでもたたき台であり、その設計について様々な視点を持って、多様な子ども達一人ひとりの健やかな育ちを保証するものに、文字通りたたき上げていかなければなりませんし、保育士の方々の保育のやりやすさも考えていく必要があります。

まず、背景として...

文京区には、待機児童解消の課題の影にも大きな問題があります。

文京区は、認可保育園の園庭保有率が23区で最低であり、公園は近隣の園庭のない保育園の子ども達であふれ、一人ひとりが想うように外遊びをすることが難しくなっています。

当然、園庭を持つ区立認可保育園は、近隣の私立保育園の子ども達にも遊び場を提供することを念頭に置いた設計でなければなりません。

ただ園庭やプールを提供するだけでなく、園庭のない園の子どもたちが遊びに来たときには、区立保育園の子ども達と共に、室内での遊びや外遊びを自由に選べるようにも想定していくべきです。

ところが、今回、議会に示された基本設計からはそうした配慮は見えてきません。

青柳保育園の老朽化した園舎の全面建て替えでは、「安全・安心な保育を実現し、子ども達の健全な発達を促すこと」を狙いとしています。もちろん大切なことであり、異論はありません。

一方、園庭のない認可保育園の子ども達の遊び場、プールの確保というのも、解決すべき重要な課題としてあります。私立に比較して恵まれた保育環境と言える区立保育園である以上、私立保育園への遊び場等の課題解決への貢献も見据えた改築である視点を持つことは当然、重要です。

青柳保育園建て替えの基本設計では、1階が0~2歳、2階が3~5歳児の保育室となっています。

文京区立保育園は、これまで0~2歳は2階、3~5歳児は1階に保育室を設ける施設となっています。

文京区立保育園が0~2歳児を2階にしてきたことにはいくつも意味があります。

現在、ノロウィルスなどの感染性胃腸炎の都内の患者報告数が、流行警報基準を超えた状況です。文京区のホームページでは、

例年、11月から2月にかけての時期は、保育園や幼稚園、高齢者施設などを中心に腹痛、下痢、おう吐を主な症状とする「感染性胃腸炎」の集団感染が多数報告集団感染が多数報告されています。集団感染が危惧される各施設に置いては、施設の衛生的管理など、感染症の予防のため特に注意し対策を行ってください。

と呼びかけているほどです。

「2階は乳児しか使わないため乳児の感染症対策を取りやすい」というのも2階にする意味のひとつです。文京区で積み上げてきた感染症対策からも、感染予防の観点からも、乳児は2階という設計方針を踏襲すべきと考えます。

災害時に乳児を外に連れ出すことを考えると乳児は1階が良いとの意見もありますが、耐震設計は最新のもので、耐火構造の建物ですので2階でも安全は確保できるはずであり、感染症予防は日常の中に潜む危機管理として重要だと思います。

いっぽう、3~5歳の保育室を2階にするというのは、その園の子どもたちももちろんのこと、前述したように、園庭のない子どもたちが遊びに来た時にも、自由に室内と園庭を行き来して自発的に遊ぶことが非常にしづらい設計です。外遊びの時間は、全員外で遊ばなければならない、という押し付けではなく、子どもが自発的に外や室内で様々な遊びを選べることが生育上重要です。

また、プールも設置される公立保育園の恵まれた環境を、他園の子ども達が存分に利用しやすいように設計を考えるべきですが、そうした配慮は基本設計からは見えてきません。

子どもは、他の子どもがやっているのを見て、遊びに興味をもって、遊びを広げたり深めたりしていくものです。その点でも、外遊びをしている子の姿が室内で遊んでいる子の目に自然に映ることは、子どもの生育環境としてとても重要なことだと思います。

また、3~5歳児は2階から避難用スベリ台も使って園庭に降りて遊ぶことが想定されています。予定されているステンレス製のスベリ台では、夏場には相当に熱くなることが想定され、子ども達のやけどが心配されます。

なおかつ、区立保育園で実施している障害児保育で、肢体不自由な子どもが入園すれば、2階から園庭に降りることは、移動に相当の負担がかかりますので、園庭での遊びに制約がかかってくることが容易に想像できます。が、基本設計の立案段階での議事録を情報公開して読む限りは、そうしたことを思い描いた議論はなく、残念なことです。

議事録にはさらに、「遊戯室は運営上から1階が望ましい」と園長から要望が出ているにもかかわらず、遊戯室も2階に設定されています。階下には0歳児の保育室が設計されているので、防音を工夫するにしても、跳んだり跳ねたり子どもたちが思い切り自由に過ごせる環境となるのか、疑問が消えません。

0~2歳の乳児を2階としてきた他の理由として、日常は、乳児は2階のテラスで遊び、3~5歳の幼児と物理的に分かれており、動線が重なることでぶつかって怪我をするなどの危険性が低いこともあげられます。

今回の基本設計は、乳児も園庭で遊ぶことになりますので、保育士が子ども達の怪我がないようにする緊張感は大きく増すのではないかと思われます。そっちはダメ、ここまで・・・といった注意が子ども達に向けられ、思い切り遊び切れる環境と言えるのか・・・。

他園から遊びに来た保育士もまた、乳児に怪我をさせないようにと相当に気を使わざるを得ず、そうした大人の萎縮した気持ちが子どもにも伝わるのではないか?と危惧してしまいます。

基本設計図

実は、今回示された基本設計に至るまでに、他に3案が検討されていました。

その中でB案と言われる案が、感染症予防の観点、乳児と幼児の遊びの動線が分かれていること、他園から来た子ども達が室内遊びや外遊びを自由に選んで遊べることなどから、とても良い案だと評価できるものです。

他の文教委員たちからもB案を押す声があがりました。また、青柳保育園の園長先生もB案が良いと言われていたことが議事録からわかりましたが、施行コストといったことで施設管理課が「勧められない」として、流れてしまっています。

文京区は約670億円の蓄えがあるだけに、コストを理由に、子どもたちのより安全で存分に遊べる環境が担保されないのは、未来への投資を惜しんでいるかのように感じて悲しくなります。

いずれにしても、現状の基本設計には課題があると考えます。

情報公開で入手した資料には、「0,1,2歳を1階にすることには保育現場から反発が強い」とも書かれていました。

どのようにこの基本設計を変えていくのか、それとも、従来のように審議がなかったかのように、基本設計そのままを実施設計として、園舎を建設していくのか? ご注目下さい。

繰り返しになりますが、区議会での審議は、多様な区民のニーズを反映するためにあるものです。

議員が多様な区民のニーズを汲み取り、より行政に理解されるように伝えていくことはもちろんですが、行政には「区民のニーズにかなう、より良い区民サービスを提供する」という原点を再認識して、「誰も排除せず、誰もが感謝するようなより良い施設をつくろう。そのためだったらいろんな指摘や意見に耳を傾け、知恵やアイディアをどんどん取り入れていこう」といった姿勢で、区職員自身が仕事に幸せを見出してもらえることも切に願っています。

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