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2018年06月13日 10時07分 JST | 更新 2018年06月13日 10時07分 JST

「ドローン革命」で、アフリカが先進国へと変わる未来

「アフリカ」と「ドローン」の掛け算がもたらす社会変容は、アフリカを先進国へと変貌させるかもしれないポテンシャルを持っている。

2017年5月、ある衝撃的なプレスリリースが話題となった。ドローンのソフトウェア開発を手がける株式会社CLUEが日本企業としては初めて、アフリカ政府機関と協定を締結。広大な国土の大部分のインフラが未整備なままのガーナにおいて、道路点検や金の違法採掘撲滅にドローンを活用するという。

その仕掛け人がCLUEで海外事業を担当するCCOの夏目和樹氏だ。夏目氏といえば、カヤック在籍時は広告賞を数多く受賞、リクルートでは30歳以下を新卒として再定義するなど人事として活躍した経歴を持つ。リクルート退職後のアフリカ移住の話も話題を呼ぶなど、波乱万丈な個人史を持つ夏目氏が全身全霊で今挑むのがアフリカでのドローン事業なのだ。

日本においては2015年の首相官邸落下事件以来、ネガティブな印象を持つ人が少なくないドローン。それでも、今回のインタビュー記事を読んでもらうことでその印象は一変するだろう。「アフリカ」と「ドローン」の掛け算がもたらす社会変容は、アフリカを先進国へと変貌させるかもしれないポテンシャルを持っている。

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なぜ「アフリカでドローン」なのか

「Drone as a Service(DaaS)」を掲げるCLUEはドローンそのもの(ハードウェア)ではなく、中に組み込まれるソフトを開発する企業だ。

ブラウザ上でドローンをコントロールするクラウドサービスや、建築や土木現場で使われるアプリケーションを提供し、ドローンと社会の安全な調和を目指している。たとえるならば、iPhone本体ではなく、アプリを作っている会社だと言える。元々エンジニアだった代表の阿部亮介氏が2014年に創業した同社は、ドローン業界では古参の部類だという。

創業から3年、なぜアフリカでドローン事業を展開することになったのか。その舞台裏にはどんな苦労があり、どんな未来像を描いているのか。自身のアフリカ滞在の経験からドローンの活用の可能性を見出したという、CLUE CCOの夏目氏に話を伺った。

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CLUEに入社する前の夏目氏は、アフリカで「調査マン」としてリサーチを行ったり、日本とアフリカ間でのビジネスの手伝いをしていたという

夏目:CLUEに入社する以前、アフリカで暮らして仕事をしていました。そのときに感じた不便が今回の協定締結につながっています。

たとえば大きな川の対岸に渡ろうとすると、迂回せざるを得ないので、1週間ほどかかってしまう。だから配送コストが高い。道路も未整備でボコボコなので、タイヤもすぐにパンクしてしまう。とはいえ道路の舗装も簡単にはできません。そこで思いついたのが「ドローン」。空にドローンを飛ばせば迂回する必要もないですし、そもそも道は要らなくなります。インフラの未整備に起因する問題を一気に解決できることに気づいたんです。

ーーそうしたアフリカでの原体験を持ってCLUEに入社されるわけですが、そこから先日のプレスリリースに結実するまでにはどういったプロセスがあったんですか?

夏目:CLUE自体にはアフリカとの接点はありません。そこで再び、単身アフリカに飛びました。日中40℃近い気温の中、外で政府高官の出待ちをするなど、地道に粘り強く交渉をし締結にこぎ着けたという感じです。

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アフリカ政府の「ドローン」そのものへの関心に加え、エンジニアリングに強みを持つCLUEだからこそ、交渉にこぎ着け、協定を締結できた

ーーその裏にかなりの苦労があったと推察しますが、特に大変だったことは何でしょうか?

夏目:そもそもガーナはドローンに対してかなり厳しいんです。無許可でドローンを飛ばすと1,000万円以下の罰金で、30年以下の懲役。実際、空港でドローンを没収されました。知り合いを通じて航空局の偉い人に口添えしてもらい、許可証をもらうことができましたが。そのおじさんと仲良くなければ、ドローンを持ち込むことさえできなかったでしょうね。

ーーコネが重要だと。

夏目:コネというより、ちゃんと相手の環境に入り込む努力は必要だと思います。また誰を知っているのか、困った時に相談できる人がいるのと、いないのとでは話が全く違いますね。

金の違法採掘を撲滅できるのはドローンだけ

ーーリリースの内容のなかでも特に驚いたのが、「金の違法採掘の撲滅にドローンを活用する」というものですが、あのアイデアはガーナ政府との会話のなかで生まれたのでしょうか?

夏目:僕も知らなかったんですが、実は金の違法採掘によって自然が破壊されるのに加え、排出される水銀が昔の日本でいうところの水俣病を引き起こす原因になっているんです。近年、金の価格が高騰したことで違法採掘も横行し、水俣病がガーナ国内で大きな問題になりつつあるんです。

ーーそこで、違法採掘者を発見し、警察組織に通達するためにドローンを飛ばすことになったわけですね。

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金の違法採掘現場を上空から見下ろすと、あたかもジグソーパズルのピースが一つ欠けているように見えるのだとか。画像解析により緯度経度を計算、すぐに警察に通達するのにドローンが最適なのだ

夏目:問題を解決するためには、ドローンしかありません。飛行機の高度では発見するのが不可能ですし、ヘリコプターだとコストがかかりすぎる。徒歩でもそうそう見つけられませんし、襲撃される恐れもあります。

一方、ドローンの場合は画像解析によって、森林にポカンと空いた彼らの存在を容易に特定できるんです。写真に紐付いた位置情報を警察に送ることで、迅速に機動隊を派遣することが可能となります。

ーードローンが違法採掘者に見つかることはないんですか?

夏目:飛んでいるのは上空50mなので、基本的には気づかれないですし、銃も当たらないと思います。

ーーその意味でも金の違法採掘を撲滅できるのはドローンだけなのですね。

輸血や密猟の発見、アフリカの社会問題をドローンが解決していく

アフリカ全土54カ国を見渡しても、まだまだドローンを活用した事例は少ないという。そもそもドローン産業自体が新しく、各国が自国で実証実験中であるため海外資本の参入がない。当然、事業を始めるにあたり必要となるハードウェア/ソフトウェアのイニシャルコストが決して安くはないことも一因となっている。それでも数少ない先進事例として、夏目氏はルワンダにおけるドローンを活用した輸血の取り組みを教えてくれた。

夏目:ルワンダの田舎地帯では、電力が不足しているため血を冷蔵することが難しい。しかも車で輸送すると時間がかかってしまうんですね。そこでドローンを活用することで、迅速に届けられるようになります。このように、緊急を要する物資を運ぶのにドローンはもっとも力を発揮するんです。

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アフリカのなかでもIT立国として知られるルワンダでこそドローンが活用されているものの、他のアフリカ諸国ではドローンが全くといっていいほど活用されていないのが現状だという

ーー他にドローンが適用できそうな、アフリカならではの問題は何かありますか?

夏目:CLUEが開発するようなドローンのソフトウェア面、すなわち自動走行と画像解析の強みを生かせる場面は多いのではないかと思います。たとえばサバンナ地域ではドローンで、サイやゾウといった希少生物の密猟者発見に活用できるはずです。

ーーなるほど。自動走行と画像解析という機能の汎用性が高いので、アイデア次第で活用方法の幅はかなり広そうです。日本におけるドローン活用の現状はいかがでしょうか?

夏目:日本は法律の関係もあり活用が進んでいませんでした。しかし近年はドローンを飛ばしやすい地方の地域、土木建設の現場などでは徐々に使われ始めています。アフリカの場合はそもそも法整備がなされていないこともありますが、既成概念に囚われず今の時代に最適なテクノロジーを柔軟に取り入れてルールを作っています。

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ドローンの価格は20分ほど飛行できる汎用的なもので20万円ほど。より長時間飛ばすための高スペックな機体のものだと、300万円ほどだそう

ーーアフリカの国事情、社会問題、あらゆる面でドローンに対する圧倒的なニーズがあるわけですね。

夏目:道が舗装されていなかったり、道路が未整備で起こる事故も多い。今回CLUEが進めることになった道路点検事業は現在非常にアナログです。人間が現場を逐一確認しながら、手書きのレポートを書いているので、いつまで経っても終わりません。ドローンを飛ばして点検することで、効率性が数百倍は向上すると言われています。地面がない国はないので、インフラが未整備の後進国でドローンが果たす役割はとても大きいです。

そもそも道路はいらない。ドローンがアフリカを先進国へ導く?

広大な国土と未整備のインフラに起因する数々の問題群。莫大な国家予算を投じながら、段階的に問題を解決するのが通常のプロセスだ。ところがドローンは物理的な制約を一切受けないため、階段を一気に飛び越えて社会問題にイノベーションを起こす。そこに夏目氏はアフリカを後進国から先進国へと一気に引き上げるドローンのポテンシャルを見出す。

夏目:ドローンの活用についてガーナ政府と協議するなかで、話していたのは「そもそも不要な道路は作る必要がない」ということです。道路を作るのではなく、街に高いビルを建設しない。電線も作らない。コンパクトに集約させる。

そうすると配送はもちろんのこと、将来的には移動もドローンでできるかもしれません。いわば、「ドローンタクシー」ですね。ドローン同士で通信を行うので、渋滞も起こりません。

こうした社会をいち早く実現することができれば、日本が法規制に時間を取られている間に、アフリカが一気に先進国を追い抜く可能性があります。ドローンによる産業革命がアフリカで起こる。

ーーCLUEとしてはその最前線で、ドローンのソフトウェア面で支援していくということですね。

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携帯電話の発展と同様、普及に合わせてドローンのスペック自体は上がっていく。バッテリーの持ちのような技術的な課題よりも、法整備といった社会側の受容体制が今後の鍵になると夏目氏は語る

夏目:単純に人を派遣するというよりは、システムを送り出していく。道路点検の度によく分からない国から人が来たら、雇用も奪われてしまうので個人的にはやりたくないと思っています。今まで不可能だったことが、テクノロジーによって可能になる。そしてなにより現地の人が自分たちでできるようことが重要です。

システムは提供しつつ、現地に雇用が生まれ、イノベーションによる成功体験とテクノロジーがその国に根付くのが重要であると考えています。

高齢化や超過労働が俎上にのぼることの多い日本で、「違法採掘」、「密猟」、「水俣病」...といった言葉を聞く機会はそう多くない。社会問題の位相が全く異なるアフリカにおけるドローンの活用は、日本で暮らしていると気づかない視点に溢れている。「ニーズがあるところにビジネスチャンスあり」の膝を打つ好例であろう。

目新しい技術をただ移植するのではなく、あくまでも問題解決のためにテクノロジーを社会に実装する。ガーナを足がかりに、ドローンがアフリカ全土を飛び回るのもそう遠くない未来なのかもしれない。

(取材・執筆:長谷川リョー、編集:BAMP編集部)

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