ドイツのエネルギーヴェンデ(大転換)の失敗から学ぶ教訓--日本にこそ示してほしい地球温暖化問題を解決する方法

原子力発電に背を向け再生エネルギーへと向かうドイツのエネルギーヴェンデ(大転換)は、福島原発事故後の日本のモデルとして何度も言及されています。しかし、ドイツのエネルギー政策は、低所得層にツケを回す上に、気候変動を防ぐ方法としても不十分です。

原子力発電に背を向け再生エネルギーへと向かうドイツのエネルギーヴェンデ(大転換)は、福島原発事故後の日本のモデルとして何度も言及されています。しかし、ドイツのエネルギー政策は、低所得層にツケを回す上に、気候変動を防ぐ方法としても不十分です。

ドイツ政府は最近、690万世帯がエネルギー貧困の状態にあり、収入の10%以上を光熱費に充てていることを認めました。これは、主として再生エネルギー賦課金のせいなのです。今年、ドイツの消費者は、いわゆる「再生エネルギー再割当負担金」として、通常の電気料金に加えて236億ユーロ(約3兆3700億円)という莫大な金額をグリーン・エネルギーの助成のために支払うことになるでしょう。この負担金は2008年は1キロワット時1.64円だったのが、2014年に入って8.9円へと急騰したのです。この結果、新たに140万世帯がエネルギー貧困に苦しむことになりました。

ドイツの消費者は、2000年以来すでに1090億ユーロ(15兆5500億円)を再生エネルギーに支払っており、今後さらに大きな費用がかかります。2000年に対し2012年では、ドイツの世帯当たりの電気料金は実質価格で80%増加したのです。(前頁のグラフ参照)

ドイツのエネルギー政策は、未来のエネルギーを開発するための大きな賭けとして見ることができると論じる人もいます。もし賭けが当たれば、ドイツの工学技術の未来も安泰かもしれません。

しかしながら、ドイツのお金のほとんどは未来のための研究ではなく、既存の効果の低いグリーン技術を購入するために大量に投じられているのです。ドイツ議会の政策アドバイザーは2014年2月、ドイツのエネルギー政策について辛辣な告発を公開しました。彼らは、現在の助成金がグリーン技術の革新を妨げていることを発見したのです。報告書では、「ドイツにおける技術に特化した革新への(助成金の)影響は非常に小さい」と表現されています。本質的に、風力でも太陽光でもバイオマスでも、開発済みの技術をさらに売り続ける方が、リスクが大きい新技術の開発をするより企業にとってはるかに安全です。だからこれらの企業は、より優れた新技術の開発を試みることなく、既存の技術への巨額の助成金を受け取っているのです。

さらに、再生エネルギー法は気候変動防止に資することなく、費用を膨大なものにします。報告書は、「これら二つの理由から、再生エネルギー法を継続する根拠はない」と結論づけています。

要するに、ドイツのエネルギー政策はほとんど何も成果を上げない高価な手段なのです。太陽光発電だけをみても、それが一次エネルギー消費量の0.7%しか占めていないのにも関わらず、ドイツは今後20年間で1千億ユーロ(約14兆円)以上を助成金として支払うと表明しています。しかも、こうした太陽光パネルが気候変動防止にもたらす実質的な効果は、今世紀の終わりまでに地球温暖化をたった37時間遅らせることでしかないのです。

マッキンゼーの調査によれば、ドイツ国内の世帯当たりエネルギー価格は現在、ヨーロッパ平均よりも48%高くなっています。同時に、ヨーロッパの電力価格は2005年から40%近くも高騰し、その一方で米国の電気料金は低下しています。そして、エネルギーを多く消費する企業は賦課金が免除されているにも関わらず、ドイツの産業用電力費用はEU平均よりも19%高くなっています。このためドイツは製造業にとって、ますます魅力的でなくなっています。ドイツの大手化学メーカーBASFが指摘しているように、製造業がドイツとヨーロッパにこれ以上投資することはないでしょう。

グリーン・エネルギーは、信頼性の高い電力供給に代わってドイツや日本の需要を満たすことはできません。陽が差さない時、風が吹かない時にはどうすれば良いというのでしょうか? それが、ドイツが依然として膨大な量の化石燃料を必要とする理由であり、また環境を汚染する褐炭の消費量が昨年には1990年以来最高レベルにまで上昇した理由の一つでもあります。それ故ドイツの二酸化炭素排出量は、再生エネルギーへの莫大な助成金にも関わらず、原子力発電の段階的廃止を決定した2011年以降上昇しているのです。

ドイツは、グリーン・エネルギーに関する失敗のショーケースです。効果も信頼性も低い太陽光パネルと風力タービンに何兆ユーロという助成金を注ぎ込み、そのせいで低所得世帯が電気料金を支払うのに苦労し、気候変動を防止するにはほとんど何の役にも立っていません。

それよりも、より効率的な次世代の再生エネルギーと蓄電技術、スマートグリッドを開発するための、グリーン技術の研究開発に投資を増やし集中することこそが今後進むべき道なのです。もしグリーン技術の価格を化石燃料の費用よりも安くできれば、誰もが再生エネルギーに切り替えるでしょう。

昨年11月、日本政府は、環境エネルギー技術の革新を目指して官民併せ5年間で1100億ドルを投資することをワルシャワで開催された国連気候変動会議で約束しました。ドイツの賢明でない手法とは対照的に、エネルギーの価格を下げて低所得層を助け経済活動を促すのと同時に、二酸化炭素排出量を削減することにつながるでしょう。

ドイツのエネルギーヴェンデは日本にとってのモデルにはなり得ません。日本がグリーン技術の研究開発に注力することが、地球温暖化問題を解決する方法を世界に示すことになるでしょう。

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