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【農業を時給換算すると500円台!?】宮崎発のスタートアップが目指す「次世代IT系農業」 何を変える?

農業・農家という1次産業にITとデータサイエンスを用いることで革新をもたらさんとするテラスマイル社。彼らはどのようにして業界にイノベーションを起こそうとしているのだろうか?
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IT×農業のドメインで宮崎を拠点に創業したテラスマイル。「データとテクノロジーを使って農家をプロの経営者にする」と語る代表の生駒氏とデータアナリストの三輪氏に話を伺った。

農業×ITで農業経営を変える

既存の業界・産業にテクノロジーを適応することで、イノベーションを図るスタートアップにフォーカスを当てる本企画。

今回お話を伺ったのは、農業・農家という1次産業にITとデータサイエンスを用いることで革新をもたらさんとするテラスマイル社。

2014年4月宮崎を拠点に創業したテラスマイルは、テクノロジー分野への知見と大規模農園の立ち上げ運営、そしてMBAというバックグラウンドを持つ生駒氏と、自身もみかん農家の経営を行ないながらデータサイエンティストとしても活躍する三輪氏を中心にしたチームだ。

「農家が経営を予測する」プロダクト《tera scope》の開発を進めている彼らは、農家の抱える課題をいかにテクノロジーを使って解決使用としているのか。日本IBM とサムライインキュベートによるインキュベーション・プログラム『IBM BlueHub』の第1期最優秀賞にも選ばれたテラスマイルが目指す未来に迫った。

九州・宮崎を拠点にしているワケ

― どうして宮崎を拠点に、農家にフォーカスを当てて起業しようと?

生駒:

私が4年前に宮崎へIターンすることになったきっかけが、大規模ミニトマト農園の立ち上げと運営だったんです。そこで初めて農業現場に身を置いたのですが、いろんな課題を身を持って感じまして。

それから農園の経営に携わりながらMBAの勉強などを始め、仲間を集めてテラスマイルを起業した形です。

― 農家や農業が抱える問題は様々なプレイヤー、レイヤー、レベルで語られます。テラスマイルが解決しようとする課題とは?

生駒:

農家自身の課題、本質的には農家が経営をあまり意識せずに生産を行なっていることです。私自身、農家の立ち上げと経営に身を置いていた立場として、ITを使って経営を予測できるようになれば、所得が増え、若手の参画や後継者問題も好転するはずだと。

テラスマイルは九州の農家、特に若手農業従事者にフォーカスを当てています。九州の農業は国内野菜出荷額の1/4を占めるほどの大きさを持っています。また、若手農家経営者をメインターゲットとしているのは農業就業者の生活をドラスティックに変えたいから。農業だけで飯を食う彼らの経営・所得から変えていきたいと。

三輪:

儲かるために仕事をする農家を作りたい。ただそれだけなんですよね。

農業経営者を作るということは、農家自身が経営を把握、予測し、稼ぐ場と時期を推測するということです。これまで農家は、言ってしまえば、「とにかく作って出す」を繰り返してきました。つまり、勘と経験を基に作物を作っても、市場に出して見ないといくらの収益になるのかわからないままだったんです。

― 作物を育てる投資フェーズでどれだけのリターン(収益)があるか、なかなか判断がつかない状況だったと。

三輪:

そうです。僕らのプロダクトでは市場と産地環境と財務の3指標を組み合わせたものを提示して、経営を最適化する意識を向上させます。

農作物の価格はJAなどのサプライチェーンを通せば、自ずと需要と供給のバランスで価格が決まります。ただ農家経営で難しいのは、前年度と今年度での価格変化、タイムラグがあること。これはいち農家が個別で対応するのはとても難しい。

そこで私たちは九州のJAや農業生産法人と協力してデータを収集分析したり、県内200以上の農家にヒアリングをして農家が経営を予測できるようにするベースを整えてきました。さらにIBMと協業し、最適な形のシナリオをダイナミックに分析し、「データが見えて行動を促す」サービスを生み出そうとしています。

左:生駒祐一氏 右:三輪典生氏

IT×農業のドメインでの勝算とは?

― 農家にテクノロジーを用いる試みは、様々な単位で行なわれていると思います。テラスマイルは何を強みにしているのでしょうか?

生駒:

コアメンバーの大半は農業のバックグラウンドがあるのが一つの強み。実はテラスマイルの専従者は私一人なんです。

CDOの三輪は地域で味に定評のあるみかん農家の経営者でありながら、アジア経済学・農業経済学を10年間大学院で学んだ統計・経済学プロフェッショナル、技術顧問は地元トップ農家や公認会計士、元農業技術指導員のメンバーがいます。福岡でリモート開発しているのは、東大で情報工学を学んだメンバーと、九大から農機メーカーに入り新規事業を立ち上げたメンバー。

各メンバーがフルコミットすることに縛られず、スキルや経験、働き方をお互い尊重しあっています。

そしてやはり現場を知っていると知っていないとでは大きな違いになると思います。単に「農業経営効率化ツールです、導入しましょう!」なんて言っても話を聞いてもらえないし使ってもらえないんですね。1次産業、農業はIT活用の中でも参入障壁が高い分野の一つではないでしょうか。いろんな法規制やルールがありますし、作物によっても特性が違う。人のつながりがものをいうこともあります。

とにかく現場との目線を合わせています。テラスマイルは1年以上かけ、アドバイザーとして県内の農業者の方々、JAの方々、行政の方々と密にコミュニケーションを取ってきました。

三輪:

お互いに信頼関係を構築していかないと、協力体制なんてできませんから。

集合知(データ)の活用、試行回数を激増させられるITの力を農業経営に

― 農業出身者が自身の抱える課題を解決することで、お互いに共感してリスペクトしあえると。

生駒:

いろんな方々とお話をしていて、課題の認識はみなさん持たれているんです。それをちゃんと改善、解決していかなければいけない。

宮崎でトマト栽培をずっとやっていらっしゃる農家の方が、「トマト農業を35年やってきた。一見プロに見えるかもしれないけど、作物って1年に1回しかできないから、35回しか作ったことがないんだ。」っておっしゃっていて。WEB・ITなど他業界だとPDCAサイクルの高速化は当たり前の話ですが、農家だとそれにも限界があるわけです。

つまり農業ってすごく属人的で、外的要因に左右されやすい不安定な業界。だからこそデータを集約し、整理することで経営、さらには農業事業者の所得に与えるインパクトは大きい。

九州の農業従事者の若手の中には、時給換算すると500円台、果樹園では300円台で一生懸命働いている人がいます。先ほどおっしゃっていただいたように、マクロ的にもミクロ的にも日本農業は様々な課題を抱えています。テラスマイルはまずは宮崎、九州の農業経営者をプロに、そして所得を増加すべく、彼らと一緒に試行錯誤しながらプロダクトを成長させて行きたいと思っています。そのために、ディープラーニング(人工知能)という技術を用いた研究もスタートする予定です。

― 農業というドメインならではのインパクトの大きさ、難しさ、やりがいなど、非常に貴重なお話でした。ありがとうございました!

[取材・文]松尾彰大

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