『ITビジネスの原理』、『ザ・プラットフォーム:IT企業はなぜ世界を変えるのか?』の著者としても知られる尾原和啓氏へのインタビュー前編。マッキンゼー・アンド・カンパニー、Google、楽天、リクルートを渡り歩くなど数々のプラットフォームビジネスに携わり、現在はFringe81の執行役員を務める彼のキャリアに迫りました。
【プロフィール】
Fringe81 執行役員
尾原和啓 Kazuhiro Obara
1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人口知能論講座修了。阪神・淡路大震災時の避難所ボランティアの経験から、仕組みやプラットフォームに強い興味を抱く。マッキンゼー・アンド・カンパニー、リクルート、Google、楽天などを経て現職。インドネシア・バリ島在住。
▽著書
「ITビジネスの原理」(NHK出版)
「ザ・プラットフォーム:IT企業はなぜ世界を変えるのか?」(PLANETS)
プラットフォームジャンキー
― 尾原さんが「プラットフォーム」に興味を持ったきっかけは?
神戸の震災が起こった時にボランティアセンターで体験した、ボランティアの方々や支援物資のマッチングです。
当時私は京都の大学院生だったのですが、バイク乗りだったので震災の翌日にボランティアとして現地に入ったんです。すると、ちょっとした違和感を感じたんですね。というのも全国から集まる支援物資やボランティアと助けを求めている方々のマッチングが上手くいっていなかった。そこで役所の方々などにヒアリングした結果、情報に偏りが存在していたことが問題だとわかりました。
そこで大小様々な情報を集約し、物資や人を割り振るセンターを立ち上げたところ、上手く回りだしたんです。そしてなにより多くの方に感謝され、仕組みやプラットフォームの魅力や面白さに取り憑かれました。
― 新卒でマッキンゼーに入社したのも「プラットフォーム」を意識して?
そうです。いろいろ調べてみると、小生意気な若造でも様々な業界のプラットフォームづくりに携われる可能性があるとわかりまして(笑)。そして幸いなことにiモードのプロジェクトに出会いました。戦略コンサルタントの立場のはずだったんですが、なぜか自分でiモードのデータベースのプロトコル設計をやったり、iモードの最初の立ち上げメニュー画面のHTMLを書いたりしてましたね(笑)。
― 尾原さんはもともとプログラマなんですか?
ええ。学生時代は大学に住みこんで人工知能だったり、ニューラル・ネットワーク、遺伝的アルゴリズムの研究をしていました。いまとても注目されている機械学習やディープラーニングって、個人的にはちょっと感慨深いです(笑)
情報をGIVEし続けろ!
― 現在12職目ということで、転職が当たり前になった今の時代でも、かなり目を引く数字です。転職に関する考え方を伺えますか?
プロジェクト単位で請負うことを基本にしています。仕事の節目で転職を考えるのが当たり前になっています。
私自身で決めていることは、「辞めたあともギブし続ける」ということ。こんなネタあるよとか、ちょっとこの人と会うと面白いよとか。どんな人にとっても「便利で面白いやつ」でいつづけるわけです。するとこれまで苦楽を共にした会社とは、相変わらず仲良くさせて頂けるようになりました。
― 自分がもっている情報は、なかなか外に出したくないと思う方もいますよね。
情報社会・インターネットが普及した現代では、情報を流通させたほうが得なんです。損することなんてありません。なぜなら、情報や人の縁は減るものではないから。逆に情報を与えることでフィードバックを得て、自分のインプットも増えるし自分が気づかなかった情報の価値にも気づける可能性だってある。
つまり、自己中心的利他のような考え方なのでしょうか。情報を提供すればするほど、自分に情報が集まってくる。
そもそもネットの本質は「シェア」だと思います。WEB・IT業界の方なら、エンジニアが自主的にOSSなどのコミュニティプロジェクトに貢献する価値観は、違和感なく受け止められますよね。それと同じことです。
強みに快感を感じ、弱みは他者に補完してもらう
尾原氏は4月からバリ島に移住。iPadとロボットが合体したリモートマシンを活用し、Fringe81のメンバーとコミュニケーションをとっているという。
― 尾原さんは12職種目でありながら、これまで起業されてませんよね。経験されてきたことからすると、何かゼロから事業を立ち上げたくなってもおかしくない気が。
ゼロから何かを生み出そうとも思わないですし、向いてないと思います。私が何に快感を覚えるのか?というと、0.1のものを10とか100にすること。私は自分のことを『インタプリタ』だと思っているんです。
例えば、友人の話をきいて、「つまりこういうことだよね」と彼らの考えていることを簡潔にまとめてあげる。すると「あ、そうなんだよ!」って一気に化学反応が起きる、そんな瞬間が大好きなんです。それが自分の強みだと思っています。何より変化が激しい時代には、とにかく自分の強みを伸ばして発揮することがキーになるのではないでしょうか。
― 能力開発の文脈でいくと「弱みを埋める」という考え方もありますよね。
自分の弱みを自分で補完するのではなく、補完してくれる人間見つければいいんじゃないかと思います。「違う人は皆、先生」という私の好きな言葉があります。スティーブ・ジョブズがジョブズでいられたのは、ウォズ(スティーブ・ウォズニアック)がいたからだと思うんです。そういうコンプリメンタルパートナーを見つけることが、比較的簡単になっている時代だからこそ、弱みを自分で埋めるより、強みを伸ばして発揮して、誰かの弱みを補完する存在に自分がなればいいんじゃないですかね。
[取材・文]松尾彰大
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