人工知能が既存のビジネスを破壊しはじめた

人工知能(AI)とチャットボットが、レガシーなビジネスで使うアイデアのヒントとなれば幸いだ。

私は東京にベースを置き、サンフランシスコ、ベルリンを拠点にヘッドハンティング業を主軸としてビジネスをおこなっているが、全て人力で行っているのが現状である。クライアントのビジネスの生産性を上げられるような人材を紹介することが私のミッションだが、人工知能や心理学を使ったテクノロジーによってそれを加速させていくことができると思っている。

第1弾として、自社で実際のビジネスに使うための「チャットボット」を開発し、このたびリリースした。チャットボットはシリコンバレーでいま最も注目を集めるベンチャー育成プログラム、Yコンビネーターでも多数の起業家が取り組んでいるテーマでもある。日本の皆さんにも一足お先に<チャットボットのノウハウ>をご披露しよう。

人工知能(AI)とチャットボットが、レガシーなビジネスで使うアイデアのヒントとなれば幸いだ。

チャットボットとはなにか?

チャットボットとは、ひと言でいえばAIを積んだコンピューターが擬人的に会話を行うものだ。例えば、Amazonで何かを注文するときには、Amazonのホームページの注文ボタンを押して、住所を入力して・・・ユーザーが"Amazonの決まりごと"に合わせて記入・送信、とするのが普通だ。一方チャットボットではLINEやFacebookなどのチャット上で、"ふつうの言葉"でAIに話しかけることで、AI側がユーザー側の言語でそれを理解して処理を行う、というものである。

日本では、ドミノピザがLINEのチャットボットで注文を受け付けていることが有名かもしれない。

ヘッドハンターがAIを導入したら?

AIは現在のところ完璧な機能ではない。問題は、コンピューター一般にいえることだが、限られた目的の範囲においてのみ使えるという特徴にある。要するに、いままで人が行っていたことをそのままAIに乗せかえることは、今のところ難しいため、サービスを適用する範囲の絞り込みが重要である。

私はこのチャットボットを私のビジネス、人材紹介業で使えないだろうか?と考えてみることにした。その限られた目的として、事務調整的な仕事である"面接のスケジュール調整"から取り組むことにした。

実は、紹介先の企業の面接官と転職希望者の面談をセットするためにはかなりの時間がかかっている。二者をつなぐやり取りが何度も発生するため、ヘッドハンターは1件の面接あたり合計で30分程度の時間を費やしている。会社全体で1ヶ月あたり3000件程度の面接のセッティングを行っている。

これを全てチャットボットに置き換えられれば、1500時間の削減となる。

日程調整に要するコストがゼロに

私たちの開発したチャットボットは、紹介先の企業の面接官(または採用候補者)の都合を聞く。それが入力されたらすぐに、調整相手のもとに調整の打診が届く。面接日時の変更のオファーもこなせる。LINEでいつでも気軽に一瞬でスケジュール調整ができてしまう。

いちいちメールで「Wahl and Case CEO Casey様 いつもお世話になっております・・・」と、おきまりの面倒な文言を書くこともなく、返信を忘れることもないし、現職の方であれば会社内にいてヘッドハンターからの電話に出られない、ということも避けられる。

人為的な調整ミスもなくなるし、もし仮に問題が起きたとしても今まで通りのスタイルに一時的に戻せばいい。

例えば、チャットボットと人間が仕事を分担し、候補者の内定率を上げる

もちろん日程調整だけではない。「⚪︎⚪︎株式会社の面接にはスーツを着用しないでください」といった、企業に合わせたTipsをチャットボットが面接の前に候補者に送る、面接する予定の企業の最新のプレスリリースを送信する、面接の前日にリマインダーを送る、といった機能もある。

これらは、内定率を上げるためにも行った方が良いことではあったが、忙しすぎるヘッドハンターにとってはなかなか着手できていなかったことだ。これらのことが全て自動で行われることで、ある意味チャットボットは人間以上に仕事ができるようになる。

では、全てのヘッドハンターの仕事がチャットボットに置き換えられるか、というとそうではない。現在勤めている会社での不満を聞き出したり、真に求めているものが何かを会話の中から探りだしたり、面接後にどのような不安があるのかを聞いたり、感情に関わることは、人間の方が得意だ。チャットボットと人間が仕事を分担することで、ヘッドハンターは真に重要な仕事にもっと多くの時間を使えるようになる。顧客へのサービス向上に時間を使えるということだ。

将来的には、面接での基本的な質問、面接後のフォローアップ、過去の他の候補者からのフィードバックをチャットボットに組み込むことも考えている。

もう勘のいい方ならおわかりかと思うが、チャットボットの実現だけでも、従来のビジネスのあり方を大きく変えるのに十分なインパクトがある。「今まで手をつけられていなかった、重要なことに手をつける」という仕事のごくごく基本は、極めて強力な破壊力をもつ。

開発における問題点

一方、開発における問題のひとつには、日本に話を絞れば、AIを使いこなせる科学者・エンジニアが少ないということがある。そこで私の場合は海外での開発に頼ることにした。

数学オリンピックで入賞したメンバーを含む、ベトナムのトップ・チームと組むことができた。彼らはなんと、たったの2週間でプロトタイプを作り上げてきたから、驚いた。

実はこれには裏話がある。ベトナムのチームを率いているのは、私の著作『未来をつくる起業家』でインタビューをさせてもらった、平野未来さんなのだ。ベトナムのチームとの間に入って、プロジェクトを動かすマネジャーの存在は欠かせない。

日本語化の予定

現在のところ、このチャットボットは英語版のみのリリースとなるが、2017年初頭には日本語への移植を行う予定だ。平野さんがいうには、「英語と日本語では言語特性が異なるためそのまま移行することは難しいが、カスタマイズによって実現可能だ」とのこと。

ほかにも、たくさんの盛り込みたいアイデアがある。私たちのAIが育っていくのが楽しみでたまらない。

<関連情報>

ウォールアンドケース http://www.wahlandcase.com/jp/

注目記事