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2016年04月19日 08時09分 JST | 更新 2017年04月14日 14時12分 JST

サイボウズ式:それでも結婚し、子どもを持つ意義はどこにある?──山本一郎×川崎貴子

育児や介護など様々な困難や悩みが生じる中でも、今の日本で結婚し、子どもを持ち育てることの意義や意味はいったいどこにあるのか?

山本一郎さんと川崎貴子さんのお二人が、サイボウズのワークスタイルドラマ「声」を観て、子育てや家庭を巡る環境について語る対談の後編をお届けします。前編で、今の日本では極めて「きわどい」家庭が増えているという認識で一致した両者。

後編ではそのきわどさをどのように乗り越え、家族を再生するべきなのかということに話を進めていきます。そして、育児や介護など様々な困難や悩みが生じる中でも、今の日本で結婚し、子どもを持ち育てることの意義や意味はいったいどこにあるのか? お二人と一緒に考えてみましょう。

社長と副社長が無視しあっている会社って、普通に考えてヤバい

川崎:ドラマでは、夫の言い分妻の言い分のズレも印象的でした。「たまには休めば?」という夫に、妻が「じゃあ誰が家事をやるのよ」と返すとか。ああいうのって、どうやって乗り越えればいいんですかね?

山本:とにかく無理にでも時間をつくって話し合うしかない。相手をわかろうとする気持ちを前面に出さないと。コミュニケーションを取ることを意識的にやっていないと、夫婦なんていとも簡単に破綻します。

川崎:私もかなり意識的に夫婦の対話の時間をつくっていて、毎晩、対面で話すようにしています。私の場合、前の夫とはベンチャー経営者同士だったので、ある意味、お互いのことをツーカーで理解できたんです。だからこそ逆に、「お互い忙しいのはわかっているでしょ」ということで、どんどん会話がなくなっていき、いつの間にかものすごい距離ができていた。

山本:ああ、なるほど。

川崎:ところが今の夫は、ダンサーで、これまで組織に所属したこともなく、しかも8歳も年下。私にとっては宇宙人みたいな人で、これはしゃべらないとマズいことになると(笑)

山本:全く違う世界の人だから逆によかったんですね。

川崎:ドラマではオダギリジョーさんが離婚への後悔を後輩の田中圭さんに話していましたけど、だいたいの男の人って、自分の悩みやプライベートの恥を人に話さないじゃないですか? 弱いところを素直に見せたり、相談したりするスキルが上がると、奥さんとももう少し意思疎通ができると思います。

山本:夫婦間でちゃんと相手に伝えるべきことを伝えていない、本音を言わない人間関係になってきてしまっているんじゃないかと思うんですよね。

「今私は何がつらくて、どうしたいと思っていて、どうすれば解決できそうか」ということを言わずに、自分が我慢すれば済むと思ってしまっている。それはマイナスの話だけではありません。「ありがとう」とか「愛している」というプラスの感情も伝えていかないと夫婦の情愛は成り立たないでしょう?

「ただいま」「いってらっしゃい」だけではなくて、「今日どうだった?」とか「大変だったね」みたいに相手に共感して、良いことも悪いこともきちんと伝えられないと、家庭は崩壊してしまう。

川崎:男の人は、共感の基礎力が不足しているし、一方で、女の人は「どうせ言ってもわからないでしょ」とコミュニケーションそのものを諦めてしまいがちです。

山本:私もたまに「俺だって働いてるんだよ!」って言いたくなって言ってしまう時があるんですけれどね。そうすると家内に「私の方が働いてる」と言われて「そうですよね...大変申し訳ございません」となったりして(笑)

男女とも、うまく相手に自分の感じていることを伝える場をつくることを軽視している気がしますね。言って嫌がられることもあるでしょうが、「うちでは何が問題になっているのか」を定期的に棚卸しする必要があります。

川崎:社長と副社長が無視しあっている会社って、普通に考えてヤバいじゃないですか? 結局、それによってステークホルダーに迷惑をかけることになる。家庭の中での一番のステークホルダーは子どもです。

山本:先ほども言いましたが、子どもは親を選ぶことができませんからね。迷惑をかけてはいけません。

ただまあ、ドラマに出てくる夫婦は、会話をする時間をつくりさえすれば復旧可能なレベルだと思いますよ。奥さんが、家族の写真を部屋に飾っていたじゃないですか? ああいう気持ちがあるならまだ大丈夫。本当に破綻する家庭だと、奥さんが育児放棄を始めますから。

介護は死んでいく人のために、自分が折り合いをつけるためのもの

山本:家庭がクライシスを迎えるきっかけって、大きく3つあると思うんです。1つは出産・育児。2つ目はドラマの中で奥さんが「頭が痛い」となるような、夫婦どちらかの健康。そして3つ目は、親の介護です。これは夫婦ではどうにもできない。

ドラマに出てくるあの家庭で、夫婦どちらかの親に介護が必要になったから一緒に暮らさなくてはならない、なんてなったら大変ですよ。

川崎:そうなんですよね。私は女性活用のコンサルでいろいろな企業に入っていますが、介護の問題が入ってくると、女性だけではなく、男女ともに当事者になり、さらに問題が大きくなります。

山本:先日、私の部下が破産したんですが、その理由も親の介護でした。夫婦間の諍いは最悪、離婚すればいいかもしれませんが、介護は、親を見捨ててどこかに放り投げるわけにもいかない。介護認定のレベルは低いけど、本当はもっと症状が重い、みたいになると、仕事なんか続けていけません。あれは悲惨ですよ。

山本一郎さん。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる。統計処理を用いた投資システム構築や社会調査を専門とし、株式会社データビークル取締役、東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員、東北楽天ゴールデンイーグルス育成・故障データアドバイザーなど現任。統計分析や数理モデルを用いた未来予測、効果分析を専門とする。東京大学と慶應義塾大学とで組成される「政策シンクネット」の高齢社会研究プロジェクト「首都圏2030」の研究マネージメントを行うなど、社会保障問題や投票行動分析に取り組む。『ネットビジネスの終わり』 (Voice select)、『情報革命バブルの崩壊 』(文春新書)など著書多数

川崎:本当にそうですね。

山本:育児って、これからの人に対する投資でもあるじゃないですか? 子どものために全力で時間を使うことについては、将来的に回収のメドがある。でも介護って、言い方は悪いですが、死んでいく人のために自分が折り合いをつけるための仕事。バランスを取るのが難しい。

川崎:育児より生産的でなく、しかも判断が重いですよね。

山本:「出産・育児」「夫婦どちらかの健康」「親の介護」。この3つのいずれかでひっかかると、キャリアをあきらめざるを得なくなります。

企業はそれをどうカバーしていくか考えなくてはならない。ただ、企業は利益を出すための存在だから、働けなくなった人のために満額お金を出すのって、相当チャレンジングなことです。理想はさておき。

川崎:難しいですね。

山本:フランスの社会保障政策で「シラク3原則」というものがあります。3原則の1つで、「女性が育児休暇から職場復帰する際、育児休暇中もずっと勤務していたものとみなし、同じポジションで雇わなくてならない」とされている。

川崎:そうですね。

山本:これは働く女性の社会進出・少子化対策からすると素晴らしい仕組みなんだけれども、一方でそれによってフランス社会の競争力はマイナスになっていて、そのバランスをどうするんだと議論されています。

一方で日本では、3世帯住宅で2つ目のトイレを増設したら助成金を出しましょうとか、そんな議論をしているんです。もちろんそういう政策ニーズがあるから対策課題が出ているのでしょうが、育児や介護で問題になっている内容と比べてレベルが違いすぎねえか? と。

川崎:確かに(笑)

川崎貴子さん。1972年生まれ。埼玉県出身。1997年に働く女性をサポートするための人材コンサルティング会社(株)ジョヤンテを設立。女性に特化した人材紹介業、教育事業、女性活用コンサルティング事業を展開。女性誌での執筆活動や講演多数。著書に『結婚したい女子のための ハンティング・レッスン』(総合法令出版)、『私たちが仕事を辞めてはいけない57の理由』(大和書房)、『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』(KKベストセラーズ)、『上司の頭はまる見え。』(サンマーク出版)がある。2014年より株式会社ninoya取締役を兼任し、ブログ「酒と泪と女と女」を執筆。婚活結社「魔女のサバト」主宰。女性の裏と表を知り尽くし、フォローしてきた女性は2万人以上。「女性マネージメントのプロ」「黒魔女」の異名を取る。10歳と3歳の娘を持つワーキングマザーでもある

山本:少子高齢化などの問題について、漠然とは語られているけれども、それに対して実際にどういうことが行われているのか議論されていない。国や企業は、一歩踏み出すために家庭をどうバックアップしていくのかを、より具体的に考えないと。

「保育園が足りない」「入れない家庭がある」ので予算を増やそうにも、その予算を増やすということは、別の何かの予算を削らなければならない。公務員の人件費や、軍事費を削ってもたいした額になりませんから、高齢者福祉を何兆円か削りますか?

一方で、個人のレベルでも、こういうドラマを見たら、単に「ですよね〜」って共感するというより、私なんかは「やばい、家内が何かで倒れたらどうしよう」って真っ先に思ってしまいます。

カネでどうにかなる部分なんて、所詮は全体の一部でしかないんですよ。教訓を引き出して、どうやって自分たちの生活をあるべき姿にしていくか考えることが大事だと思います。

川崎:夫婦単位で変えていけることもたくさんありますしね。

子育てのつらさは一時期、借金してでも使えるものはなんでも使う

川崎:ドラマを見て、登場人物たちが悩んでいる姿を目の当たりにすると、正直、「これなら独身のほうが楽じゃん」と思う人もいると思います。実際、私も、「それでもなぜ結婚して子どもを持つのがいいんでしょうか?」という質問をしょっちゅうされるんです。

山本さんはその問いにどう答えますか?

山本:子どもについては、どうしても欲しかったからとしか言いようがないですね(笑)。結婚についても、じゃあ独身のほうがいいかというと、そちらのほうがリスクが大きいのではないかと。

川崎:どうしてでしょう?

山本:うちの会社でも、50歳過ぎても独身という社員は結構いるんですよ。当然、ギャラも上がらない年齢に差し掛かっていて、無理もきかないから繁忙期でもない限り定時で帰らせるんですが。そこで、背中を丸めてトボトボと帰っていく姿を見ると、正直、「何のために生きているんだろ」と思ってしまうんです。

若いころは、気楽な独身生活で良かったのかもしれない。また、価値観として、結婚はしたくない、子どももいらないというポリシーだったのかもしれない。でも、もう取り返しのつかなくなった年齢になってから、打ち合わせに同行してもらったときの喫茶店なんかでボソッと「やっぱり子ども欲しかったなあ」とか言うんですよ。そりゃ悩まれればどうにかしてやりたいけど、今になって言われても知らねえよ、と思ってしまう。

川崎:う〜ん。

山本:電車に乗って、誰も待っていない家に帰る。もうすでに親も亡くなっていたりする。そうすると、「彼は誰のために生きているのか?」という疑問が湧いてくるんです。

せっかく社員なりでご一緒しているのだから、仕事が続く限り、彼らと最後まで一緒に何かに取り組みたい。個人・彼ら自身のためというのはあるけど、会社のため、社会のために何かに取り組んでいってほしいと思います。

でも、ひとつの人生としてみた時、根源的なところを喪失したまま、ただギャラをもらって日々生活しているだけになってしまう。あれは大丈夫なのかな? と。

川崎:子どもができてしまうと、1人でゲームをやっているほうが気楽で楽しいとか、そういう考えは全くなくなりますよね。別に子どもが助けてくれるわけではないけど、自分の中で、子どもが精神的なセーフティネットになってくれる。

山本:損得勘定じゃないんですよね。損得とか気楽かとかで判断すると、そりゃあ独身でゲームをやっていたほうが幸せそうに見えるかもしれないけれども、そういうことじゃない。"年相応の幸せ"というのも、確実にあると思う。

川崎:それは確かにありますよね。

山本:親から「孫も抱かせねえのか」と言われたりとか、いろいろプレッシャーのある中で、それでも独身を貫いてよかった、となるかというと、そうでもない。少なくとも自分の身の回りを見ると、30歳ぐらいでモテモテを気取っていた奴が、40歳過ぎてもふさわしい相手が見つからなくて七転八倒してジタバタしているのを見ると、気の毒を通り越してもの悲しくなってきます。

もちろん、相談されると「一人の人生の選択だから、あなたの判断を尊重します」とは言いつつも、独り身の上司が、子どもを抱えているので仕事を手早く済ませて帰ろうとする女性社員の評価を低くつけているのを見ると、私の血圧が上がるわけですよ。建前にも限界があるだろう、と。

自分たちは子どもは嫌いだからつくらないと言っていた人から、45、6歳になった後で「やっぱりいたほうがよかったかな」と打ち明けられても、「いやいや、もう遅いですよ、夫婦2人きりの生活をエンジョイしたんでしょ? その代わりに子どもがいないんですよね? それは取り返しがつかないんだから」としか言いようがないんです。結局、その夫婦の場合、旦那の側がトライアスロンに逃げて、愛情が冷めたのか不倫をして家庭が壊れていましたけど、いい加減にしろよと思うわけですね。

川崎:今の若い女性は、専業主婦になりたいという人が多いんです。最初から専業主婦狙いで婚活していたりします。

山本:ああ、いますよね。

川崎:確かにあのドラマを見ると、専業主婦のほうが楽に思えるかもしれない。子どもとも仲良くやれそうだし。だけど私は、専業主婦になるのはそれはそれで大きなリスクなんだよと言い続けているんです。

山本:そうですよね。女性に人生の選択肢がなくなってしまいます。

川崎:子育てには、確かにツラい時期もあります。でもそれは人生の一時期なんだよ、と言いたい。

女性が再就職しようとしても、ブランクが空けば空くほど非正規の仕事しか見つからなくなるし、生涯年収でもものすごく大きな差が出てくる。女性は仕事のブランクがあればどんどん非正規になるし、正規を手放すと、生涯年収で2億4千万円もの損失になるというデータもあります。

そうすると、仮に離婚したり、旦那さんに先立たれたりして、子供を1人で育てなくてなくてはならなくなった際に、子どもにきちんとした教育を受けさせられず、可能性を摘むことになってしまう。

山本:そのとおりですね。ドラマに出てくる夫婦も、あと数年たてば一番苦しい時期は乗り越えられるんでしょうから。

川崎:だから、そこはぐっとこらえて、使えるものは何でも使って乗り切るんだよと。極端な話、一時期は借金をしてでもベビーシッターを雇ってもいいと思うんです。うちも長女が0歳~2歳までは、ベビーシッター代で私の給料は右から左に消えていました。

山本:凄い!

川崎:それと、週に1日は子どもを誰かに見てもらって必ず休むとか、決まり事をつくるのも大事。私も会食は週に2回までと決めて、それからはずいぶん楽になりました。

山本:一方で、特に経営者の場合、自分で決めないと仕事に際限がないですからね。私も、あれだけ吸っていたタバコをやめ、毎日飲んだ酒も三分の一になって、子どもを寝かせてから夜や朝に働くスタイルになってむしろ生産性が上がりましたし。

何しろ、会食って、刺激にこそなれ意外と仕事につながらないんですよね...。

川崎:確かに(笑)

山本:話は尽きませんが、今日はこのあたりで。ありがとうございました!

川崎:こちらこそとても有意義な時間でした。ありがとうございました!

「働くパパ」に焦点をあてたワークスタイルドラマ「声」。主人公は、東京の会社でエンジニアとして働く片岡(田中圭さん)。妻・亜紀子(山田キヌヲさん)との気持ちのすれ違いや、親の看病のために会社を辞めて帰郷した先輩・森嶋(オダギリジョーさん)とのやりとりを通し、いま、共働きで子育てする夫婦を取り巻く環境や困難をリアルに描く

文:荒濱一/写真:谷川真紀子/編集:小原弓佳

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本記事は、2016年3月23日のサイボウズ式掲載記事それでも結婚し、子どもを持つ意義はどこにある?──山本一郎×川崎貴子より転載しました。