普段、納得のいかないことがあっても、つい「カイシャの言うことを聞かないといけない」と思ってしまいがち。でも、そもそも「カイシャ」って何なのだろう。私たちは、カイシャとどう向き合えば、幸せに働くことができるのだろう。
サイボウズ代表取締役社長の青野慶久が3月1日に出版した『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)。この出版を記念し、サイボウズ本社で2月13日、本書のテーマである「カイシャ」についてのディスカッションイベントを開催しました。
僕らはカイシャとの付き合い方を間違えているのかもしれない
野村:本日はみなさんと一緒に、新しいカイシャの概念を考えていきたいと思います。ファシリテーターの野村です。よろしくお願いします。
野村:青野さんは今回「カイシャ」というテーマで本を出版するんですよね。
青野:そうです。今回この本を書きたいと思ったきっかけのひとつに、サイボウズの副社長であり、サイボウズUS社長でもある山田理(おさむ)がよく話す言葉があります。
何か意思決定をしようとするとき、つい「会社のためになる」とか「会社にとって」という表現をしてしまうけど、「会社さんはおらへんねん」と彼は言うんです。
野村:私たちは無意識に会社を擬人化して、人格を持たせてしまっていると。
青野:はい。たとえば、このオフィスは「サイボウズ」じゃないし、当然「サイボウズ」という人もいない。サイボウズという会社はあくまで法人であって、バーチャルな存在なんです。
青野:会社って、人が楽しく効率よく働いていくための仕組みとして生まれたはず。それなのに、幸せになるどころか会社のために死ぬ人までいる。これはおかしい。
それを考えるきっかけになればと思ったのが出版の原点です。この場でも「新しいカイシャ」について、いろいろな意見を交わせればと思います。
突き詰めれば家事と仕事の両立も「複業」
野村:今回のテーマのひとつが「フクギョウ」です。サイボウズでは「副業」ではなく「複業」を使っているんですよね。
青野:はい。サブという意味ではなく、パラレルキャリアを持つという意味も込めています。正直、最初は「複業を許可したら会社へのコミット度が下がるのでは」と思っていました。
ただ、よくよく考えてみると、私も家事育児を家でやっていますし、広い意味では実はみんな複業をしているぞ、と気づいたんですね。
野村:特別なことではなく、誰もがしているものだと。
青野:「何のために制限しているんだろう」と思って、解禁してみた。そうしたら、おもしろい。いろんな人がいろんな場所で活動するから、そこで新しいノウハウを身につけてくるんですよ。
野村:プラスに働いたんですね。
青野:たとえば、今日会場に来ている中には、サイボウズで営業をしながらユーチューバーとして活動している社員がいます。
営業マンでありながら、動画マーケティングの知識も身につけているのはとてもおもしろい。
野村:事前にお話を聞いたところ、今回の参加者の方々の中にも複業をしている方も多いようですね。
複業を始めて、体調を崩すのが心配
参加者:私の会社にはダブルジョブという制度があり、複業することができます。ただ、どうしてもみんな体調を崩してしまうなど、好きなことをやっているはずなのにうまく回せていない人が少なくありません。
私も何か始めたいと思っていても、周りのそういう人たちを見ていると、踏み出せないなと思ってしまいます。
野村:なるほど、複業で体調を崩してしまう場合もある、と。青野さんは、その点についてどう考えていますか?
青野:これは難しいですよね。両方とも真剣にやりたいから燃え尽きちゃう。複業に起こりやすい問題です。
せめて片方の仕事は、自営業のようにコントロールできる状態にしたいですね。両方とも与えられる仕事だと、パンクするリスクがあります。
仕事量を自分で調整できるようにするのは、ひとつの解決策ではないでしょうか。
カイシャの風土を変えるのは可能?
参加者:私の会社でも、複業自体は制度として許されています。でも、風土としては、複業が浮気扱いされるような雰囲気です。これをどうにか改善したいと思っていて。
会社がモンスターだとすると、風土というのはそのモンスターの性格なのでしょうか? それはどうすれば変えられるんでしょう。
青野:「カイシャの性格」って言ってしまうけれど、「カイシャさん」はいないので、結局その風土を作っているのは、実在する誰かの性格なんですよね。
たとえば、それは上司の性格かもしれない。だから、その上司が変われば風土も変わるかも。僕たちが戦う相手はもやもやしたバーチャルモンスターではなく、しょせん同じ人間です。そういう見方をすれば、新しい戦い方を考えられるかもしれません。
「伏業」が一番カイシャにとって損である
参加者:もう時効かな、と思って話してしまいますが、実は10年前、制度としては禁止されていたのですが、会社に隠れてこっそりパン屋で複業をしていたときがありました。...そしていまの旦那は、そのときに出会った人です。
(会場盛り上がる)
そのときの経験はいまの考え方にも生かされています。だからこそ「複業を推進したい」と思っていますが、会社の組織や規模が大きいと、誰をどう味方につければいいのかがわからなくて悩んでいます。
青野:フクギョウのなかでも、潜伏の「伏業」の状態だったんですね。
これが一番会社にとってフィードバックが返ってこない。せっかく社員が持っているスイーツ業界のリアルな情報を組織は知ることができないんだから、お互いにとって不幸な形です。
野村:とてももったいないですよね。社内で複業を推進するには、具体的にはどう解決したらいいと思いますか?
青野:いろいろな戦い方があると思います。仲間と組んで風土を変えるための努力をしてみてもいい。自分の人生は一度きりですから、別の場所を見つけるというのもまたひとつの方法だと思います。
野村:思い切って辞めてしまおう、と。
青野:いつでも辞める覚悟があれば、人は強くなれるんです。「いざとなれば辞めればいいや」と覚悟ができたら「会社に居づらくなったらどうしよう」とは思わないでしょう。
上司を動かそうとしたとき、そう考えている人のほうが話を通しやすいと思いますよ。「こいつは話をちゃんと聞かなければ間違いなく辞めるな。本気だな」と。
「副業」や「複業」だけではなく、「伏業」という言葉まで飛び出した前半戦。
好きなことをやっていても燃え尽きて体調を崩してしまったり、制度があっても風土がそれを許さなかったり、一口に「フクギョウ」といってもさまざまな課題がありそうです。
後半では、そんな「フクギョウ」というひとつの働き方から、さらにその先の「理想のカイシャ」のあり方について考えてみました。私たちは、どうすれば幸せに働くことができるのだろう?
文:園田菜々 編集:柳下桃子、椋田亜砂美、松尾奈々絵(ノオト) 写真:栃久保誠
今回のイベントの元となった書籍『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』の一部をこちらで無料でお読みいただけます。