マルディロ、エアチェック、カセットレーベル・・・ 19年ぶりに『FMレコパル』が復刊

『FMレコパル』(以下 レコパル)が19年ぶりに復刊した。11月13日に発売されてから、Twitterなどネット上での反響も大きく、早々に品切れした書店もあるようだ。

『FMレコパル』(以下 レコパル)が19年ぶりに復刊した。11月13日に発売されてから、Twitterなどネット上での反響も大きく、早々に品切れした書店もあるようだ。

・FMレコパル買いにいくの忘れてた (-_-;) しまった、売り切れとかないよなー。明日、忘れずに買う!

・ところで、物凄く懐かしい本をGET!1号限定の復活!若き日に買いまくってました!

・品切れしていました『FMレコパル2014』再入荷しました。レコパル創刊40周年の1号限定復刊です。おやめにどうぞ。

レコパルは、FM放送番組やオーディオの情報をあつかう"FM情報誌"で、74年に創刊し、当時の音楽好きな若者から絶大な支持を集めた雑誌だ。今回は創刊40周年ということで、当時のままB5判にて1号限りの復刊となった。その舞台裏を、編集長の宮澤明洋さんにお話をうかがった。

小学館 ライフスタイル誌編集局 宮澤明洋さん

Q:宮澤さんとレコパルのつながりを教えてください。

宮澤氏:私は89年に小学館に入社して、その年から95年までレコパル編集部にいました。そのあとは「ポタ」という大人のためのエリアマガジンを作ったり、ビジネスマンのためのトレンド誌「DIME」の編集長を務めたりしましたが、今回はレコパル復刊号の編集長を務めることになりました。私自身、中学生のころからレコパル読者で、当時はみんな、なにかしらのFM情報誌を読んでいましたね。

Q:復刊号の編集方針は?

宮澤氏:復刊にあたり、編集方針は2つしかありませんでした。1つは74年当時のレコパルの懐かしさをどうやって出すのかということ。そしてもう1つは、昔の中古本を手に入れるのとは違う、今どきの新しさをどうやって出すのかということをメインに据えて考えました。

Q:当時の読者に向けて発信される上で、大事にされたことは?

宮澤氏:心の中のキーワードをどうやってくすぐるか、ですね。「マルディロ」、「エアチェック」、「カセットレーベル」など、今の若者はおそらく聞いたこともないだろうキーワードが、当時の読者の心の中に眠ったままになっているんですよね。

80年代の情報は、例えば音楽の場合で言うとMTVのように、映像として残っていることも多いので、何かの機会にテレビやYoutubeでそれらを目にすれば「あー、これ懐かしいよね」と他の人と話題を共通化することができます。でも70年代の情報は、雑誌やラジオにこそ「共通体験」がある場合も多いので、テレビのようなマスの形で目にする機会が少なく、普通の生活の中で話しているだけではなかなか話題にすらならないことも多いのです。

そんなこともあってレコパル復刊号では冒頭に「オーディオあるある」というページを作って、あえて当時レコパルを読んでいた人にしかわからないようなキーワードを紹介しています。

たとえば「10円玉と聞くとスピーカーを思い出す」という「あるある」ですが、若い人やオーディオ体験がない人がこれを見てもピンとこないと思います。実はこれ、普段は本棚や台の上にそのまま設置されているスピーカーの下に10円玉を敷いて、3点とか4点とかで支えてあげると、スピーカーと台との接地面積が少なくなるので、スピーカー自体がよく鳴るようになるというちょっとした工夫なんです。当時のオーディオはまだアナログが主流だったので、こんなことだけでも音が変わっていろいろ遊べましたし、実際にこれをやったことがある人も多いのではないかと思います。こうした何十年も話題にのぼらなかったものきっかけに、「この本は自分たちのために作られているんだな」と感じてもらえればと考えたのです。

Q:復刊にあたり苦労された点は?

宮澤氏:70年代っていろいろなものがデジタル化されておらず、アーカイブも少ないんですね。当時のオーディオ製品を紹介したかったのでメーカーに資料を取り寄せましたが、残っていないんですよ。紙焼き写真もポジフィルムもなく、カタログすら残っていないという状況も結構あり、紹介できなかったものが多々ありました。

こうした状況はFMの音源も同じようで、当時の番組のマスターテープなどもFM放送局には意外と残っていないそうです。それを逆手にとって、リスナーの人がエアチェックしたテープなどをインターネットで募集して番組を再現するという企画が成立してしまうくらいですから。

今はインターネットが当たり前の世の中ですが、70年代の写真や音源はまだまだインターネット上にも少ない。そういう意味では、復刊号を作るのは大変でしたが、だからこの時代はおもしろい、とも思いました。

Q.復刊号の読みどころを教えてください。

宮澤氏:レコパルの特徴のひとつにコミックがありました。

レコパルはもともとコミック雑誌である少年サンデーの増刊から始まっているので、小学館が一緒にお仕事させていただいていた作家の先生方に、アーティストのエピソードやアルバムについて、「ライブコミック」というものを描いてもらっていたんです。手塚治虫先生がレナード・バーンスタインのことを描いたり、松本零士先生がフルトヴェングラーのことを描いたり、石ノ森 章太郎先生がマイルス・デイビスのことを描いたり、今で考えるとすごいビッグネームの先生方に執筆いただいていました。自分も含め、当時の読者は、このコミックがきっかけになって様々な音楽の世界にのめりこんでいったのです。

当時の作品を再掲載するのはなかなか難しいのですが、復刊号では黒鉄ヒロシ先生に特別に許諾をいただき、ベートーベンの「ライブコミック」を掲載しています。「ライブコミック」とはどういうものだったか、あらためて見ていただくことができます。

また、兄弟誌である「サウンドレコパル」に掲載されていた「オーディオ情熱コミック」を当時のまま蝦名いくお先生に作画をいただき、三菱電機「REAL 4K」の開発秘話を描いています。兄弟誌の連載を掲載できるところも復刊号のおもしろいところですよね。当時では考えにくいことも実現しています。

Q:復刊号を発行するにあたり、なにか背景はあるのでしょうか。

宮澤氏: 2~3年前からヘッドフォンやヘッドフォンアンプが若い人たちの中でブームになっています。さらにアナログが見直され、70年代の音源がハイレゾという高音質の形で蘇りつつあります。そういう背景があるので、レコパルを今復刊させるとおもしろいかなと思いました。

10年周期とか、一定のサイクルでリバイバルブームとかがやってくると思いますが、そういうサイクルの中に、レコパルがあったということだと思います。

また先ほどの写真や音源の例からもわかるように、本来はしっかり保存しておかなくてはならないものが、アナログからデジタルへの転換の過程で消失していることが非常に多い。そういうものを、雑誌という形でもいいですし、他のメディアでもいいですが、ちゃんと掘り起こさなきゃいけないと、今回のレコパル復刊号で感じました。

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レコパル復刊号は、たしかにかつての読者に向けたものが中心である。読者の声を聞くと、満足度も高いことがうかがえる。しかし記事を見れば「レコパル流 ハイレゾ攻略術」や「4K映像に魂を込めろ!」など、最新の技術を取り上げている。Twitterにはこんな声もあった。

・祝レコパル1号限定復活☆ノルスタジックだけでなく、昔と今を繋いでいるポイントが良い♪

宮澤さんのおっしゃる通り、過去を懐かしむだけなら古本屋で事が済む。過去と今の時間を埋めてくれるのが、復刊号の魅力ではないだろうか。

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