ソロウエディング ―小さな旅行代理店が生んだ究極のおひとりさまスタイル

「ソロウエディング」という新しいサービスが今、女性たちの間でひそかなブームとなっている。ウエディングドレスは自身の結婚式で着るもの、というウエディング業界の既成概念を壊したのは、京都の小さな旅行代理店だった。

「ソロウエディング」という新しいサービスが今、女性たちの間でひそかなブームとなっている。

ウエディングドレスは自身の結婚式で着るもの、というウエディング業界の既成概念を壊したのは、京都の小さな旅行代理店だった。

女性のお姫様願望を余すことなく満たすことができると評判の「ソロウエディング」に迫る。

女性の夢の最高峰

たとえパートナーとなる相手がいなくても、結婚式を挙げる時と同じようにウエディングドレスを着て、美しくヘアメイクし、雰囲気漂う写真をプロカメラマンに撮影してもらえる。それがソロウエディングだ。2014年の秋頃からメディアに取り上げられ、今ではウエディング業界や写真館の新サービスとして注目を集めている。

日本で初めてこのサービスを発案・提供したのは、女性向け旅行のプランニングを専門とする旅行代理店のチェルカトラベルだ。「失恋タクシー」という、恋に破れた女性の心を癒やす、一風変わったオリジナル旅行の提案など、女性心理と潜在ニーズを捉えたきめ細やかな旅の提案で知られている。そのチェルカトラベルが発案した新しい旅のテーマが「ウエディング」だった。

「ドレスは女性の夢。中でもウエディングドレスは最高峰。その夢をシングルの方でも叶えられるプランがあれば面白いなと思った」とチェルカトラベル代表取締役社長の井上ゆき子さんは話す。

アイデアが生まれたのは、女性スタッフ3人による企画会議の場。発案当初はニーズがあるのか不安もあったが、プランを詰めていくにつれ、ヒットを確信したという。「旅行会社の場合、アイデアを形にするのに原価はかからないし、在庫も持たない。お客様の反応があれば継続・発展させていくし、なければ削ぎ落としていけばいい」と井上さん。光るアイデアと、それを形にする実行力、顧客のニーズに対するきめ細やかな対応力があれば、いくらでも挑戦できるし、すればいいというスタンスだ。この軽やかさと柔軟さがヒットを支えた。

一人で惨めは想定内

2014年6月、一泊二日のソロウェディングサービスを提供開始。当初は、「一人で結婚式を挙げるのは惨め」というバッシングもあったが、すべて想定の範囲内。むしろ好意的な反応が多く、潜在ニーズの大きさを感じたという。現在の顧客は30代から50代の女性がメイン。未婚女性はもちろん、結婚式を挙げた当時は金銭的な制約で好きなドレスを選べなかった人や、和装で挙式した人など、既婚女性からのニーズもある。

実際の結婚式と違って、ドレス選びや撮影は本人一人で行うため、顧客が嫌な思いをしないように配慮は最大限。他のカップルと鉢合わせしないような時間帯や場所でドレス選びを行うのはもちろん、メイクや休憩をとるホテルも「カップル」を想起させるツインルームは絶対にとらない。写真撮影の際も、他の人の目に触れずにウエディングドレスと優雅な気分を一人で堪能できる場所を厳選する。どんな顧客にも「もの悲しい思い」をさせないよう工夫をしているのだ。

もちろん、日常を忘れ、女性が心から楽しめる時間や心地よい空間を提供することが最大の目的なので、ソロウエディングを挙げる理由や背景はこちらからは尋ねない。顧客が話したい時だけ、それに寄り添う方法をとっているという。一人一人のニーズに合わせたきめ細かいサービスが必要なため、最大予約数は月に8件。費用も32万円からと決して安くないが、サービス開始から1年あまりで100件以上の実績があり、すでに来年の予約も入っているほどの人気ぶりだ。

時代の気分をつくる

ひとつの旅行企画として誕生したソロウエディングは、今や、ウエディング業界の新たなトレンドの芽にまで成長しようとしているが、チェルカトラベルでは2017年5月にサービスを終了する予定だ。「私たちはあくまで旅行代理店。ウエディングが専門ではありません」と話す井上さん。「女性一人でウエディングドレスを着ても気恥ずかしくない時代の空気や気分を醸成できたら、そこで役目は終わり。また次の女性ニーズを掘り起こし、新しい波をつくりたい」と、その視線はすでに先を見ている。

ウエディングドレスは結婚式で着るものであり、結婚式は二人で挙げるもの、というこれまでの既成概念を壊したソロウエディング。既存のターゲットや目的を大胆に変えることで、市場の新たな可能性を切り拓いた。PRの役目の一つは「世の中に議論を巻き起こすこと」と言われているが、ソロウエディングは、その意味で、考え方そのものが非常にPR的だと言えるだろう。

(取材:イマニシ)

(2015年6月11日「週刊?!イザワの目」より転載)