東アジア――武器よさらば!

現在、東アジアは無数の課題を抱えている。東アジア諸国は領土問題、歴史認識、天然資源、さらには環太平洋の勢力均衡をめぐり互いに争っている。これらの課題すべてに対し、アメリカはつねに紋切り型のアプローチ、すなわち自由貿易と軍拡という薬を処方してきた。
Cahir Davitt via Getty Images

現在、東アジアは無数の課題を抱えている。東アジア諸国は領土問題、歴史認識、天然資源、さらには環太平洋の勢力均衡をめぐり互いに争っている。これらの課題すべてに対し、アメリカはつねに紋切り型のアプローチ、すなわち自由貿易と軍拡という薬を処方してきた。アメリカ合衆国が東アジアにおいて推し進めるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の批准が成功する目途は今のところない。目下のところ、アメリカ政府は東アジアへの武器販売と軍事的役割分担という古い対処法に舞い戻っている。

オバマ政権のアジア重視戦略 (いわゆるアジア基軸)は、この地域の紛争に関するアメリカの軍事的対応の最新版にすぎない。長年、ワシントンは東アジアの同盟国に高価なアメリカ製武器システムの導入と国防予算の増額を押しつけてきた。悲劇的にも、アメリカの軍事的福音の大団円は大惨劇ともいえる紛争に終わるかもしれず、それがアメリカの東アジアの影響に終止符を打つものとなるかも知れない。

東アジアの経済的繁栄は世界の羨望の的である。しかし、近年東アジアでの軍事支出の増加の勢いが100年前のヨーロッパを彷彿とさせるものとみなしても、あながち間違いではないであろう。実際、東アジアの国々は世界の軍事支出の上位を占めている。中国の軍事支出は世界第2位、日本は第8位、そして韓国は第10位とその順位を上げている。また、世界第3位のロシアの地政学的に極東での役割は重要であり、同国は中国、韓国との環境強化にも乗り出している。オーストラリアは世界第13位であり、東アジアにおける存在感を高めている。

アメリカの軍事支出は、第2位以下の8カ国の軍事支出を合わせても、及ばないが、そのアメリカがこの地域で全くの困難に陥っている。アジア重視戦略によるアメリカの軍事支出の増加は、海軍の支出を除いて、ごくわずかに過ぎないが、それは中国との対抗上の措置であり、アメリカは同盟国に軍事支出の増強をも迫っている。

ワシントンの強硬派はアメリカがより強力な対応に出ることを望んでいる。たとえば、CSISのマイケルグリーン(Michael Green)氏やヴィクターチャー(Victor Cha)氏は、グアムに配備されている核兵器を装備した潜水艦の倍増、ハワイの陸海軍の増強、韓国沖への艦船の常駐、グアムへの戦闘飛行隊の常駐、有人無人偵察機の増派などを求めている。挑発的な偵察行為の強化は、すでに中国国境において緊張関係を高めている。

東アジアでは、気候変動や経済的格差の拡大といった深刻な安全への脅威に対する対処の必要性が高まっている。ところが、アメリカが実際に行っていることは、韓国にTHAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)という高価なミサイル防衛システムを、同国政府が公式に必要としていないと主張しているにもかかわらず、売りつけるといったことである。同様に、こうした軍事施設を駐在させることに対する中国の正当な懸念は、なんらの対話の努力もなしに無視されてきた。

東アジアにおけるよりやっかいな問題は、核拡散である。これまで最低限の軍備しか持たなかった中国も、今では持久力、攻撃力、ミサイル防衛プログラムへの対応力の増強を目的とした急速な軍備近代化を行っている。北朝鮮は、規模や射程距離については依然として不明であるが、核開発の強化を行っており、それによる脅威がさらに周辺諸国の核依存への圧力となっている。そして、ソウルや東京では、核兵器禁止の立場を放棄し、近隣諸国への対抗を名目に、核兵器への依存を求める声が高まりつつあり、アメリカの評論家のなかには、そうした声を後押しする主張も見られる。また、オバマ政権は、核兵器廃絶を訴え、ロシアとのあいだで核兵器制限交渉を行ってはきたが――その成果はその後の事態によって疑問視されている――、自国の軍備増強に数十億ドルもの予算をつぎ込むことを承認している。

おそらくワシントンの政治家は、同盟国の緊密度を強めることで力を増す中国を牽制することが出来ると信じているのである。しかし、今後の対立がそうしたプランどおりに展開することはないであろう。たとえば、韓国と日本は、領土と歴史に関してそれぞれ独自の見解をもっている。日本の軍事支出の拡大が、表上は北朝鮮への対応を理由としたとしても、それは韓国と中国にとっては不可避的に直接的な脅威と受け取られるであろう。同じように、ヴェトナムにおける軍事力強化は、中国とは関係がなくても、東南アジアにおける軍事力競争の引き金となり得る。

■ヨーロッパのケース

1970年代の軍縮交渉は、軍拡競争と破滅的な戦争の舞台であったヨーロッパを、統一した平和的な地域へと転換する上で重要な役割を果たした。アメリカとソビエトという超軍事大国は、軍拡競争の危険性を理解し、真剣な交渉を積み重ね、デタントと呼ばれる時期を通じて、核兵器および通常兵器の具体的な削減合意を行った。

1970年代初頭、東西両陣営の溝を埋める努力には、3つの方法があった。第1は、米ソの核兵器の相互的削減合意、第2は、欧州安全保障協力会議(CSCE)での政治的・経済的協議、第3は、中部欧州相互兵力軍備削減交渉(MBFR)によるヨーロッパでの兵力削減であった。MBFRは、最終的に1989年にワルシャワ条約機構と北大西洋条約機構(NATO)双方のヨーロッパでの兵力削減という具体的成果をあげる協議となった。冷戦集結後は、ヨーロッパ通常戦力条約がNATOとロシアの更なる軍縮協議の場となったが、両方の当事者とも現在のところ十分に当初の計画に従っているとはいえない状況にある。

1970年代および1980年代のヨーロッパの軍備増強による危険性は、現在の東アジアの状況にひけをとらなかった。デタントが比較的順調に進んでいたにもかかわらず、1979年にソビエトがアフガニスタンに侵攻し、それに対してレーガン政権がモスクワを敵視したことによって、冷戦の時代の対立感情が再びわき起こった。しかし、それにも関わらず、1970年代の核兵器や通常兵器の削減交渉は、あらゆる政治的試練に耐え、安定的で平和的なヨーロッパを守る新たな建造物に不可欠な礎石の役割を果たしたのである。

数十年に及ぶ軍縮交渉によって、政治家、政策担当者、軍事専門家たちが軍事予算増額のために緊張を煽るのではなく、彼らが緊張緩和のためになにをすべきかを考える環境が整った。彼らが築き上げた信頼構築のための優れたシステムは、単なる軍縮にとどまらない合意形成の制度的枠組みともなった。結果としてそれは、戦略兵器削減条約として実現し、緊張緩和により多くの関係者を巻き込み、それぞれの政権の入れ替わりがあろうと、軍備管理と軍縮協議を着実に進展させた。

アジアにはこうしたものに匹敵する軍縮交渉の歴史がない。日本は、史上初の軍縮会議であり、軍艦建造数の削減を規定した1922年の条約を生んだワシントン海軍軍縮交渉に参加した国である。しかし、1936年にその合意から離脱したのも日本であった。

戦後、唯一の軍備管理といえるものは、日本が平和憲法を採択し、国権の発動たる軍事力の行使を放棄し、平和と公正のための国際体制の枠組みを求めたことである。しかし、平和憲法の規約にも関わらず、他の国家はそのような政策を採用しなかった。日本に平和憲法を突きつけたアメリカがとくにそうであった。1991年、アメリカは冷戦後の軍縮の一環として、韓国に配備していた戦術核兵器をも除去したが、それは象徴的な行為にすぎず、包括的に軍縮を考えた政策とは言い難かった。

■「リバランス」を超えて――アメリカの対東アジア戦略

アメリカの「リバランシング」(再均衡)と呼ばれる東アジア戦略は、抜本的な再定義が必要である。

なによりもまず、外交政策の基本は、高価な武器システムの販売ではなく、相互的な安全保障でなければならない。今後5年間で、アメリカとその同盟国――日本、韓国、オーストラリア――は、この地域の軍事大国である中国、ロシア、さらにはASEAN諸国とともに、核兵器および通常兵器の包括的な削減計画を策定すべきである。

軍縮のための共同は、東アジアの安全に対する最大の脅威たる気候変動に対する認識をも共有し、各国政府の制度改革を促す保障政策につながる。すでに気候変動こそがもっとも重要な安全保障上の課題であるというこうしたアプローチは、米太平洋軍司令長官サミュエル・ロックリア大将の声明によっても裏付けられている。アンドリュー・デウィットが指摘したように、米太平洋軍司令部はアジア全域の将来的な相互協力の新たな展望を切り開くため、気候問題に具体的に対処することを発表した。気候変動は、安全保障上の一大転機となる問題であり、軍縮の大きな課題を前進させ、軍事の社会的役割を根本的に見直すことにつながるであろう。

中国との関与は成功のための必要条件である。中国は、アメリカを地域で歓迎されない存在だとは断定していない。ワシントンにも強硬派がいるように、もちろん北京にも強硬論者はいるが、中国は、一貫して、アメリカとの軍事協力を含む安保問題に関してアメリカと協力する用意があることを表明してきた。中国は、リムパック2014などアメリカが主導する環太平洋合同演習にも参加したことがある。

しかし、中国沿岸地域での敵対的な軍装備の誇示は、アメリカがこの地域での調停者的な役割というよりも、むしろ中国を潜在的な脅威として抑えにかかっている覇権国であるとの北京の憂慮をかき立てるものとなった。世界の未来は、中国が国際社会の行動規範を受け入れたように、アメリカが冷戦時代の外交や安全保障の思考方式から抜け出せられるかどうかにかかっている。アメリカが中国と長期的な軍縮合意に関与することを決定することで、両国の関係には変化が見られるだろう。

■これから進むべき方向

アメリカは、世界で最も多くの軍事費を費やしている国家であると同時に、最も多くの武器を販売している国家でもある。したがって、東アジアの包括的な軍縮合意のための第一歩は、ワシントンから始めなければならないだろう。アメリカは、紛争への軍備競争による対応を促進するのではなく、むしろ、軍縮および信頼構築のための手だてを尽くすことによって、リーダーシップを発揮しなければならない。

いかなる軍縮合意も、二国間ではなく多国間で行われねばならない。現在の東アジアの軍拡はすべての国を巻き込みつつあり、緊張を高める要因は複雑であり、従来の同盟関係の路線上でことが運ぶかどうかは分からないということを理解することが重要である。北朝鮮の核開発計画に過度の焦点を合わせる余り、もっと大きな地域的な安全保障上の課題を直視できていない。

そのような合意に至るには、たとえそれが当初のCSCEのように定期的な会合にすぎないようなものであっても何らかの協議機関が必要である。ASEAN地域フォーラムや「アジア太平洋安全保障協力会議」のようなトラック1、トラック2の機関が最初の対話の場になるであろう。成熟した包括的な軍縮の枠組みのためには、最終的には、新たな政府間のイニシアティブが必要となる。

六者協議は、軍縮に関する踏み込んだ討議のための最初の協議機関としての役割を果たすことができる。北朝鮮に核開発プログラムを無条件的に停止するようくどくど要求するのではなく、加盟国であるアメリカ、中国、日本、ロシア、韓国、北朝鮮は東アジアにおける核兵器の削減、および通常兵器の大幅な削減をいかに行うかを協議すべきである。こうした協議は、北朝鮮当局の行動に関してのみ、あるいはそれに左右されて行われてはならず、むしろ北朝鮮当局の行動に関係なく実行できる、より大きな安全保障機構の基盤とならなければならない。しかし、こうした協議は、それ自体、中国、日本、韓国の軍備削減およびアメリカの軍事的プレゼンスの縮小というより幅広い合意の一環として、北朝鮮が参加するインセンティブをもてるようなものでなければならない。

北朝鮮をこの合意に参加させるための明らかなインセンティブとなるのは、アメリカが朝鮮戦争を集結させた1953年の休戦協定を平和協定に変える協議を提案することである。このような平和協定は北朝鮮が要望してきたものであり、その実行を確保する地域的な機構の創設を条項に含むであろう。そして、その機構が、今度は、新たな地域安全保障構造の核心になるであろう。

六者協議の最初の合意は、1995年、ジョン・エンディコットの提案による「限定的東北アジア非核地帯」をアメリカが支持したことによって力を得た。この提案は、北朝鮮を除いた六者協議参加国すべての軍事専門家たちを含めて作成され、この地域の全ての核兵器の最終的廃絶のための第一歩となった。この時、提案された NTFZ(非核地帯)は、南極非核地帯条約(1959)、東南アジア非核地帯(1995)等、すでに発効されていた8つの非核地帯の前例をもとに創設されたという点で効果的であった。

核兵器に関する協議は、MBFR交渉の前例に従って、この地域の軍備減縮に関する一連の協議と並行に行われる必要がある。このような論議は、軍縮の提案、及び、予想可能な順序に従って実行できるロードマップ形成に機能する持続的なメカニズムに発展させることができる。協議を進めることによって、海軍艦艇、戦車、そして大砲、航空機や爆撃機、ミサイル防衛、および、その他の運搬装置、等に関する個別的合意が得られる可能性もあるであろう。この協定には、軍事演習および監視行動に関する厳密な規定を提示し、合意事項の実施をモニタリングする体制の設置が含まれねばならない。交渉の重要な要素は、地域的な大規模軍事演習を縮小するとともに、協定の実施を先延ばししないよう監視し、挑発的偵察行動をやめさせることである。

その上、目覚ましい技術革新によって通常兵器がますます旧式となるため、通常兵器に関する既存の合意はそうした技術変化に対応する必要がある。無人航空機(drone)、ロボット、3Dプリンターやサイバー戦争のような新技術の問題は、武器制限条約の諸条項によって直接処理されねばならない。技術変化自体の破壊的な性格は、軍備管理条約によって確実に規制され、条約の妥当性が維持されねばならない。

「戦域ミサイル防衛」は、包括的な軍備制限条約の一部として取り扱われなければならない。このようなミサイル防御システムの有効性を取り巻く技術的な問題にもかかわらず、韓国や日本にシステムを売り込もうとするアメリカの提案は、これに対抗する中国の弾道ミサイルの技術開発を促進するという、本質的に不安定な結果をもたらしている。さらに中国は、ミサイル防衛が防衛的メカニズムであるとのアメリカの説明を受けいれていない。結果的に、アメリカがミサイル防衛を軍縮の最終項目であると主張するのに対して、中国はこれをまず先に削減すべきであると主張している。この問題は、真摯な協議を通してのみ解決することができるだろう。

最後に、気候変動の緩和とそれへの適応についての協議は、核兵器および通常兵器に関する交渉と並行に行われることが重要である。通常兵器と核兵器の削減は、軍事上の力点や機能の転換を必然的に伴うであろう。数客万を陣容を擁する巨大な官僚機構としての軍隊が、気候変動とのたたかいという役割を担わねばならない。

ここ1年間、世界は、ウクライナ、イラク、そしてガザ地区で起こった混迷を極める衝突を目の当たりにしてきた。これらの紛争地域では、対立する各々の側が軍事的対応に訴えたため、状況が悪化していった。一方、東アジアの危機はここ何ヶ月間なりをひそめた感がある。多年にわたってこの地域を苦しめてきた数多くの紛争を解決する上で、アジアがそれらと異なったアプローチを採ったことはじつに望ましいことである。もし、アジアが紛争を解決する手段として武器を放棄すれば、それは世界の他の地域に対しても強力なメッセージを投げかけることになるであろう。

注目記事