NASA の有人宇宙飛行計画責任者ウィリアム・ゲルシュテンマイアーが、「NASAは宇宙ステーションからできるだけ早く出て行くつもりだ」と発言しました。ISS プロジェクトは2024年まで継続することが決まってはいるものの、NASA は月(および火星)への有人探査に資源を集中したい考えです。
過去15年間、NASAは企業から依頼される微重力下での研究開発のために自腹でロケットを打ち上げ、宇宙飛行士を派遣して実験をしその成果を持ち帰りました。スペースシャトル退役後は飛行士と物資を ISS へ運んでもらうためロシアに運賃を支払い、さらに今年には、ISS への人員輸送のためボーイングおよび SpaceX と契約を結びました。
NASA が ISS のために用意する予算は年間30億ドルとされ、今後2020年までに年間40億ドルにまで膨れ上がると予想されます。NASAの有人飛行計画責任者であるゲルシュテンマイアーは、NASA には月への有人探査、さらに火星という大きな計画もあるため「ISS プログラムと両立するだけの余裕はない」と語りました。
では2024年以降 はどうなるのでしょうか。NASA は ISS には、微重力での実験環境という「大きな可能性」があるとして、民間企業がこの役割を引き継いで活用することに期待すると語ります。
とはいえ民間企業が「ISS 2.0」を作り、維持運用できるかといえば、その可能性は低いと言わざるを得ません。そのためNASAは、まだ自分たちが輸送費を肩代わりしている間に微重力環境下の研究を行うよう企業にすすめています。なおかつ米商務省に対しては、宇宙空間での実験を依頼する(顧客)企業を支援すべく税制面での優遇措置を訴えています。
なおロシアは今年はじめ、2024年をめどに ISS から自国のモジュールとともに文字どおり"離脱"し、それをもとに独自の宇宙ステーションを建造する計画を発表しました。また中国も自前の宇宙ステーション建造計画を発表済みです。
ちなみにNASA は現在、2020年代に有人の宇宙船を月楕円軌道へ送り込む計画を進めています。打ち上げコスト削減のためあらかじめ ISS へ燃料などを送っておき、月へ向かうオリオン宇宙船に燃料補給するというアイデアもありましたが、現在のところ NASA は「月へ行くのに ISS は必要ない」としています。
(2015年12月09日 Engadget日本版「NASA、ISSから『できるだけはやく出て行く』 月・火星探査に注力、今後は民間ステーションに期待」より転載)