士郎正宗氏原作の漫画「攻殻機動隊」をスカーレット・ヨハンソン主演で実写化したハリウッド版、『ゴースト・イン・ザ・シェル』の公開が4月に迫りました。
日本語吹き替えに押井守監督のアニメ映画版『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』や、神山健治監督のTVアニメシリーズ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』などで主人公・草薙素子役を演じた田中敦子さん(ハリウッド版においては「少佐」役)、大塚明夫さん(バトー役)、山寺宏一さん(トグサ役)の出演が決定するなど、ますます盛り上がりを見せています。
Engadgetでは、製作総指揮を務める Production I.Gの石川社長に『ゴースト・イン・ザ・シェル』についてお訊きしました。
石川社長自身まだ完成版を観られていない段階での取材ではありましたが、今作への関わりや、率直な印象を語ってくれました。
押井監督も惚れたスカーレット・ヨハンソンの演技力
ーー 実写映画化に対する石川社長やProduction I.Gの関わりを教えていただけますか?
石川:そもそもは、士郎正宗さん原作の「攻殻機動隊」の権利を持っている講談社さんとハリウッドとのエージェント的な役割です。
ドリームワークスで『イノセンス』を世界配給した経緯などもあって、アメリカに人脈もあるのでうまく立ち回れるだろうと。
そういったこともあり、攻殻を作りたいと手を上げた会社すべてに講談社さんと会いに行って、どの会社やプロデューサーに作品を預けるかを決めました。
ーー 作品が進んでいく中での関わりとしてはどうでしょうか?
石川:アメリカと日本との通訳的なことをしたり、ビートたけしさんの撮影現場では「藤咲淳一」(『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の脚本などを担当)が現場に立ち会って台詞などのサポートもしました。
ほかにも、ハリウッド側から質問がくると「アニメのときはこうしていた」などの手助けはしていますが、こちらから「こういうのが良い」といったことは言っていないです。
ーー押井監督と神山監督が香港ロケの撮影現場を見られと聞きましたが、2人の印象はどうでしたか?
石川:私としては、2人に現場を見て欲しかったんですけど、2人からすると「実写映画が物議かもしているから、批判の風よけに使われるんじゃないか・・・」みたいな心配もあったと思うんです。
ただ、現場に入って雰囲気が変わりました。
特に押井さんは実写映画を撮っていることもあり、本気モードでモニターに見入って、「スカーレット・ヨハンソンの演技力が凄かった。少佐役は彼女しかいないだろう」って言って惚れていましたね。
ーー 石川社長の作品に対する印象はいかがですか?
石川:予告編の映像からは、押井さんの攻殻に対するインスパイアを感じることが多いと思うんですが、脚本や全体を通して見てみると神山さんの『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の匂いもするなと思いました。
それと、変に未来に行き過ぎてないとこがいいなと思います。今と地続きでつながっている感じというか。
SFって生活感を出さないで描かれることが多いですが、押井さんも神山さんも生活感を凄く大事にしていて、テーブルや壁に傷がないのとかを気にしたりするんですね。
「そこに人間が生活していたら傷ぐらいつくはずだ」と。そういった生活感は実写でも作り込まれています。ほんとスタッフが優秀だと思いますね。
ーー 作品全体を通して、押井監督と神山監督の作品をリスペクトして作られていると。
石川:そうですね。
実写版はパラレル的な新しい攻殻機動隊
ーー 士郎正宗さんの原作に対して、押井監督、神山監督、黄瀬総監督それぞれがちょっとずつ違う新たな攻殻を作ってきたと思うのですが、今回の実写化も今までの攻殻とは違ったパラレル的なものなのでしょうか?
石川:本作も未来を描いてはいますがハッキリとは設定年数も明かしてないですし(原作は2029年が舞台)、新しい攻殻です。
根っこが深いというか、設定がしっかりしていてブレないからこそ「誰が作っても攻殻になる」のが攻殻の凄さ。士郎正宗さんの凄さだと思います。だから、本作もまた一つのパラレルとして考えています。
ーー 以前、攻殻にヒントを得て光学迷彩を開発した稲見教授との対談で、石川さんは「攻殻で大事にしてきたのは安定志向ではなく一回壊すこと」とおっしゃっていました。今回の実写化もある意味で壊しているのでしょうか?
"もし押井監督が20年ずっと攻殻を作っていたら、全て面白いものになっていたかというと、違うと思うんですよ。
「STAND ALONE COMPLEX」も「新劇場版」も生まれなかったし、「攻殻機動隊」のお客さんの幅はどんどん狭まってしまっていたと思うんです。
お客さんを広げていくためには新しい感性を持って、時代とズレない作品作りをしないといけないと思うんです。時代に合ったものを作っていくときに大切なことは「継続」ではなくて、一回「壊す」ことだと思っているんです。
これって、みんなできそうでできないんですよ、大切にしちゃうから。
だから敢えて押井監督ではなく、若手の神山監督にTVシリーズをやってもらったんです。神山監督にやってもらうっていっても、その当時は誰も知らないんです。監督である神山健治の名前を、誰もですよ。
でも神山監督の感性はいけると信じて挑戦した結果、「STAND ALONE COMPLEX」が生まれて、攻殻機動隊のお客さんが広がった。
神山監督は「ARISE」の監督もやりたかったのではと思うんですが、でもそこは違う人間にやってもらうっていうね。
全てが未知数で、プロデューサーとして自分も精神的に厳しい部分もありますし、気は楽じゃないですよ。ただそこは安定志向には走らず、常に一回壊す。"
石川:そうですね。僕は、ただの継続で作らないことに攻殻の良さがあるんじゃないかと思っていて。
もし今後もProduction I.Gで攻殻を作るチャンスがあるとすれば、今回の実写化も、『ARISE』も積み重なった、新しい攻殻が生み出せると思っています。そうやって継続していきたいですね。
「実写化は日本発でなくて良かった」その真意とは?
ーー 日本で生まれた攻殻機動隊を初めて実写化するのがハリウッドです。日本ではなかったわけですが、このことに対して何か思うことはありますか?
石川:実写版の攻殻が日本発でなくて良かったと思います。
ーー それはどうしてですか?
石川:理由はいくつかありますが、一言で言えば、日本で作っていたら少佐役はスカーレット・ヨハンソンにはならなかった。これに尽きますね。
監督にルパート・サンダースを起用した人選も良かったし、CGや編集などを含めて、作り上がったものを積み上げていく彼のしつこいまでのこだわりも作品に合っていました。
彼は、きれいな映像と、生活感のある映像、半ば矛盾していることを一緒に作れる奇特な監督です。それに、脚本に対する時間とお金のかけかたは日本の10倍、いや、100倍くらいのイメージです。
100倍は言いすぎかもしれませんが、色んな脚本家さんに頼みながら、10倍以上は時間をかけて仕上げていました。そういったことを含めて、ハリウッドで良かったなと。
ーー 押井監督もスカーレット・ヨハンソンに惚れたとおっしゃっていましたが、そんなに凄いのでしょうか?
石川:良かったですよ。すべてが良かったです。人間じゃないっていうか、人間とロボットのどちらでもないというか・・・。
ーー少佐を演じるのが日本人ではないって批判もありました。そういった批判をはねのけるほどですか?
石川:これは、もう本当に作品を見て感じてもらうしかないと思いますが、スカーレット・ヨハンソンがベストの選択だと思いますね。
実写版はハリウッドからの招待状
ーー 最後に、石川さんにとってハリウッド版の攻殻とは?
石川:招待状をもらったような気がしますね。
『イノセンス』のときは、スタートラインに立ったイメージがあったんですけど、今回はいろんな世界の流れ、今のアニメの流れがあった上で、日本のアニメーション制作をしている人間に対する贈り物というか招待状というイメージ。
ーー 何への招待状なんでしょうか?
石川:たぶん「負けるなよ」っていうところじゃないですかね。「俺たちもこんだけのものを作ったから、悔しかったらもっと凄いもの作ってみろよ」ってことだと思います。
もともと攻殻は海外に強いと思うんですけど、今回の実写化で確実に一般の方にも認知されます。これは大きいことだなと思いますし、エンターテインメントって人に見られてなんぼの世界ですから、凄い挑戦状をもらったなと。
そういう風に僕は受け止めました。
ーー 今後の作品作りにも影響が出そうですか?
石川:I.Gがどこにいくかっていう意味で、ものすごくヒントになる作品じゃないかなと。僕が100回喋るよりも、映画を1回見てもらったほうが伝えたいことは伝わると思います。本当に楽しめる作品になっているので、映画館でぜひ楽しんでください。
■監督:ルパート・サンダース 『スノーホワイト』
■出演:スカーレット・ヨハンソン、ビートたけし、マイケル・ピット、ピルー・アスベック、チン・ハンandジュリエット・ビノシュほか
■邦題:ゴースト・イン・ザ・シェル
■原題:GHOST IN THE SHELL
■公開日:2017年4月7日(日本)
■配給:東和ピクチャーズ
■公式サイト:http://ghostshell.jp/
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(2017年3月14日Engadget 日本版「「攻殻の実写化、日本発じゃなくて良かった」Production I.G 石川社長インタビュー。『ゴースト・イン・ザ・シェル』製作総指揮が語る真意は」より転載)
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