音の「大きさ」ではなく「明瞭さ」で「聞こえる」をサポートするスピーカーがお年寄りの難聴をヘルプ

「発声した言葉の輪郭が際立つ、そんな印象でした」
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もしかすると、認知症の患者を増やしているのはこの社会全体なのかもしれません。広島大学宇宙再生医療センター研究員の中石真一路氏は「聞こえないだけなのに、認知症と誤診されるケースが増えている」と語ります。

本稿では、中石氏の立ち上げたユニバーサル・サウンドデザイン製の「聞こえない」をアシストするスピーカー&マイク「comuoon」(コミューン)についてお伝えするとともに、難聴者を取り巻く課題についてもお届けします。

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家族にテレビの音が大きいと指摘されたことありますか? 逆に指摘した経験はありますか? 一般に40代から人の聴力は衰えてくると言われています。難聴のシニアに対し大きな声で話す、そんな経験がある方も少なくないでしょう。

しかし、大きな音だけが聞こえに繋がるのではありません。言葉の認識には音の明瞭度が重要と前述の中石氏は話します。誰しも大音量のノイズはいやなものですが、もしかすると大きな声で話したことが、不愉快なノイズになって伝わっているかもしれません。

これを聴覚ではなく視覚に置き換えるとわかりやすいです。ぼやけて判別できない画像の文字をいくら拡大したところで認識できません。反対に、はっきりくっきりした画像なら拡大なしでも文字が認識できるはず。大きな声は拡大と同じことですから、聞き取る力が衰えていれば不愉快なノイズに受け取られるかも、ということです。

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また、言葉の認識は低周波の母音(あ、い、う、え、お)よりも、高周波の子音が重要です。阿藤さんと加藤さん、佐藤さんのいずれも母音が同じなので聞き取りミスが起こりそうですよね。

comuoonについて大まかに言うと、この聞き取りやすさに繋がる高周波を持ち上げてやるスピーカーです。単純にソフトウェアの処理で高い周波数を上げているのではなく、玉子を割ったような筐体の形がこの特性を生み出し、足りないところをソフトで補っています。

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またスピーカーは指向性があり、音が壁などに反射しないよう設計されています。ハニカムパネルスピーカーで音の歪みを抑制するほか、デジタルアンプとデジタルボリュームでノイズ除去。音の入力も聞き取りやすさにつながるため、フォーリーフ製のショットガンマイクを採用しています。

実際に試してみると、健常者の耳でも小声で話した人の声がはっきりと聞こえます。音量の問題ではなく、発声した言葉の輪郭が際立つ、そんな印象でした。comuoonは大きな音でも聞こえが改善しない感音性難聴でも聞き取れるとしています。

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ちなみに、ユニバーサル・サウンドデザインと広島大学宇宙再生医療センターによる聴覚リハビリテーション研究では、脳磁計(MEG)を使ってcomuoonの有用性を検証。研究成果は米脳科学関連学会Neuroreportに掲載されました。

comuoonは現在約7000台を出荷しており、4000施設に導入されています。多くは銀行や病院、薬局、行政機関などの対面業務が中心。また、入院中などに知った患者家族が購入することもあるそうです。

医療の現場でインフォームド・コンセントが叫ばれているのはご存知の通り。しっかり説明し患者が対処方法を選択するのがのぞましいからです。しかし、医師や看護師、薬剤師がマスクをしている場合も多く、ますます聞き取りにくい状況になっています。

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超高齢化社会を向かえる中、難聴者は国内に約1500万人いると言われています。愛知医科大学耳鼻咽頭科の内田育恵医師によれば、難聴が認知症のリスクになるとしており、Oticon社の調査でも重度な難聴になるほど認知症リスクが高まるとしています。内田医師によると、孤立は、聞こえにくいことで情報が得られず孤立するのではなく、周囲が聞こえに理解がないために孤立するというコミュニケーション障害によるものだそう。

現在、75歳以上の高齢者が運転免許証を更新する場合、認知症の検査と高齢者教習が義務づけられています。中石氏は、国内の認知症診断は対話形式で行われるため、加齢による聴力の機能低下で聞こえないだけの人が認知症と診断される可能性があると指摘。結果として免許返納となるため、難聴と認知症を切り分けられる診断が必要としています。

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comuoonは現在、マイクとスピーカーの有線接続のものやワイヤレス接続のものをラインナップしています。これに加え、より小型のモバイル機器を開発中。撮影はゆるされませんでしたが、Pocket WiFiのような形状のものでした。

価格は17万程度で、地方自治体によっては難聴を補助するものとして助成金が受けられるとのこと。製品はビックカメラやユニバーサル・サウンドデザインのリスニングサロンなどで体験可能です。

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