米国アボット・ラボラトリーズの日本法人で、医療用医薬品や医療機器などの開発・販売を行う「アボットジャパン」は11月中旬、「CGM×食事で挑む、一人ひとりの糖尿病ケア」記者発表会を開催した。
糖尿病を取り巻く実態や社会課題、その鍵を握るCGM(持続グルコースモニタリングシステム=持続血糖測定システム)、そして患者のウェルビーイングのために求められる治療方針などを説明した。
後半では、俳優の藤岡弘、さんも登壇。栄養を考慮して開発したオリジナルメニューの発表に加え、プライベートな一面も明かした。
CGMで、いつでもどこでも血糖値を「見える化」

冒頭には、同社パブリックアフェアーズディレクターの永田浩二さんが登壇。糖尿病を取り巻く現状と、同社が世界中で提供しているCGMについて説明した。
国際糖尿病連合(IDF)によると、糖尿病の成人患者数は全世界で約5億8900万人と増加傾向にあり、今後25年で8億5300万人に増加すると予測されている。患者人口の増加は医療制度や医療費の圧迫にもつながり、2024年の糖尿病関連の医療支出は1兆ドルを超えたという。また、2024年には340万人以上の糖尿病患者が亡くなっており、適切な管理が必要不可欠だ。
そうした中、アボットは世界シェア1位のCGMを世界60カ国・700万人に提供しており、うち45カ国以上で保険適用範囲内となっている。CGMは、糖尿病診療において重要な血糖の推移や変動パターンを簡単に知ることができる装置で、小指ほどの大きさのセンサーを上腕後部に装着することで簡単に使用可能だ。
同システムではBluetoothを通じて専用アプリを紐づけたスマートフォンとデータを共有でき、ユーザーはどこでも簡単に確認できる。また、クラウドデータ管理システムにより、医療従事者とのデータ連携や、家族専用アプリによるデータ共有も可能だ。従来一般的だった指先採血とは異なり、痛みがないことも大きな特徴だという。
永田さんは「アボットでは、すべての糖尿病と生きる方々が充実した人生を送れるよう、デジタルテクノロジーを通じてサポートしております」と述べ、同社の取り組みをアピールした。
糖尿病治療に、スティグマの払拭を

続いて、順天堂大学大学院 医学研究科の綿田裕孝さんが登壇し、糖尿病診療における「個別化」の意義を説明した。
厚生労働省によると、日本の男女20歳以上の「糖尿病が強く疑われる人」と「糖尿病の可能性を否定できない人」の合計は19.4%(2023年)に上り、多くの人にとって身近な病気となっている。綿田さんは、糖尿病の治療目的について「糖尿病であっても、糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLの維持」であり、その中核を担うのは血管合併症の抑制だと説明した。
治療には血糖、血圧、コレステロール、体重の適正維持、さらに禁煙の遵守などが欠かせない。しかし、高齢の患者も多い中で、これらの値だけに主眼を置き食事のカロリーを減らしすぎると、サルコペニア(筋肉量の減少と筋力の低下)やフレイル(心身の衰えによる回復力の低下)につながるリスクがあるという。
「2型糖尿病治療と血糖トレンドに関する意識・実態調査」では、特に食事に課題を感じている人が多いことが明らかになっており、個人の状態や食の嗜好を加味した「個別化治療」が、患者が前向きに治療を続ける上で求められている。
日本糖尿病学会が2025年5月に発表した第5次「対糖尿病戦略5ヵ年計画」でも、個別化医療の推進が重点項目として掲げられており、特にCGMなどのデジタル技術の活用が訴求されている。

前向きな治療に欠かせない要素の1つが、患者自身の「スティグマ(先入観)の払拭」だ。
医療法人社団青泉会・下北沢病院の石田千香子さんは、糖尿病患者・経験者の半数以上が「治療をやめたいと思った経験がある」と回答した調査結果を引用し、その理由として費用に次いで2番目に多かったのが「健康的な食事への配慮」だと説明。
また「『食べる量を減らさなくては』と思っている患者さんは多いですが、実際には量を増やす必要がある人もいます。また『食べてはいけないものが多い』と思っている人も多いですが、基本的には食べ方の工夫や量の調整で対応が可能です。例えば料理を食べる順番を変えるだけでも血糖値に変化が見られる事例は多いです」と話した。
さらに、「スティグマを取り払い、安心して食事を楽しめるようにすることが管理栄養士としての役目です」と、臨床現場からの視点を共有。CGMを装着した患者との栄養相談では、簡易的な食事記録や写真と、CGMが測定した血糖値の変動を照らし合わせることで、「何を食べた時に血糖がどう変化するか」を可視化し、個々人に合わせた細やかな相談ができるという。
綿田さんも「基本的に『絶対に食べてはいけないもの』はありません」と賛同し、「CGMによる血糖値の見える化」と栄養相談を含む個別化治療の両輪によって、患者のポジティブな行動変容が期待できると話した。
藤岡弘、さんが栄養を考慮したオリジナルメニューを考案

発表会の後半には、俳優の藤岡弘、さんが登壇。調理師免許を持つ藤岡さんは今回、石田さん監修のもと、「2型糖尿病の患者さんが、美味しく、楽しく取り組める食事療法」をテーマに開発したオリジナルメニューを発表した。
筋力維持と健康体重のための高たんぱくメニューとして開発した「歩く力を支えるワンパン高たんぱく蒸し鶏」は、「1つのフライパンで」という言葉遊びも交えつつ、健康と力強さを支える1皿をイメージしたもので、芸歴60年のキャリアで「体づくり」を徹底してきた藤岡さんらしい一品だ。
また、朝食や昼食がしっかり取れない人のために、夕食で不足分を補える「一椀で栄養満点!具材たっぷり野菜スープ」も発表。藤岡さんの家庭での定番料理をアレンジしたもので、「初めての経験なのでドキドキしましたが、栄養について改めて学ぶこともでき、自信のある料理ができたと思います」と開発過程を振り返った。

また、運動や栄養管理で大切にしていることに関しては「楽しみながらでないと続かないので、時間のある時に無理なく楽しく取り組んできました。今でも子どもと一緒にトレーニングしています」「食事もやっぱり楽しくないと難しいですよね。栄養面はもちろん、『自分が好きなもの』という視点を持つことが大切かと思います。僕は釣りや青魚が好きなので、よく食べています」と私生活のエピソードも交えて語った。
石田さんは、発表会を振り返り「食事療法では、患者さんの食に関する嗜好を考慮しながら、何をどれくらい、どう食べるかを共に考えることが大切です。同じ糖尿病でも、体重・血圧・コレステロールなど、抱えている課題は人によって異なります。薬や検査結果、CGMのデータなどを参考に、ご本人の『どうなりたいか』を聞きながら納得感のある食事を提案することで、『負担感が減った』『思ったより自由なんですね』と感じてもらえる方が増えると思います」と述べた。
綿田さんも「個人の嗜好を大切にしながら、継続できる健康食を楽しむことが大切です。患者さんが前向きに治療へ取り組めるよう、CGMと臨床現場が連携し、自己管理への意欲を高めていくことが重要です」と話し、発表会を締めくくった。