なぜ外国人はすぐ辞めるのか? 彼らが日本企業をあきらめた、本当の理由。

「日本で働くことが夢だった。でも、続けられないと思った」ーー改正入管法成立から1年。今、私たちが耳を傾けたい「声」をまとめました。
Japanese letter of resignation
Japanese letter of resignation
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外国人労働者の受け入れ拡大に向けた「改正入管法」が成立して12月8日で1年。 外国人労働者の受け入れが進む中、「外国人はすぐやめる」という声をしばしば耳にする。

実際、様々な理由で辞めてしまう外国人はあとを断たない。技能実習生に対する待遇の問題は言うに及ばず、日本で学位を取得した留学生であっても、日本企業の社風に馴染めず離職する割合は高い。(2006年を最後に同様の調査は実施されていないが、外国人労働者の2006年時点での離職率*1は44.5%だ。)

アメリカ、オーストラリアでの海外生活を経て、現在は日本で翻訳などの仕事をする筆者の周りでも、日本企業を辞めて独立したり外資系企業に転職したりする外国人は珍しくない。

母国語に加え日本語・英語を流暢に話し、成長意欲も高く、日本に根を下ろして生きていきたいと希望している、まさに日本企業が求める「グローバル人材」。日本の煩雑な「シューカツ」をくぐり抜け、自分の強みを活かせるようなポジションを勝ち取ってもなお、半年や1年といった短い期間で彼らに退職を決断させてしまうのは、一体どこに原因があるのだろうか? 

こうしたミスマッチを防ぐために、留学生と企業とは、どう歩み寄るべきなのだろうか? 世界各地から日本にやって来た外国人労働者たちの声を聞いた。

(プライバシーに配慮し、文中の名前は全て仮名を使用)

「やめたくてやめるんじゃない」出せなかった、社長への手紙

まず話を聞いたのは、中南米出身の30代、ダビドさん。日本の大学院でMBAを取得し、食品・飲料業界の中堅メーカーに就職した。創業100年を超える老舗企業である。語学力を生かして海外市場を開拓する営業職は、ダビドさんがやりたかった仕事だった。しかし入社してみると、ほとんど何の研修も指導も受けさせてもらえず、困惑したと言う。

「配属先の海外営業部に外国人は僕1人。みな、僕をどう指導したらいいのかわかっていない感じでした。明確な目標も戦略も無く『自分で考えて』と丸投げ。僕の担当は新規市場でしたが、他の地域でのノウハウややり方を教えてくれたら、応用ができたはず。いきなり一人で営業して来いと言われて、自分のやり方が正しいのかわからず、すごく不安でした。国内営業担当の他の新人は、先輩に同行して指導してもらっていたのに…」

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なんとか状況を打開しようと、ダビドさんは真剣に上司に相談した。しかし、事態が好転するどころか、そこから上司の“パワハラ”が始まった。 

「上司からは常に、僕の仕事を責められ続けました。『お前が入って来てから、トラブルばかりだ!』と怒鳴られたり、見込み客を見つけて来ても『信用が低い企業だ』などと理由をつけて、サンプルを送らせてくれなかったり。僕がやることを却下するばかりで、どう改善すればいいのか教えてくれなくて。信頼していた上司にことごとく否定され続け、当惑し、悲しくなりました」

もっともショックを受けたのが、ビザの更新について相談に行った時だったという。

「1年間のビザしか出せないと言われて、もう少し長い期間のビザはもらえないのか、相談しに行ったんです。そうしたらいきなり、『文句があるなら辞めろ』と言われました」

話し合いの余地の無い上司の態度と、頼んでも教えてくれない周囲からのサポートの無さに、ダビドさんは泣く泣く退職を選んだ。 

「あまりにも理不尽だと感じたので、退職する前に社長宛ての手紙を書きました。やめたくてやめるわけではないということを訴えたかったのです。でも…出せなかった。出したところで、戻れるわけではないと思ったから」

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せっかく日本に来たのに、なぜ毎日嫌な思いをするの?

日本に来て12年になるイワンさんは、インドネシア出身。日本の語学学校を出て最初に採用されたのは、大手の流通・小売商社だった。人間関係には恵まれたものの、土日出勤を含むハードな働き方が原因で退職した。

次に勤務したのは地方に本社をおく機械関連製造業。いわゆる典型的な日本の中小企業で、中途採用されたのは彼が初めて。日本では未だ馴染みの薄いイスラム教徒のライフスタイルに対して周囲は理解を示したという。

「職場に礼拝のためのスペースを設けてくれたり、飲み会の時には豚肉以外も選べる店を予約してくれたりと、ムスリムを受け入れてくれていると感じました。酔っ払った上司にアルコールを無理強いされた時は嫌だったけど、それは宗教関係なく飲めない人にとってはみんな迷惑ですから」

職場の飲み会の様子
職場の飲み会の様子

では、なぜ退職にいたったのだろうか。

「何社か経験して思うのは、日本企業は営業成績などの目に見える結果が評価されやすく、ヒューマンスキルを軽視しすぎている気がします。営業成績が良い人がマネジメントにも長けているとは限らないと思います」

「この会社でも、直属の上司が、リーダーシップスキルに欠けていたことがストレスになりました。彼には日本語のメールを細かくチェックされました。確かに私は日本語ネイティブではありませんから、N1(日本語検定試験1級)を持っていても、日本人のように完璧な日本語のメールを書くことは難しい。でも業務上支障がない程度に意味が通じるなら、それでいいんじゃないかと思ったんですが…一言一句添削されて、神経をすり減らす毎日。地獄でした」

マイクロマネジメントに耐えきれなくなり、1年で離職。転職を決意した瞬間を、今でもはっきりと覚えているという。

「同僚に言われた一言がきっかけです。『せっかく日本にいるんだから、もっと楽しめる仕事を探したら?』と言われて目が覚めました。確かに、毎日がちっとも楽しくなくて、何のために頑張って来たんだろうって」

慣れ親しんだ文化や、愛する家族を離れて日本にやってきた外国人労働者。家族や地縁を持たない彼らは、仕事の内容が自分自身のためになるかどうかという点に対して、日本人よりもシビアとも言えるのかもしれない。人によって仕事を続けるモチベーションは報酬だったりやりがいだったりするのだろうが、イワンさんの場合は「良い時間」だった。

現在はインドネシア企業の日本支社で働いているイワンさん。インドネシアからの技能実習生受け入れのサポートを行っている。新しく日本に来る技能実習生たちに、自らの経験を踏まえてこんなアドバイスをしている。

「文化の違いや言葉の問題で、コミュニケーション不足にならないようにすること。言いたいことや指導内容がうまく伝わらず、誤解して雰囲気が悪くなるケースが多いんです。相手の文化や性格を、お互いに理解するよう努力することが大切だと伝えるようにしています」 

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 「外国人」としてではなく、一人のプロフェッショナルとして見てほしかった 

インド出身のジャスプリートさんは、日本で人文系の修士号を取得後、日本の大学の海外オフィスで、留学アドバイザーとして働いた。上司は海外駐在経験の長い日本人。一緒に働く上で不愉快に感じたのが、上司がインド人に向ける人種差別的な発言だった。

「何かにつけて『インド人の仕事は適当だ』『これだからインド人は…』『インド人のくせに経費が高い』など、ことあるごとにステレオタイプな発言をする人でした。日本人の中には、インドのことを新興国として無意識に見下している人がまだまだ多いのではないかと思います。一人のプロフェッショナルとしてではなく、単なる安い労働力として見られているように感じることが多々ありました」

表向きは「他にやりたいことが出来た」という理由で退職したものの、もし職場環境が違っていれば辞めてはいなかっただろうと、残念そうな顔をのぞかせた。

「留学を志すインドの学生たちに日本の素晴らしさを伝える仕事に、すごくやりがいを感じていました。でも、彼らが実際に日本で勉強して、やっと就職できた時に経験するのが自分のような環境だとしたら、なんだか自分が彼らを騙しているように感じられてしまったんです」

ジャスプリートさんが担当した日本文化紹介イベントの様子
ジャスプリートさんが担当した日本文化紹介イベントの様子

日本が大好きだと語るジャスプリートさんだが、日本は外国人にとって働きやすい国だとは思えないと言う。

「外国人を受け入れる企業や団体にひとつ提案できるとすれば、長期休暇にオプションを増やすことでしょうか。年に1度くらいは故郷に帰り家族の顔を見たい。でも、日本で与えられる休暇は短いですし、それは日本人と同じように自分のために使いたい。それならば、無給で構わないので、年に1度くらい帰省休暇があれば良いのになと思います。もちろん、お金を稼ぎたい人は帰省せずに働けば良いですし」

日本に定着している人は、どこが違うのか?

それでは逆に、外国からやってきて日本企業に定着し、働き続けている人々はどうだろうか。何か秘訣はあるのだろうか?

韓国出身のキムさんはアニメーターとして、日本で10年以上働いている。いわゆる「外国人枠」などではなく、通常の中途採用に大学の卒業制作作品を送って応募。面接を経て採用された。

日本で働き続けられた理由は、「日本人と同じ業務をこなせる語学力に加えて、代わりのきかない専門職としての技術を磨いてきたから」だと振り返る。

さらに会社の人事制度にも魅力を感じており、長くキャリアを続けてこられた要因として以下のような点をあげた。

「弟子と師匠のように、ペアになって後輩を育成する仕組みができていました。会社の方針として『人を育てる』という姿勢があり、5年ほど同じ監督の元で先輩方にみっちりと教えてもらえて、とてもラッキーだったと思います。同期も半数以上、今も同じ業界で働いています」

「アニメーターの仕事では、男女とも、経歴関係なく基本単価が同じです。出来高なので、仕事を早く良い質でこなせる人にはどんどん仕事が集まり、給料も上がります。完全に実力で判断される世界なので、女性だけ男性のサポート役を押し付けられたり、長い経歴の人だけ賃金が高かったりということがなく、公平さを感じられました」

キムさんはふだんも趣味で絵をよく描いている
キムさんはふだんも趣味で絵をよく描いている

オランダ出身のテッドさんは、プログラマーとして日本企業で働いて3年になる。1年間のインターンシップを経て、会社との相性を見極めた上で正式入社したという。

「いちばん助かったのは、何かちょっとしたことを聞ける相手がいること。『インターネットのプロバイダどこがおすすめ?』とか、『日本語の契約書ってどう書けばいいの?』など、ほんのちょっとした疑問なんですが。業務に関係があるなしに関わらず、そういう些細な相談事を誰かに聞けば教えてもらえるというのが、会社に対する信頼関係の構築につながりました。込み入った話の時は、社内通訳もつけてもらえます。一人の人間として、きちんと扱ってくれていると感じられていることが、安心して働ける理由です」

会社が手配してくれた就労ビザは3年間。1年ごとに更新しなければならない外国人が多い中、腰を据えて働けることに感謝していると語ったテッドさん。今のところ、転職は特に考えていないそうだ。

“頼ってもいい相手”がいること。会社が自分に対して、公平だと感じられること。こうしたことは、外国人労働者のみならず、全ての労働者が安心して働くために不可欠な要素とも言えるのではではないだろうか。

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「労働力」ではなく、「一緒に働く仲間」として

2018年に日本の大学・大学院を卒業し、日本国内で就職した留学生の数は約22万人*2。外国人の就労ビザ要件が緩和された2019年、働き手としての外国人への期待は大きく高まっている。

しかし受け入れ企業側にも、価値観や文化の異なる人間を受け入れることに対する、戸惑いや葛藤は当然ながら存在する。人材開発に時間やコストを割くだけの余裕がある大企業とは異なり、中小企業の多くは社員教育にかけられるリソースが少なく、ノウハウも蓄積されていない。

もちろん雇う側からすれば、「郷に入っては郷に従え」と言いたくなる瞬間もあるかもしれない。しかし、「郷に入っては」ということわざ自体、隣国中国から交易を通じて日本にもたらされた知恵だったという事実を、忘れてはならないだろう。

日本は海外から新たな価値観や技術を柔軟に取り入れることで、自国の文化を発展させてきた国なのだ。

外国人労働者が退職していく理由を、ただのワガママだと片付けるのか、それとも、日本人を含む多様な人材が働きやすい職場環境のヒントを得る機会だととらえるか。

少子化による生産人口の減少が不可避であるこれからの日本において、外国人労働者の声に耳を傾け、より良い労働環境へと「カイゼン」していく真摯な姿勢こそが、日本が誇るべき「日本文化」なのではないだろうか。

(インタビューを終えて)

今回、日本で働いている外国出身の人たちに、たくさんの話を聞かせてもらった。記事中では、日本で就労するうえでビザを必要とする立場にある人のことを、便宜上「外国人」と呼称している。しかしインタビューをまとめるうちに、一人一人に「外国人」というレッテルを貼ることや、「彼ら」という代名詞を使うことに対して、メディアに携わる人間として違和感を覚えたことも追記しておきたい。

「外国人/日本人」という対比をしてしまうと、逆にステレオタイプなバイアスを助長しかねないと感じた。この記事の目的は、外国人労働者が日本企業で働いた際に体験した問題点をシェアすることで、雇用主と外国人労働者とのより良い相互理解を促すことであり、記事中で語られた事例は国籍に関係なく起こりうる問題点であるという点を強調したい。

日本が真に国際化し、多様性を重んじる社会になった時、この記事が全く意味をなさないものになることを、切に願っている。

(取材・文:Chiyo Watanabe Kamino/ 編集:南 麻理江)

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