サカナクション・山口一郎&本広克行監督、仲良しすぎる2人に聞く映画と音楽のこれから

普段から交流がある2人。インタビュー中は会話のキャッチボールが絶えませんでした。
本広克行監督(左)、山口一郎さん
本広克行監督(左)、山口一郎さん
Marie Minami / HuffPost Japan

「ロックバンドの夢ってずっとアップデートされていないんですよ。でも、これだけテクノロジーが進化していろいろな聴かれ方をされてるんだから、ロックバンドが抱く夢もアップデートするべきだと思うんですよね」

サカナクションのボーカル・山口一郎さんに今の音楽シーンについて聞くと、こんな答えが返ってきた。

ネットが普及し、多くの人がスマホ片手にコンテンツを楽しむようになった今、時代に合わせて作り手も業界の仕組みも変化するべきだという。『踊る大捜査線』シリーズを手がけた本広克行監督も、ジャンルは違えど、映像界に新しいシステムが必要だと話す。

映画と音楽シーンの最前線に立ち続ける二人はいま、何を考えているのか?数年前に意気投合し、3月21日公開の映画『曇天に笑う』で初めてタッグを組んだ山口さんと本広監督にインタビューした。

——もともとお二人は交流があったとのことですが、出会いのきっかけは?

本広克行監督(以下、本広):片山正通さん(インテリアデザイナー、武蔵野美術大学教授)の紹介で知り合いました。銀座の歌舞伎座で「スーパー歌舞伎」を見て、ご飯食べに行ったんです、野郎たちで。

山口一郎さん(以下、山口):『新宝島』を出したとき(2015年ごろ)ですね。

本広:そこですごい意気投合したんですよ。一郎さんに「映画とか興味ないですか」ってジャブ打ったら、やります、お願いしますって。すぐ即答するんです、いつも。

山口:もっくん(本広監督)のお願いだったら、何でもやりますよ。僕は『お金がない!』(1994年放送、フジテレビ系列のドラマ)の時から、本広監督の大ファンだったので。

織田裕二さん主演で、両親が死んじゃって、年の離れた弟2人を育てながらビジネスマンとして出世していく話なんですけど。もっくんが演出した回があるんですよ。

本広:まだ20代で、バラエティ番組の前説とかをやっていた時代ですね。今見ると、変な構図もたくさんあるんですけど...出世に突き進んでいた織田さんがそれを捨てて、熱を出して苦しんでいる弟のため夜の街をひたすら走るっていうシーンに、感動してくださって。

山口:あの回には、「バランスを取る」工夫みたいなものがすごくあって、大好きだったんですよね。

Marie Minami / HuffPost Japan

——「バランスを取る」とは?

山口:僕は、どんなものでも「バランスを取る」作業の取り方に魅力を感じていて。本広監督ともよくそういう話をします。映画もそうですけど、音楽も、大衆に届けるためにはやっぱりそれなりにバランスを取る工夫が必要じゃないですか。

でも、映画や音楽を好きな人たちって、最初は「美しくて難しいもの」にすごく興味を持つんですよ。その感動を知ってるから、大衆に届ける時に、美しくて難しいまま届けてしまう。けど、それだとなかなか評価もされづらい。そのままアンダーグラウンドにいく人もいるし、振り切ってわかりやすいものを作り続ける人もいるけど、どうバランスを取っていくかは多分センスなのかなと思ってます。自分も常にそれを意識していますし。

『踊る大捜査線』も、バランスを取っていた作品でしたよね。

本広:嬉しいですね。『お金がない!』のその回で、織田裕二さんが僕のことを気に入ってくれて、『踊る大捜査線』で逆指名してくれたんです。繋がってるんですよね。今思うと、すごく大事な回だったんだなと。

——『曇天に笑う』も、明治維新が始まった時代と現代のバランスをとった作品でしたよね。 サカナクションの主題歌「陽炎」の現代風なサウンドも絶妙にマッチしていました。

山口:そうですね。『曇天に笑う』は、漫画作品を実写で描くっていうバランスのところでも、すごく良い違和感のある映画だなと思いました。あと「イケメンしかいないな...」って。(笑)

本広:本当は原作だと女性のキャラもいるんですけど、男の子に変えました。この映画は、できれば多くの女性たちに観てほしいと割り切った部分もあったんですよね。

『曇天に笑う』のワンシーン。主演は福士蒼汰さんだ。
『曇天に笑う』のワンシーン。主演は福士蒼汰さんだ。
(C)2018映画「曇天に笑う」製作委員会、(C)唐々煙/マッグガーデン

山口:だから、僕も気をつけましたもん。アニメ版の主題歌ではちょっとビジュアル系の感じで、僕らみたいな土くさいロックバンドが出てくるのはどうなの、っていう。

「陽炎」でいうと、最後のエンディングで唐突にサビから入ったりすると、作品の世界観を壊しちゃうんですよね。だから、歌詞なしで始まる方がいいかなとも思いました。

本広:ずっと「歌詞なしで」って言ってましたね。僕はいいんですけど、宣伝する人、しんどいだろうなと思って(笑)。

——先ほど山口さんが言っていた、『曇天に笑う』にあった「良い違和感」とは、どういう意味でしょうか?

山口:もっくんにとっての、監督の仕事を続けていくための「ライスワーク」と、生涯をかけて挑むような「ライフワーク」があると思うんですけど、『曇天に笑う』はライスワークになるのかな、とちょっと思ったんですよね。ライフワークというよりは、「自分を外に発信していくための作品作り」という部分で、すごくこだわるみたいな要素が随所にあった。

僕、邦画はあまり見ないんですけど、「こんなのありえないじゃん」みたいな設定って結構ありますよね。現実はあんなにイケメンばっかりいるわけない。

『曇天に笑う』は何度も観たんですけど、もっくんが振り切ってるところと、どうしても切り捨てられなかったところを感じて。ライスワークをやる時のもっくん的な勝負の仕方とか、その葛藤がそのまま作品の味になってるというか、アイデンティティになってる。

僕もミュージシャンとして同じ葛藤を抱いているから、すごく共感できましたね。

本広:ライフワークは、極論、何を言われたっていいんです。数字が出なくても全然気にならないんですけど、ライスワークは正直に言って難しい。ライスワークができる人って、あんまりいないんじゃないかなと思います。

『曇天に笑う』はやっぱり規模的にも、たくさんの人に見てもらわなきゃいけない作品ですし...そういう時は、自分ができる範ちゅうをもっと超えなくてはいけないので、大変でもあります。

原作を頂いた時に、まず「何で俺にオファーがきたのか?」という段階から始まって、どうしたら原作のファンを喜ばせつつ、自分なりの「エンターテインメント」を追求して作れるのか、すごく考えました。

(C)2018映画「曇天に笑う」製作委員会、(C)唐々煙/マッグガーデン

山口:すごく、真面目ですよね。

本広:真面目かもしれない。俺、家のローンを返済し終わったら、「こんな一生懸命働いてんの、バカみてえだな」と思っちゃって。前の会社辞めて、好きなアニメを作って生きていこうと思ってたんですよ。

『PHYCHO-PASS サイコパス』がありがたいことにヒットして、「よしよし」と思ってたら、あまりの俺のぐうたらっぷりにかみさんから「土地を買ったから、この家を売る」と言われまして。「ええ?頑張って返したのに」って。(笑)

山口:めちゃくちゃいい奥さんじゃないですか。感謝しないとですよ。

本広:今思うとそうですね。本当に、借金がないと何にもしなくなっちゃうんです、我々凡人は。表現したいものがなくなったりしちゃうんですよ、結構。

——てっきり監督業が天職で、やりたいこと作りたいものがたくさんあるのかと...。

本広:意外ともうやり尽くしていて。「映画監督20本説」というのがあるんですよ。20本映画を撮ると、どうしていいかわからなくなる、何を撮っても全部同じに見えてくるという。もう17~18本目あたりで、「そろそろ来る」って先輩たちに言われていて。

山口:音楽もそうですね。技術が決まってくるから、ある程度のヒットを出すには自分の焼き直しで正直何とかなる。けどそれだとつまらなくなってくるし、劣化していくじゃないですか。

本広:そうなんです。「自分の焼き直し」って言葉が正確ですね。「こうやればお客さんや評価する人たちが喜ぶだろうな」がわかってくるんですよね。けど、それを気にしてやっているのはすごくバカらしいことなんです。

そんな時にサカナクションの10周年記念のライブ(2017年)を見に行って、ライブでは比較的静かな曲を多く演奏していて、すごく芸術的で。めちゃくちゃかっこいいバンドだな、と思ったんですよね。

Marie Minami / HuffPost Japan

——おふたりには、今の音楽や映画シーンについての考えもぜひ聞きたいのですが。 サブスクリプション・サービス(定額制サービス)が出てきて、コンテンツの楽しみ方は多様化していますよね。

山口:音楽業界は、サブスクリプション・サービスが始まって聴かれ方が変わりましたよね。僕らの世代はCDを買って聴く、iTunesが出てきたばかりの時代は購入してダウンロードしてたけど、今は水道みたく毎月お金払って、好きなだけ音楽を聴ける。

やっぱり聴かれ方が変わることで、作り方も変わってくるんですよね。今は過渡期というか変化するタイミングですよ。それこそ前はCDを売るための「ライスワーク」としてCMのタイアップとかがあったけど、今はそもそもの「広める方法」を考える時代になってきているから。

もっくんも映画でYouTuberに出演してもらっていたじゃないですか。

本広:『亜人』の時、(YouTuberの)HIKAKINさんに出ていただきましたね。

山口:そういった感覚で、音楽を広げるための新しいプロモーションとか、曲の制作方法も変化してる。これから音楽シーンに名前残すには、100万枚200万枚CDを売ることじゃなくて、新しいシステムを作ることが必要なんじゃないかなと。

ロックバンドの夢ってずっとアップデートされていないんですよ。イメージとして、女の子にモテて、いい車乗って、いい家住むみたいな。ロックバンドの夢ってそうじゃないですか。

本広:なんかね、イメージはね。

山口:もう、1970年代から変わってないんですよ。でも、これだけテクノロジーが進化していろいろな聴かれ方をされてるんだから、ロックバンドが抱く夢もアップデートするべきだと思うんですよね。

映画もきっと同じだと思いますよ。4DXって、画期的ですよね。あれは映画館に行かないと観られない。映画館で観る映画と、家で観る映画はこれから分かれていくんじゃないかなと思います。だからこそ、映画館の楽しさをもっと追求していく時代がきてる。

本広:そうですね。昔は、そんなに家のテレビも大きくなかったけど、今は結構でかいし画質も綺麗で。もしかしたら映画館で観るスクリーンと家のテレビの大画面はそんなに変わらないんじゃないかって、僕は思ったりします。映像業界は4Kの時代に入ってるので、お客さんが体験できる感度という意味では、すごく考えてますね。

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Oktay Ortakcioglu via Getty Images

でも、映像業界は落ち込んでいますけど、僕から見ると全然いいんです。そこにチャンスがありますから。落ちているところに新しい仕組みを持っていくと、ドンと上がるんです。

山口:僕もそういうことはよく考えています。僕らのファンクラブの中でドラマとかをやりたい。

僕らの曲のタイトルがそのままドラマになって、YouTuberの動画みたく、週に何回か分けて流したいんですよ。中の音楽も全部僕らがやるし、主題歌もやるんです。その曲はまだリリースされてないの。ファンサイトの中だけで見られるコンテンツを作るわけです。

——ファンのコミュニティを作っていく、醸成していくみたいなイメージでしょうか。

山口:そう。血を濃くする作業なんですよ。だから、ファンクラブというよりか、すごくコアなファンにパトロンになってもらうシステムでもあるかもしれない。

——岡崎体育さんが最近、より多くお金を使ってくれたファンに「+α」のサービスを受けられるファンクラブのシステムを導入すると発表して、話題になりました。

山口:僕はあれ、賛成です。彼としては少しギャグ的な側面もあったかもしれないですけど、日本では早すぎたのか、やり方を受け入れられない人がいたということだと思う。

本広:早すぎるとダメというのはあるかもしれないですね。でも、だんだん広がっていくと思いますよ。日本人は真似をするのが非常にうまいんです。真似して、徐々に広がっていって、ちょっと熟したところに新しいシステムがハマると、一気に爆発するんですよ。

——映像業界では、Netflixなどの動画配信サービスも出てきています。

本広:Netflixによってアニメは世界に行ける可能性が広がっていますけど、長い間日本だけで勝負をし続けた実写に関しては、僕は慎重な見方をしています。

自分が所属しているプロダクションI.G.はNetflixと包括的業務提携を結んだんですけど、オリジナルアニメの『B: The Beginning』はめちゃくちゃおもしろいですよ。本当に作家が作りたいものを作ってるんです。なるべく外野の声が入らないようにプロデューサーが守ってるのもあって、すごくおもしろい。

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山口:そういう方が、やっぱりおもしろいですよね。

本広:そう。今からこの時代に入るんだなと思いました。一郎さんはこの考えでしょう? サカナクションは、絶対にもっともっと面白くなるなと思います。

ただ、あんまり早くやりすぎるといろんな職業がなくなってしまうという側面もあるんですよね。例えば、デジタルカメラがどんどん進化して、フィルム会社が潰れたじゃないですか。そういうことです。デジタルが進化していろいろな技術がいらなくなって、失業してしまう人が出てきてしまう。

みんな家族を抱えているので、僕は少しずつ変化させていくほうがいいと思いますね。新しいシステムを取り入れながらどうバランスを取って、杭を出していくか。そこが大事だと思っています。

Marie Minami / HuffPost Japan

山口一郎さん プロフィール

1980年北海道生まれ。ロックバンド・サカナクションのボーカリスト兼ギタリスト。2005年にサカナクションとしての活動をスタートし、07年にアルバム『GO TO THE FUTURE』でメジャーデビュー。デビュー11周年となる今年は、3月末に発売したベストアルバム『魚図鑑』を含む3作品連続リリースなど、精力的な活動が行われる。

本広克行監督 プロフィール

1965年生まれ。CM、深夜番組、情報バラエティ、ドラマ、ドキュメンタリー番組の制作や演出を担当後、映画『7月7日、晴れ』(96)にて劇場デビュー。『踊る大捜査線』シリーズ(98~12)、『サマータイムマシン・ブルース』(05)、『UDON』(06)、『亜人』(17)等、数々の作品を手掛ける。近年ではAKB48「Everyday、カチューシャ」(12)PV、「攻殻機動隊ARISE border:less project」(14)プロジェクト・プロデューサー、『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』総監督、2013年より「さぬき映画祭」ディレクターと活躍は多岐に渡る。

『曇天に笑う』作品情報

出演:福士蒼汰、中山優馬、古川雄輝、桐山漣、大東駿介、小関裕太、市川知宏、加治将樹、若山耀人

池田純矢、若葉竜也、奥野瑛太/東山紀之

原作:唐々煙「曇天に笑う」(マッグガーデン刊)全6巻+外伝

監督:本広克行

脚本:高橋悠也

音楽:菅野祐悟

主題歌:「陽炎」サカナクション(NF Records/ビクターエンタテインメント)

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