LGBTQIA+コミュニティーを祝福するイベントが世界各地でおこなわれる、6月のPride Month(プライド月間)。「H&M」は毎年さまざまなコレクションやキャンペーンを発表してきた。
2022年のテーマは「Chosen Family ─私が選んだ家族」。
“Chosen Family”という言葉から、どんな家族、関係性をイメージするだろうか?
『クィア・アイ in Japan!』(2019年、Netflix)に出演した性的マイノリティ当事者・Kanさんは、イギリス人パートナーのTomさんと昨年イギリスで結婚し、現地で生活を送る。
Chosen Familyを築く彼は「僕とTomはソウルメイトであり、大切な家族なんです。家族の形がもっとゆるやかで、多様なものになったら」と話す。
今回は、キャンペーンをリードするH&MのBuntaさんと、Kanさんの対談が実現した。
わたしが「選ぶ」家族のカタチ
Chosen Familyとは、血の繋がりに関わらず、お互いを支え合い愛することを選んだ人たちで成り立つコミュニティのことです。何があってもそばにいて、誰を愛そうと、ありのままの自分を受け入れてくれる存在です。
── H&M 2022年プライドキャンペーン「Chosen Family ─ 私の選んだ家族」より
Bunta:H&Mは2020年から、I&D(インクルージョン&ダイバーシティ)の取り組みを一層強化してきました。6月のプライド月間に合わせたキャンペーンも、昨年からはコレクションの販売をやめて、メッセージにフォーカスしています。
LGBTQIA+当事者でも、レインボーカラーの洋服やグッズを手に取れない人もいます。コミュニティにはさまざまな人がいると思うので、LGBTQIA+の方々が安心して過ごすことができ、一人でも多くの人がどんな個性や自分らしさも受け入れるきっかけを作れるような、本質的なメッセージの発信へと方針を変えました。
今年のテーマは「Chosen Family」。Kanさんは、この言葉からどんなイメージを持ちますか?
Kan:実は、『Chosen Family』(Rina Sawayama)は僕とTomが大好きな曲。社会的に“存在しない”ことにされていたり、法的な保障がなかったりするLGBTQIA+に捧げられた曲で、僕たちの結婚式でも流したんです。
僕にとってのChosen Familyって、同じ志を持っていたり、何かあった時にサポートできたりする関係。僕とTomもまさにそんな関係で、ソウルメイトであり、大切な家族。Rinaさんの『Chosen Family』は、特にLGBTQIA+当事者に向けた曲ですが、そうでなくても、Chosen Familyと呼べる存在がいる人って多いんじゃないかなと思います。
Bunta:自分もLGBTQIA+の当事者ですが、友人や同僚には彼の話をオープンにしています。ただ、一部の家族にはまだ打ち明けられていなくて...。カミングアウトだけが正解ではありませんが、「隠す」ことに苦しさを感じている人は、まだまだ少なくありません。
このChosen Familyという言葉がもっと広まって、みんなが多様な家族の形、関係性を受け入れられる環境になったらな、というのが理想なんです。
Kan:「家族」の定義は、これからもっとゆるやかで、多様なものになっていくべきだと思います。その中で、「家族」という関係になることを望んだ人たちが、法的に守られたり、保障されたりする仕組みが必要ですよね。
僕らはイギリスで結婚するという選択をしましたが、それは日本で叶わなかったから。日本ではまだ同性婚が実現されておらず、自治体によっては同性パートナーシップ制度を設けている地域もありますが、法的効力は持ちません。
現在生活を送っているロンドンでは、2014年から同性婚を認める法律が施行されており、同じ境遇の国際カップルが多い印象です。そういう人たちが集まってコミュニティを築いて発信し、同性婚が法制化されているという点では、当事者にとって心強い環境です。
Tom:ロンドンのLGBTQIA+コミュニティの中にも、人種、ジェンダー、経済状況...さまざまなバックグラウンドを持った人たちがいます。それぞれ状況は異なるので、一人でも多くの人ができる範囲で自分の経験を話し、意思表明することが大切。それは、イギリスでも日本でも同じことだと思います。
Chosen Familyの裏にあるストーリー
Bunta:僕も最近、彼と同棲を始めたんですが、家探しにはなかなか苦戦しました。「LGBTQフレンドリー」と書いてある不動産屋さんに依頼をしても、大家さんから断られてしまって。きっとみんなが100の選択肢を持っているとしたら、同性カップルというだけで選択肢が1になってしまっているんだろうなって。
身近にこういう状況の人がいないと、なかなか話を聞く機会がないですよね。H&Mはグローバル規模で展開しているブランドだからこそ、より多くの人に発信できる強みがあります。自分の経験も、Kanさん、Tomさんの思いも...。さまざまな状況があることを理解し、メッセージを発信していきたいと思っています。
今回のキャンペーンでは、イギリス、南アフリカ、スペインの3カップルをChosen Familyのアイコンとして紹介しています。
南アフリカのThe Angels(Angelファミリー)は、ダンスフロアで出会い、一目惚れをし合った4人。イギリスのThe Dreamers(Dreamerファミリー)は活動家、作家、クリエイターで構成される4人家族。それぞれのストーリーを通して、家族の形が非常に多様で、寛容であることを伝えています。
Kan:Chosen Familyって、とても「レジリエンス」── しなやかな関係性ですよね。
今、ロンドンでは4世帯からなる小さなアパートに住んでいるのですが、Tomが1階の住民とすごく仲が良いんです。食材のお裾分けをしたり、DIYを手伝いに行ったり。ゆるくつながっていて、協力し合って暮らしているこの感じが、僕が考えるChosen Familyのイメージと近いかなと思います。
昨日、古くからの友達と「僕たちは付き合いが長いから、友達というより、もう家族だよね」なんて会話をしたのを思い出して。それもChosen Familyなのかな?
僕がTomと結婚した一番の理由は、日本とイギリスの遠距離恋愛を終えて再会し、一緒に住むため。法的にサポートされているのはもちろん大切なことだけど、実は「結婚」という形には縛られたくなかったんです。
「僕たち結婚しているから...」ではなくて、「僕たち二人だから、こうしよう」。その結果、結婚を選んだ、という感覚でいます。
Tom:イギリスには、婚姻せずとも配偶者の法的権利を認める「シビル・パートナーシップ制度」もあります。これは、同性カップルのために作られた制度でしたが、現在は異性カップルも選択することができます。
さらにイギリスでは個人でも、結婚したカップルでも、自分たちの姓名を自由に決めることができるので、家族や親子であっても名字が違うということも。
個々が思っているChosen Familyの形がたくさんある。状況は人それぞれ違うので、自分にとってベストな「家族」のあり方を選べる世界になってほしいですね。
家族の形を、誰もが選択できる世界へ
Bunta:選択肢にあふれたイギリスでの生活がうらやましいなと思う一方で、困っている人たちのために助け合い、支え合えるコミュニティをもっと増やしていきたいと、改めて思いました。
いろんなファミリーの形があっていいんだよ、世界にはこんなにたくさんの選択肢があるんだよ、ということを、LGBTQIA+コミュニティの方々だけでなく、この記事を読んだ方々にも、ぜひ知ってほしいです。そして、たくさんの人が「選択」をできる社会になるようにサポートしてほしいなと思います。
僕も、実はLGBTQIA+であることを絶対にカミングアウトしない、なんて思っていた時期がありました。でもこの会社に入って、ありのままの僕を受け入れ、サポートしてくれる同僚しかいない環境で働く中、「彼とデートしてね...」なんて会話をできるようになった時に、大きな扉が一つ開いた感じがして肩の荷がふっと降りたんです。そんなコミュニティが日本にも増えていったら、もっと大きな変化が起こせるのかな、なんて思っています。
Kan:今回、Buntaさんがご自身の経験、思いを話してくれたように、企業の“中の人”が、世の中を変えていきたいと強く思って動いていることがとてもうれしいです。僕たちと同じ思い、同じ苦しみも持って、社会や世界を変えていこうと歩んでいることが本当に心強いなって。
世界中の誰もが、自分たちらしいChosen Familyを選択できる社会になるよう、僕たちもともに歩んでいきます。
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H&Mは2022年のプライド月間に合わせ、世界中で「Chosen Family ─私の選んだ家族」を展開しています。
それぞれが思い描く「家族」のカタチを伝える、3組のChosen Familyのストーリーはこちらから。
(Interview&Writing:Julie Fukuhara / Photo:Jun Tsuboike)