神宮外苑再開発に「全員がショックを受けた」イコモスが樹木伐採や高層ビル建築の問題点を語る

「世界の主要都市で、こういう開発が行われるというのは聞いたことがありません」。ヘリテージアラートを出したイコモスの専門家が、神宮外苑再開発の問題点を説明した

「全員がショックを受けました」

東京・明治神宮外苑の再開発に対して「遺産危機警告(ヘリテージアラート)」を出したイコモスの専門家らが9月15日、記者会見を開き、この計画が世界の専門家にどれほど驚きを持って受け止められたかを語った。

イコモスは、ユネスコの世界遺産に関する諮問委員会で、世界約130カ国が参加する国際NGOだ。

ヘリテージアラートは危機的な状況に直面する文化的資産に対して出される警告で、イコモスが学術的観点から問題を指摘し、保全と継承に向けた解決策を促進する。

15日の記者会見には、世界イコモス国際学術委員会・文化的景観委員長でアマースト大学教授のエリザベス・ブラベック氏がリモート参加し、文化遺産保護に携わる専門家たちが何を問題と受け止めたのかについて語った。

日本記者クラブで開かれた会見にオンラインで参加した、世界イコモス国際学術委員会・文化的景観委員長のエリザベス・ブラベック氏
日本記者クラブで開かれた会見にオンラインで参加した、世界イコモス国際学術委員会・文化的景観委員長のエリザベス・ブラベック氏
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なぜ専門家たちはショックを受けたのか

神宮外苑の再開発では、3.4ヘクタールを都市計画公園の指定から除外し、そのエリアに高層ビルを建築。さらに、神宮球場と秩父宮ラグビー場を取り壊し、場所を入れ替えて新設する。

それに伴い、神宮外苑の3000本もの低木や100年の歴史ある樹木が伐採される。

ブラベック氏は、公園に高層ビルを建てるという計画を伝えられた時、「全員がショックを受けた」と語った。

「東京のような世界の主要都市で、こういう開発が行われるというのは聞いたことがありません。そもそも都市の公園は大きく不足しています。その公園の土地を、再開発事業に回すという事例は知りません」

都市の公園は、人々の憩いの場であると同時に、ヒートアイランド現象を抑える効果や、豊かな生態系の維持、災害発生時の避難場所など、さまざまな機能をあわせ持つ。

ブラベック氏は「今、世界全体は気候変動に苦しんでおり、都市の開かれた空間の保全の重要性がますます認識されています。その中で、遺産とも呼ばれるような貴重な都市の森が失われるということになりかねない」と警鐘を鳴らす。

ブラベック氏は4列のいちょう並木についても、新しい野球場が建設されることで、日照や水の流れが変化し、いちょうに負荷がかかるだろうと訴えた。

再開発の事業者は、樹木を伐採するものの新たに植樹することで木の数は増えるとしている。

しかしブラベック氏は、「新たに植林をしても、100年かけて作られた現在の成熟した森とは同じものにはなりません。ヒートアイランド現象対策や生態系維持の面でも、新たな植林で置き換えられるものではありません」と述べた。

(左から)記者会見に参加した、日本イコモス国内委員会の石川幹子氏と岡田保良氏、衆議院議員の篠原孝氏と阿部知子氏、ブラベック氏
(左から)記者会見に参加した、日本イコモス国内委員会の石川幹子氏と岡田保良氏、衆議院議員の篠原孝氏と阿部知子氏、ブラベック氏
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民主主義的な進め方を求める

イコモスはヘリテージアラートで、市民との適切な対話がないままに再開発計画が進められている点も問題視している。

神宮外苑の再開発に対して、多くの市民や専門家、著名人らが見直しを求める声をあげている。そういった中で、東京都の小池百合子知事は2月に事業を認可した。

ブラベック氏は「民主主義社会では意思決定に一般市民が参加するものだ」と指摘。

「(神宮外苑再開発でも)民主主義の原則を尊重して、情報を広く国民に提供し、さまざまな関係者が議論に寄与できる形での対話の場を設けていただければ」と語った。

神宮外苑は、約100年前に市民からの献金や献木、ボランティア活動によって作られた。

ブラベック氏はこの歴史的背景について「市民が資金を持ち寄り、時間と労力をかけて作り上げた公園はまったくないとは言いませんが、異例だと思います。特にこれほど規模の大都市の公園が、そのような形で作られたというのは非常に珍しい」とその価値を評価。

「そこで再開発をすれば、公園の物理的な遺産だけではなく市民の努力も失われることになり、膨大な遺産としての価値の喪失になる」と述べた。

神宮外苑
神宮外苑
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SDGsを順守しているかを問われる

神宮外苑再開発では、三井不動産と伊藤忠商事、明治神宮、日本スポーツ振興センターが事業者になっている。その中で、三井不動産や伊藤忠商事は、企業理念にSDGsや環境重視を謳っている。

ブラベック氏は「ヘリテージアラートに法律や国際条約のような拘束力はない」としつつ、この警告が出された文化的資産を保護しないような行動は「SDGsに反する行動になるだろう」とも述べた。

「少なくとも、企業にとっては本当にSDGsを順守しているのか、それとも単にPRに過ぎないのかという疑問が突きつけられるのではないでしょうか」

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